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第26話 今日、凄く楽しかったね




 あざみの初デートは順調に続いていた。


……これって恋人に見えるかな? 〈キュン 〉



 ―――メイド喫茶 初体験―――



『ハイ、ご一緒に~! 』


 メイド服にコスプレした可愛い店員達に囲まれ、両手の親指と人差し指でハートの形、胸前でそのハートを見せる。


『おいしくなーれっ! 萌っえ萌っえキュ-ンッ!』


「うー、これが噂にきく愛情注入かぁ。これはさすがにこっちが赤面してしまう~」


 えー大丈夫だよー可愛いしー、と早速マネする薊


「萌っえ萌っえキュンッッッッ!!」

「おおっ、あざみんの方が上手い!」


 フフ、萌えアニメ声は任せてよ、と、得意げになる。確かに薊の方がずっと萌える声だ。その声に酔いしれる深優人みゆと。そこで思い立つと、


「じゃあさ、ちょっとその声で『お兄ちゃん』って言ってみて」


「いいよ……『お兄~ちゃんっ!』……」


 ズキューン!!!!!


「んぐっ、こ、これは…… (スゴい破壊力 )……マジで声優になれるよ」


〈キュン〉


 生来のアニメ声だが深優人みゆとのお世辞抜きの誉めっぷりに笑みが溢れるあざみ。だが瞳の奥にはもどかしさも滲んでいた。


 ああ、でも好きな気持ちが高ぶり過ぎてオチャラケた気分になれなくなってきた……


「ねえ、あのさ、いつも私のバカ話しに合わせてくれてありがと。私って落ち着き無いでしょ。 良く友達とか親からも、話し飛びすぎ、とかって言われるけど、 深優人みゆとはいつもいやな顔せず合わせてくれるよね」


「いや全然無理してない。こっちがありがとうだよ」


〈キュン〉


「だって趣味近いし話題豊富で助かるし、うちの妹とはまた別の、真性のって言ったら妙だけど、妹属性があってすっごく親しみ安くて、何か、何でも話せるっていうか、とにかく楽しいのに一緒にいると落ち着くって感じで……」


「……」〈ギュンンッ!!〉


 思わず胸を押さえる薊。


 うう……さっきから胸がマジ苦しい……そんなこと言われたら、……ねえ、この想いが止められなくなったら、キミのせいなんだよ。


 ふと雑誌の記事を思い出す。「恋愛のテクニック ・妹のメリット、デメリット」その中の『親しみ安くて』……深優人みゆとの言葉が記事と被る。



『妹っぽさは親しみ安い分、女というより友達に見られやすい―――』



 それはやだ!女の子としてもっと近付きたい。だったらもっと二人きりで……


 そこで、このあとカラオケはどう? と誘うと、「おー超行きてー」と快諾。


 二人はプロ並みに上手い。レパートリーも多く、歌が好き過ぎて午後の4時間があっという間に過ぎていった。


「いや~久々に歌ったね―」

「うん! すっきりした~。まだまだいけるけど」

「ダヨネ~」


 顔を見あわせ、大笑いする二人。


「ねえ、今日、凄く楽しかったね」


 深優人みゆとは、ああ、ありがとう、と何気に頭ポンをした。


〈キュン〉


「……それは付き合ってもらった私の言うセリフ。ね、良かったらまたどっかに行こうよ」


 特に今日はあのハイパーブラコンが居なかったからも~最っ高!


「いいよ。次は何がいい? 」


〈キュン〉


 ああ、二人っきりで気が合うってこんなに楽しくて、嬉しいんだ。うう~っ……早くも次のデートが超楽しみ。もっと女性的に見られる格好とか研究しないとね。


「じゃあ~、えーと次はね―……」


 薊は二人の世界に浸れるようにと考え、先ずはじめの一歩として映画に行こうよとせがんだ。


 つい最近、家での妹とのアニメ映画を鑑賞した際の事を思いだした深優人みゆと

 その時、手を繋いで来た妹。それが親愛の情か恋慕なのか。誰よりも可愛がる妹のそうした行動に胸が苦しくなった。

 一つは妹にこれ以上踏み込まれたら妹の想いを止められなくなる。万一告白に踏み切られたならどう対応したら良いかも思い付かない。

 そしてもう一つ。きっと自分の気持ちも止められなくなる……。


 ……どうにかしないと……


 そう考えた深優人みゆとは目の前の存在にもっと意識を向けて健全な恋に真摯に向き合おうと決意した。


「その約束、いつにしようか」


 その深優人みゆとの一言は薊の瞳にジンワリ熱い物を滲ませた。




  **



 その日は夕方遅め目の帰宅となってしまい、兄を待ちわびていた澄美怜すみれが出迎える。


「遅かったね! せっかくお菓子作ったからおやつに食べて貰おうと待ってたのに。もっと早く帰って来るって思ってた」


 などと後ろから肩に手をのせリビングへ押して行く澄美怜すみれ。秘かに背中ごしにスンスンする癖が発動。 『お兄ちゃんフェロモンいただき~』

 いつもならそれを感じつつ密かにデレてる所だが空気が変わったのを敏感に察知した兄は誤魔化す様に一言。


「じゃ、そのお菓子、夕食後に貰えるかな?」


 女子の香水の移り香に鼻のきく澄美怜すみれは既に気付いて棒立ちとなっていた。


 ……気付かれた? 何とかしないと……


 深優人みゆとは急いで切替え咄嗟とっさに取り繕う。


「食後にこの前見たアニメの続きを見ようか? 確か最終回がひとつ……」


「知りません。ご自分だけでどうぞ。あ、蘭ちゃん付き合ってあげたら?」


 その声からはあらゆる感情が消されている。 否、押し殺されている。


 あっ学校の宿題がー、と瞬時に逃げる蘭。この末っ子の状況判断能力は誰に似たのか?


「そう言えば妹ものの新シリーズも始まってるんだよ。今日1話目が無料で……」

「お兄ちゃん何時から見る?」


 辛うじてスンデレに持ち込んだ深優人みゆと


 と言うより何とかこの場は見逃してくれるらしいが、その後の仕打ちが恐ろしい、とただ怯えるぱかりであった。




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