その後もあの日の移り香が度々脳裏をよぎり、焦りをフル加速させていた。
辛うじて昨夜は危うい所を兄にいなして貰えたが、それを思い出して落ち着かせている内に、寧ろ絶対に失いたくないものとして強い執着が生まれてしまう。
……嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ! あの温もりを失くす事だけは!
そして思い出したいつかのタロット占いの一節。
『もし彼が傷心ならそれは重い関係が原因です。そうした恋愛はその後の気がねないやり取りが出来る人にこそ心底癒され、心を開き、やがて魅了される事になるでしょう……』
気兼ねないやり取りどころか逆の事をしている自分。対して確実にタロット通りに進めている
―――私は……やっぱりイヤだ!……関係が壊れたらなんていくら考えても答えなんか出なかった。妹には越えてはいけない事ぐらい分かってるけど……
だって私にとって
このまま見てるだけなんて……とにかくこの気持ちだけはハッキリ伝えるんだ!
*
そんなある日の夕食後。寛いだ頃合いを見計らって、
「ねえお兄ちゃん、相談があるの。後で部屋に来てくれる?」
「え、ああ、良いけど。 どんな相談?」
「うん、チョットね……」
―――そう、
*
部屋に通された物々しい雰囲気が、いつもと違う事が起こるのを明らかに予感させた。
仰々しく対面させられ、目を見て訴え掛けるように切りだして来た。
「これから話す事は物凄く勇気のいる事だから、どうしても真面目に聞いて欲しい」
「え?……ん……わかった」
「……私……私は……兄さんの恋人になりたい……です」
「……」
「……このまま
「……だけど……キミは妹だよ」
「だからって……私は物心ついた
「………………それは……そんな事ない」
「じゃあ、兄さんはどう思っているの? 私の事……好き?」
「……それは難しい」
「ごまかさないでっ!」
「ごまかしてなんかない。……じゃあ受け入れたらどうなるの? 周囲に公表できるの?」
「誰にも言えなくてもいい。兄さんさえ認めてくれるなら」
「俺は
「それは妹としてでしょ」
「……そんな単純なものではないよ」
「じゃ、じゃあ、キ、キスとか出来る? 恋人なら……私はそういう関係になりたい」
―――続く沈黙。
こんな時の
それは微かな前世の記憶。
最愛の人により命を救われたものの、その
これは誰にも話した事はない。だがこの事は余りにも彼にとって大きなアイデンティティとなっていた。
故に今世では『何が何でも大切なものを守れる人』になりたいと思っていた。
なのに
だからせめてこの妹だけは絶対に―――その想いは余りに堅固だった。
考え抜いた上で