考え抜いた上で
「恋由来の『好き』は感情。ぶつけあって、感じ合って、楽しかったり嬉しかったりする事はわかる。でもその感情は変わり易くて……欲がエスカレートして互いの気持ちを奪いあう。自分を好きでいてくれ、ってカンジに。そして時に破局し遠ざかってしまう」
黙って耳を澄ます
続ける
「愛由来のそれは信頼、与えるもの、時に無償。守ってあげたくなる本能だったり、自分が必ずしも得をしなくても、相手の幸せを願うものって俺は思う。
そして今のキミに必要なのはこっちの方。だって自分でも……あの事、分かっているでしょ。君はしばしば俺の助けを必要としている。あの症状のために」
そう、確かに
「だけど、せっかく
つまり俺はキミを愛してるし、愛してなきゃならない。キミの事が何より大事だから」
……俺は大切な人をちゃんと守れるのか、神様からやり直しのチャンスを与えて貰えた……
しかもそんな人に二人も出逢えた。それなのに
だから
「……そう、破局のある『好き』の方でいる訳にはいかないんだ。『あの日、約束』したよね。キミをずっと守るって。
妹なら……ずっと……。
正直言うと今ほど守る必要が無くなれば……本当はキミに恋したいくらいだ。でも今それをして……もし守れなくなったら、兄としても恋人としても失格なんだ」
「それは……(でも反論出来ない)」
「だから俺は……」
―――だから?
「だからもう、俺に恋心を持たないで欲しい。
その分だけ俺も辛くなるから」
心臓を貫通されて身じろぎも出来ない絶望。
何よりも温かい愛から発っせられた、凍りついたガラスの凶器の様に冷たい言葉に止めを刺されて―――
その後どんなやり取りで兄が部屋を後にしたかも覚えていない。
今は只の脱け殻だ。
好きで、大事だからこそ、なれないもの 。
そして天秤にかけられた2つの想い。
『好きなのに成就が許されない妹という立場の想い』
『最愛を守るために恋を封印してきた兄の深い愛情』
今まで生きてきた中で一番勇気を出して挑んだ気持ちのぶつけ合いは、少しの爪痕も残せないほど次元の違いを見せつけられての撤退となった。
悲しかったが正論過ぎて涙も出なかった。
……でも知らなかった。こんなに想っていてくれてた……せめてそれだけが心の拠り所だ。
けど普通の『好き』を言ってもらえない。たったその一言で報われるのに……
その切なさ。
普通なら『愛してる』の方が上位かも知れない。だがそれを行動で当たり前にもらい続けて来た
でもいつか自分の症状が消えて、しっかり出来たらチャンスはあるかも知れない……
そうとでも考えていなければ心が持ちそうになかった。
なぜならあの言葉が頭の中でずっと繰り返して消えなかったから―――
『だからもう、俺に恋心をもたないで欲しい。
その分だけ俺も辛くなるから』