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第41話 ―――そこで別れを告げよう





 薊と澄美怜すみれの二人だけで出掛ける。


 1年以上続いた冷戦は終わり、また楽しく友達関係に戻った。服を見たり、スイーツに、オタク趣味にとやっぱり実は気が合う二人。


 深優人みゆとの話になっても牽制し合う事もなく、不満に共感したりして共通の話題になった。


 女子同士でしか楽しめない事もこのコンビだと楽しい。最初からそうだった。恋は恐ろしい。こんな仲良しを敵に変えてしまっていたのだから。


 今、二人は思いやりを分かち合う事で得たいものがここにあると思えた。そうして楽しい数ヶ月が過ぎ、中学~高校という一生の友が出来る人生の輝かしい季節を再び共にした。


 しかし運命は時に皮肉なもの。薊は親の転勤で再び九州へ戻らなければ、と残念そうに澄美怜に告げた。


 薊の父親の急な配置転換。おそらくここへはもう戻らないだろうと言う。そして社会人でもない自分に遠距離恋愛も無理だと分かっていた。


 せめて残された期間は精一杯大好きだった深優人みゆととの思い出を残そうと決めた。残りの期間にまだ行けてなかった横浜の名所を出来るだけ二人でまわった。



 そして最終日、選んだのは湘南の海だった。



 二人の好きなアニメやドラマでもよくロケで使われた、以前澄美怜が教えてくれた思い出の海岸。三人で遊んだ由比ヶ浜。


―――そこで別れを告げよう。



  *



 その日、日も暮れかけ空は蒼とオレンジの二層、微かに風が通り抜けて潮の匂いを運ぶ。


 出逢った日からの思い出話に花を咲かせながら波打ち際を延々と歩き、やがて無言となった。真顔で切り出す薊。


深優人みゆと。私、いつも振り回してばかりでごめんね。凄く凄く振り向いて欲しかったから、一杯まとわりついてウザかったろうけど……もう出来なくなるから許して。妹さんの事で信じてあげられなかった事とかも。本当は咎められるべきは私だったんだよね」


「そんな事ない、あの時、俺が薊の気持ちをちゃんと守ってやれなかっただけ」


「ううん、深優人みゆとは誠実だった。このお別れはそんな私への罰かもね」


「善い事しかしてないよ……妹とのすれ違い、薊のお陰で戻れたって澄美怜すみれから聞いた」


「ああ、あれはカツを入れてあげただけ。半分は自分のためだよ。だってあの時の深優人、私の事なんかまるで上の空だったし」


「うん、あれは俺がおかしかった。ごめん……」


「ううん。もう済んだ事」


 砂浜に置いた目線をおもむろに空へと移し、


「……あーっ。私の初恋、そして横浜での3年間……最っ高に楽しかったなー。でも、これから色々変わって行っちゃうね」


「俺は……寂しいよ」


「こんな私と付き合ってくれて、短かったけど私の最初で最高の彼氏を続けてくれてありがとう。そしてずっと元気でね。妹さん大切にね」


「あ、あざみ…… (本当に……いい子だったな……)」


「私、ホントに大好きだったよ」


 そう言って背の低い薊は荷物を砂浜に落とし、空いた両手で深優人の顔をたぐり寄せ、背伸びをして口付けを息が続くまで交わした。


 泣いている二人の頬を夕日が真赤に照らし、日が落ちるまで抱擁し続けた。




  **




 翌日の空港―――


 予告のない見送りに丸い目の薊。


「薊さん!」


「スミレ! 来てくれたの? わざわざ。フフ、もしや……最期にもう一回ケンカでもしとくぅ?」


「クスッ、何ですか、それ。……でももっとしたかった」


 ……そうね。3年間、人生で一番変わってく時期にお互い競い合って、意識して……喧嘩するほど仲がいいって言うしね。



「うん、同じ人を好きになって競ってたのは共通の趣味で話しが盛り上がってたのと同じ。スミレと価値観が近かったって事だよね」


「うん。本当は仲良かったし。戻れて嬉しかった……」


「そうだね。……あ、そうだ、この際ついでだから全ての薊の名誉の為に言っとくけど、花言葉は『独立、厳格、高潔』もあんだからね!」


「クスッ、……知ってた。ゴメンね。でも今はそっちの方が相応しいって本当に思ってる」


「今頃~? フフ。でもね、スミレのお陰で深優人と仲良くなれた。じゃなきゃ多分ずっと片思いのままだったろうし……踏み出せた事、感謝しなきゃだね」


「それは私もです……」


「……ああ――っ、あっという間だったね。寂しくなるよ」


 それを耳にして心の中で愚痴る澄美怜すみれ


 ……この場面でそんなセリフ、反則だよ、だって目から勝手に……。


「泣き虫だねー。な~に、別に一生会えなくなるとかじゃないしメールもするからさ。またいっぱい話そう!」



「そんな優しく言われたら……はぐっ……」








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