母の急病で妹のパニックに立ちあえなかった兄。
そう知って僅かに安心した澄美怜だったが、どちらにしても今となっては自らの必要性を完全否定し、闇落ちしている中でこれ以上の介添えは唯々苦痛だった。
そう、
パニックで発動された激しく黒い感情が盛大に取り憑き、《関わるなら消し去ってやろうか、それとも巻添えにするか!》と何故か激しく世を恨んでいる。
『呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる! 呪ってやる!……』
こうなると簡単には収まりがつかない。必死で自分の中の何かと格闘した
とにかく病院で看て貰ってるから大丈夫だから、の一点張りでどうにか兄を学校へ行かせた。
◆◇◆
その後、病室での
あんなに話したがってた兄と話せても、そして気にかけた言葉を沢山貰っても全く心に届かない。
癒しの力を受け入れようとせず、発動された黒い恨みの感情が
《どうせ本当は捨てたかったクセに!》
最愛の兄へも向かおうとしている事に気付き焦る。
それだけは絶対嫌だ!―――これはもう自分に向けるしか! ……と自棄衝動が完全発動する。
……これ以上迷惑をかけ続けるのなら、どうやって消えよう。迷惑の掛からない消え方は? こんな状態の自分が兄を欲っする等おこがましい。いや、欲する気持ちすら無いのだからどんな優しい言葉も響かない。どうして自分はこんな症状が出てしまうのか、恨めしい。
今は兄に申し訳なくて、出来るだけこんな人間から遠ざけてあげたい。でも根気強い兄は簡単には引き下さがらないだろう。そうなれば絶対に傷つける事になる。いや、命すら奪いかねない……
一番手っ取り早いのは……そう、大丈夫になったフリをするのが早い……
闇落ちの
「お兄ちゃん、ごめんね心配ばかりかけて。でももう多分大丈夫。私、こんなに不安になる原因が分かったの」
「原因……?」
「うん、それでその原因を取り除いたら急に気が楽になって……だから今後はそれを続けられる様に、どんなに難しくても必ず協力して欲しい事があるの」
「ああ、何でも言ってくれ」
「絶対に協力してくれる?」
「うん、絶対に」
「ホントに? どんな事でも? ちゃんと誓える? 破ったら私、二度と信用出来なくなる」
「今まで破ったことあるか? 必ず誓うよ」
「分かった。信じたからね。―――私、原因は何か、よくよく考えて思い当たったのは……こだわりだったの」
「こだわり?」
「そう、こだわり。私はお兄ちゃんを失いたくないとこだわる余り、それを恐怖する様になって不安定になってしまった。……見放された、面倒になった、と勘違いして発作になって…… お兄ちゃんを想うほどに失うのが怖くなる。だからそのこだわりを消して感情を無くしてみたら不安も無くなるって気付いた」
「……
「もともと恋愛感情を持つなって言われてたし、もう丁度いいかなって……捨ててみて楽に成りかけた。……でもよく考えたら勘違いだった事、この前の告白で知ってしまった……。思われてないんじゃない。愛してくれてるからこそ普通の恋人になってくれないって事が分かった……でもそう言われたら愛されてるならこだわりたい。そう思ってしまうの。そしたらこの想いを……捨てきれなくなった」
気まずそうに耳を傾ける
「―――だから 『兄さん』 私を愛さないで下さい。苦しいから……」
「……そん……な」
「もう愛されたくありません……」
「……嘘だ!この前だってあんなに不安になって苦しんで……」
「だからそれはこだわりがあったせい」
「急にそんなに変われるなんて……」
「事実そうなんだから仕方ないです」
「やっぱり信じられない! 何か隠してる! 俺は澄美怜の事が心配で……」
「兄さん!……誓いを破るとでも?」
「そんな……、そんなやり方、卑怯だ!」
「約束です。もし破るなら私―――死ぬから」
「……」
―――ごめんね。どっちにしてももう消えるのに……
だからどうか私を捨てて下さい……
**
だが病院での自害は難しい。見つかれば命を助けられてしまう可能性もそれなりにある。そこで退院したのちに、と考えた。
そうして日常生活に戻り、上手い消え方を考え続けていた。
*
そんな生気なく漂う
「スミレッ!
……近づかないで。今……私、何をするか分からないから……
「 最悪の状況になったって言ってひどく落ち込んでる! 戻りようがないほど遠ざけられたって……どうして? 何がしたいのアンタはっ」
口角泡を飛ばし、更に矢継ぎ早に攻め立て続けた。
「
……そんなの、あの人の為に決まってる……
「そんなに兄が大切じゃないの? ふざけないでっ! 私がどんなに声をかけてもまともじゃなくなってる。あそこ迄スミレの事ばっか考えてる。そんな人この世にいる? 」
え……そんなに……?……でも……
……確かにあの約束の日、私が居なければ死ぬって……あの人に異様な眼で叫ばれた……
それが本当なら、私がやろうとしてる事で命を奪いかねない。だとしたら私は一体何の為に遠ざけてるの?……
―――そう考えた途端、僅かに取り憑いた闇が薄らいだ。
「アンタは何が許せないって言うのよ!」
「……許されないのは私の方。 私は兄を疑ってしまった。いつも迷惑しかないのに……」
「だったら尚更……」
「私ね、実は告白したの―――― 」
絶句して凝視する薊。