デートの最中、薊の服選びに付き合う
「ねえ、男の人ってこんなの同伴してても楽しめないでしょ、ゴメンネ。でもちゃんと付き合ってくれて凄く嬉しかった。決めるのに意見もらえたお陰でこれも買えたし」
「俺の意見なんかで良かったのかな。まあ、試着待つのは慣れてるから。いも…」
そこで口をつぐむ
うつむき気味の薊の顔に影が落ちている。
あ―もう限界。どこか雰囲気いい所へ行った時とかって思ってたけど、もうそんなのムリだ。今直ぐにハッキリさせたい。この先のためにも勇気を出すんだ!
薊は立ち止まり、おもむろに振り返った。
「私ね、
「……え、とても大事な人だよ」
「人? 友達って意味で? やっぱり女の子としては、見てくれないんだ」
「そんな事ない。さっき、俺から手をつないだの覚えてないの?」
切返しの上手い
「少し外の空気を吸いたい。ちょっと屋上へ行こ。……ね」
「え…ああ、いいよ」
*
外は気持ちいい快晴だった。人目のつかぬ換気塔の裏へ回りフェンスを背に振り返った。
「さっきの……大事な人って何かな。そう言う抽象的なのじゃなくて、私って具体的に
「それは……なんと言うか、最高のガールフレンド……かな?」
またそんな言い方を! とばかり鋭い眼差し。きっ……と唇を結んだ。そして、
「なら一度、
「あの子とはそんなんじゃない。自分でもどうかと思うほど妹として萌える事あってもそれはそれ」
ある意味、それは真実ではない。しかし公言する事で自分に対しても事実化しようと必死な
「でもあの子には俺が末だ凄く必要な事には変わりない」
「……まだ必要? だってこんなに『気が合うねっ』ていってくれるのに、その私が単なるフレンドで、あの子は特別な関係…… すごく必要って何? 」
「それは……事情あって言えない」
「人に言えない兄妹関係って……一体何なの―っ!…… 」
つい語気が荒くなり、気付いて改める。
「……ごめん。
「違うよ。誤解があるようだからこの際ハッキリさせとくけど、今言える事があるとしたら、妹は本当に妹なんだ。そして君が望んでくれるなら君は俺の彼女で俺は彼氏。……それでいいかな?」
「ホント? ホントにホント? 信じていい?」
「もちろん。俺だって薊のこと ―――好きだよ」
それを耳にした途端、瞳の輝きがゆらり、と揺らめいて潤む。切なく眉が寄せられた。
それなら……と、深優人に向かって僅かに唇を差し出す。溶けそうな目つきになる薊。
察した
そして二人は熱く顔を重ねた。暫く抱擁し、その間は言葉は要らなかった。
―――この3年越しの想いが遂に成就したんだ!!
初めて会ってときめいたあの日の事、学校での沢山の思い出、いつも熱く語りあった趣味の事、初デートは家に帰ってから火照りが全く冷めなかった……
そして今日の事―――
普段は能天気なポジティブ系妹キャラだけど本当は単なる乙女。生きてる事が、息してるだけでもこんなにも嬉しくて。 何か訳の分からない力が泉の様に湧いてきて……
薊はこの時間が永遠に続いて欲しいと願った。
*
その後、その余韻に浸って二人の時間を堪能した後、徒然なるままにウィンドウショッピングを楽しんだ。
「ああ、なんかお腹空いてきちゃったね。食べてから帰ろっか」
すでに腕組みで歩くようになった二人。 薊は抱いた腕に頭を持たれかけて幸せに浸る。
夕食は何がいい? と、好きなものを物色し始める。
ピコーン。
そこへ
そして先日の一連の一件を思い出した。色々納得はしてくれたものの、まだショックは相当残っている筈。その反動を甘く考える訳には……それこそ今度こそ命に関わり兼ねないと。
故に、発作だけは避けねば……と気が焦る。だがこんな事情、『癒しの力』なんて言ったら気でもおかしくなったと思われ兼ねない。
これを説明する方が時間ばかり費やして最悪を招くと判断。どれ程
「ごめん、どうしても行かないと」
申し訳なさそうな顔で薊の腕をそっと解いた。
泣き出しそうな不安顔の薊。妹からの着信である事は一瞬の視界の中で捉えていた。
「今度必ずこの埋め合わせはするから、ゴメン、今日はここで。でも信じて。本当に変な意味は無いんだ」
そう言って慌てて去ってゆく
だが何をどう考えて、そして信じたらいいのか……こんな話。
天から地へ突き落とされた絶望。
―――薊はしばらく家路に付く事さえ忘れて呆然と立ち尽くしていた。