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第39話 全て話します……兄の名誉の為に




 デート中の深優人のスマホに入ったSOS。そして突然の中断に薊の心はズタズタになった。


 翌日から登校も別、クラス内でも深優人みゆとを完全無視のあざみ


 家では何かに困り果てている兄を心配する澄美怜すみれ。あの薊が登校時も姿を現さない事から異常を察知した澄美怜は、兄を問い詰めて事情を知り行動をとった。


 兄とのやり直しのきっかけを作ってくれた薊の叱咤激励。それに恩を感じていたことが澄美怜すみれを突き動かした。



  *



『どうしても話しがあるの』


 下校途中の薊を見つけ、人通りの少ないとある大橋へと誘った澄美怜すみれ


「本当にごめんなさい。あの時の兄は悪くないんです」


「何よ、関係無いでしょ 」

「でも……あの日は……」


「そもそも何なのよ! なんであなたがそんなに深優人みゆとにとって特別なのよっ?! 」


「ちがうの! 兄は私を守ってくれているだけで…… 」


「何を守るって言うの? 彼女って言ってくれた存在を……あんなに確かなキスだってしてくれたのに……全て放り出してあなたの所へ飛んで行った……」


「ホントにごめんなさい。でもわざと邪魔したとかじゃない……です。信じて」

「信じれるわけないっ!」


「それでも兄は悪くなくて、とても悩んでるんです」

「当然よ。だって有り得ない。私は本当に真摯に向き合った……でも足げにされた……」


「違うんです、兄は仕方なく」

「もういいっ!……あんたなんか……あんたなんか妹のくせに!……どこまで行ってもそれ以上になれない存在なのにーっ!」


 はっ、として、口に手をやる薊。今迄見せたことのない形相の澄美怜すみれ


「……それだけは……それだけは絶対に……それを言うんですね」


 傷の癒えぬ内にまともに塩を塗りつけられて。

 どこまでも血が登る澄美怜すみれ


「う……ごめん、だって……でもそうでしょ、あなただっておかしいと思わないの? あなたが度を越してるのは更さらだけど、深優人みゆとまであんなのって、おかし過ぎるでしょっ!! 」


「……おかしい?……何も知らないで。冗談じゃない……私はどう言われたって構わない。でもあの人を悪く言うのは許さない!」


 澄美怜すみれらしからぬ剣幕に何か裏があるのかと訝しむ薊。事情を探るように、


「……今さら正しかったとでも?」

「そうよ! ……どれだけあの人は……なのにそんな言い方……だったら薊さん、聞いてっっ!! 」


――その慄然とした叫び。その初めての澄美怜すみれの勢いに薊は怯える様に硬直した。


「もし一生を共にすると信じて来た最愛の人が、後から偶然兄妹関係と知ったら、薊さん、離れられるの? 例えば、あなたが実はあの人と兄妹だと『たった今』知ったらハイそうですかとすぐ諦められますか? ……私は、昔から……。結ばれない存在と知る前から、かけがえのない人だった。後から知っただけなのに……うう……ズズッ」


「なんであなたが泣くの? それが彼の正しさと何の関係が有るの?……もう何が何だか分からない。だけど今の話、もし私が兄妹なら、確かに諦められないって思うよ。けど今回の深優人みゆとがあなたを追った理由とどう繋がるの?

  もしちゃんと話すなら私、聞くけど。何かつらい事情があるって事なの? だって深優人は……訳は言えないって言ってた……」


「!―――やっぱり……そう……ですか。……なら、全て話します……兄の名誉の為に……」


 澄美怜すみれは自分の中の闇とパニック障害の様なものを話した。



 兄のだけがそれを鎮められるという事、それ故にどんな時でも妹を守る約束に至った事を。



 そしてもし深優人みゆとが誰かのものになる、失う、という事がどんな結果になるのかも。

 そして以前幾度か、兄の居ない所で発作が出て、てんかんのような激しい痙攣により危ない所まで行きかけた事、薬の弊害で自棄衝動が酷くなった事、最近もその症状で病院送りになってしまった事も。


 今までの長い付き合いから、澄美怜すみれの言葉を信じた薊。



「そっか……そうなんだ……命にかかわる事だったんだ……皆イノセントなんだね………」


 薊は今迄の謎が全て分かり腑に落ちた。そして良き理解者となった。


「私、あなたへの特別扱いにただ嫉妬してた。ホント浅はかだよね……ごめんね」









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