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第82話 私……妹、やめたいんです





 意を決した澄美怜すみれは部屋へと深優人みゆとを呼び出した。


「お兄さん、話しがある……」


 逡巡しながらも切り出す為に自分に言い聞かせる澄美怜すみれ


 ……ゴメンね、今からあなたを苦しめることに成るけど、頑張って乗り越えようね。私だって辛いんだよ。でもね、こうするしか無いの……。



「妹に戻してもらってまだそんなに経っていないのだけど、ちょっと思う所があって……私……妹、やめたいんです」


「じゃあ……付き合うって事に? 恋人になれるんだね!」


 毅然と首を横にふる澄美怜。


「もし恋人だと言うなら私の事、どう思ってますか?」


「勿論―――愛してる」


「愛してる……やっぱりそう……日記の通りなんですね。 私、凄く読み込んだんです。嘗ての澄美怜すみれに戻る為に……。そして過去の私はもっと大切にしていた事がある。恋人として……好きだと言って欲しがってた」


「いや、だって君の事が何より大事で、だから守り続ける約束をして……。その上、命をかけて俺を救ってくれた……だから、恋愛感情以上にキミの命を優先して…」


「そんなの理屈です。日記の中の澄美怜すみれだって……『あの日の約束』で貴方を愛することに決めてた。だからこそ生きることを選んだ。

 でも、恋人である事を望んでからは、そんな理屈、どうだって良いから『好きだ』という気持ちを大切にした。それが単なる感情?」


「でも恋愛感情は壊れやすいのも確かだと思う」


「好きだったら愛せない訳じゃない! 愛してたって好きでいられる! だから愛してるなんて言わなくたって勝手にそれが行動に出るんです。命を張った澄美怜すみれのように……」


「……」


「それより恋人として好きだと言うことに理屈なんて無いんです! あなたしか居ない。ただその思いのために、妹なのにと言う後ろめたさにどれだけ甘んじようとも貴方だけを見ていた」


「……いや、俺だって本当は……」


「でも、それを口にする覚悟までは無かった。確かに好き、嫌いという紙一重の感情とか、一時的な想いより深い愛の方が相手を思いやる気持ちとしては上回ることも多いかも知れない。

 でも、その時々で本当に必要なものを与えるのが真の愛なら、澄美怜すみれのように好きだと伝える努力こそが愛になる事だって有るんです!」


「伝える努力……」


「その紙一重の感情を壊さず貫き通すことも愛なんじゃないんですか?! それを口に出来ない覚悟しか無かった……それだけのこと」


「俺が間違ってた?……言ってあげれば良かった?……」


「相手が真に望んでるなら。自分の中の正義なんて……望まれてなければ何の意味もない。そんなこだわりはあなたのためにあると……そう見えていたかも知れない」


「俺は自分が可愛くてそうしてたと?……そんなつもりは……」



 ……けど、そうなのか?……


 もし一時の感情に身を置こうとも……互いに退け合うようなぶつかり合いや避け会う事が有ろうとも、それでも愛する覚悟が有ったなら言ってやれたのかも知れない……。


 そしたらあの子はきっとあんなにも思い詰めなくて済んだ……。もっと幸せな気持ちで居られた……。そしたら症状も酷くならなかった……。


 そして、日頃から思い詰めてなければ事件の時も俺の為に飛び込まずに済んだのかも……。


 くっ……結局、俺が前世のトラウマの殻を破れずに勝手に澄美怜すみれのためだと理屈をねてただけだったのか……?





「俺がその一言を言えなかったばっかりに……」


「……でもそれは無理強いして得るものじゃないから……だからもういいです……それが出来なかったあなたには……澄美怜すみれの心までは……守れなかったんです」


 淡々と言われた分だけ心臓を抉られる思いの深優人みゆと


「……それは……」


 もう言い返せる余地は無かった。


「そしてやっぱり、これも無理だった……妹も」

「え……? 何?……どうして?」


「日記を読む内に思ったの。本気で気持ちもぶつけてくれないような人に距離を感じて……所詮血の繋がりもないし……血縁を疑ってなかった頃の妹、という設定をそうでない自分が演じるのはやっぱり違和感があるの……。せめて記憶が戻っていれば違うんだと思うけど……結局この設定を演じてるだけって事にどうしても気持ちがついていかなくて」


「……」


「だから、『友達』でならいいよ……会う頻度も減らしてもらって」


「そんな……それじゃ何かあったら……」


「あの件なら大丈夫。……お母さんと相談して抗不安薬もまた試す事にしたから」


「でも子供の頃に試して、あまり良くなくて結局俺が……あれはきっと良くない…」





「今は違うかも知れないじゃないっっっ! 」





 余りの剣幕に目を丸くする深優人みゆと


「……すみ……れ?」


「あ、ああゴ、ゴメン……、つい、これからもっと頑張らなくちゃって気合いが入り過ぎちゃって……ハハ……」


「……何かおかしいぞ。本当は別に言いたい事が……」


 マズイ! 鋭いこの人にツッコまれたら……





「もしっ!……もし拒むなら―――

 ……友達にもならないからっ!」





 沈黙する二人。迂闊に出来ず慎重になる深優人みゆとは、


 ……そんな一方的過ぎる。……けど、今は条件を飲まなければ……本気で全て関係を絶たれるだろう……


 かつて誓いに背くなら死ぬから――と脅迫された事を思い出す深優人みゆと。 こんな時の澄美怜すみれは絶対に引かない事を知っていた。


 ……こんな状況だから浮き沈みは仕方ないか。ここは根気よく行かないと、それこそ修復不可能に……



 悩んだ挙げ句、深優人みゆとはその条件を受け入れた。今は首の皮一枚、友人として関係を繋いだのだった。






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