対して
これ迄は、半月程前の秋葉へ行った時の事やこの映画に行く事を
しかし、壊れかけた妹がギリギリの所で思い直し、再び心の通い合った兄妹関係で居ようと仕切り直すことになったのが3日前。
その時、兄は健全な付合いをして行く証拠として薊とのデートを明かし、澄美怜は涙を流しながら二人の仲を容認してくれた。
―――それが妹の為なんだ……そう何度も自分に言いきかす
狂気から目が覚め、自ら ”妹のままでいさせて" と恋愛強要を辞退してくれたとは言え、その後の
そして横目で
……こんな心持ちが伝わったら、この子に失礼だ……
横浜のとあるショッピングモールの中にある映画館を目指す二人。日本を代表するデートスポットでもあるみなとみらい地区。
微かに潮の空気を感じながらヨットの帆のような形が特徴のヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテルを向こうに見ながら肩を並べて歩く。
ロケ地でも有名な赤レンガ倉庫方面へ向かうその道中、得意のトークが冴えてこない薊。少しぎこちなく弱気な感じだ。
「私、とってもコレ見たかったんだけど良かったかな」
……恋愛ものなんて、いかにもって思われてないだろうか。
「ん。全然Ok、今、かなりトレンド入ってるよな」
自然に振る舞う
……誘ったのが
そんな期待だけが膨らんで行き、気付けばシートに肩を並べて座っていた。
明かりを落とした館内ではストーリーよりもいかに行動するかの方ばかりに関心が向く。 薊からじりじりと近づけた手は最早その産毛が触れ合うほどだ。
ほんの僅かに触れた時、察した
『はっ……』
と息を漏らす薊。全身に電気が走った。
深優人が優しく手全体で載せ返したのだ!
手のひらを返してその指先を薊も包み込む。こうなる迄は心臓がドキドキしていたのに、急速に和らいで行き、今は静まっている。
……なのに逆に何か胸焼けしそうなほど熱くて苦しい。何故だろう。勿論、それは―――。
もう先の読めた映画のラストシーンなんて薊にはどうでも良かった。映画館での目標はバッチリ達成され、恋する湯気をホカホカ立たせ、しかし90分間かかって完結したストーリーには大した感動もなく席を後にした。
ああ、これが嬉しハズかしというものか……と悶絶していた。熱気冷めやらぬ館内から出て来て興奮が心地良く続く中、
「ラブコメとかさ…… ねぇ、私はちょっとは楽しめたけど大丈夫だった?」
「あ、俺、結構 『妹』から押し付けられた少女マンガとかで鍛えられてるから全然楽しめた。面白かったよ」
「ハハハ そうなんだ……(妹の……)あ、そうそう、このあと買い物を付き合って貰ってもいい?」
「もちろん」
……ねえ、服選びに付き合ってもらうのは、好みのものを知りたいからなんだよ―――
*
そして試着室からはにかんで出て来た薊を見るや、
あ、それ意外に似合ってる……
それも凄い可愛い。
それ俺の好みの感じ……
〈キュン〉
「はい、貸して。それ、持ってあげる」
〈キュン〉
ああ! 全て嬉しいのにこの胸の苦しさ……
……そんなのわかってる。ただ単にときめいているだけじゃない。そう、ちゃんと彼女認定してもらってないからだ。
どうしても特別な人だと認めて欲しくなる。その切なさだよ。この3年間育んで来たものがもう抑え切れない。それはきっと今日、芽吹いて突き出て来てしまう……
「ねえ、男の人ってこんなの同伴してても楽しめないでしょ、ゴメンネ。でもちゃんと付き合ってくれて凄く嬉しかった。決めるのに意見もらえたお陰でこれも買えたし」
「俺の意見なんかで良かったのかな。まあ、試着待つのは慣れてるから。いも…」
そこで口をつぐむ
うつむき気味の薊の顔に影が落ちている。