二人きりでのおうちデートの阻止成功。
何とかミッション達成で胸を撫で下ろす
そして逃げる様にリビングダイニングヘ直行し、乾いた喉を潤した。だが半分は気まずさを紛らすためのパフォーマンスだろう。
振り向くと案の定、青い顔で背後に立つ
「なんで……何で内緒であんな事……私……そんなに邪魔なのかな……やっぱり私は兄さんにとってそんなに要らない子だったの?」
「いや、そんな事ある筈ないよ。……それより……どうして予定を知ってたの?」
何も言えない澄美怜。スマホのPINコードを突破していたのは秘密にしてある。
幼い頃から自害衝動にかられ周囲に気を遣わせて来た
しばらく沈黙が続いた。ここに居てはいけないものを感じた
―――スミレ、ゴメン。もしこれ以上気持ちをぶつけ合ってしまえばもう俺は……
早く立ち去る必要に迫られ、無言で背を向け部屋へと向かう。
「兄さん、聞いてっ!」
リビングから出る寸前で呼び止める。立ち止まってその空気を読む
伝えたい言葉を必死に選んで一瞬詰まる
「待って! ……
そう言ってすかさずリビングから姿を消した。――――立ち尽す澄美怜。
……これじゃ何も言えない……ああ、こうしてる内に薊さんはきっと……もしあの二人が上手くいったらどうせ私は遠ざけられて……そんな事になったらもう……
何とかその前に自分から告るしか。けど今はまだ……
いや、言おうとしたんだ……勇気を出して……。
なのに今、私を遮った……。
でもいつか……それでもいつかこの気持ちを抑えきれなくなる。だってこんなに胸がいっぱいで……そのいつかは多分……いや、もうすぐ来てしまう。
……そしてもし私の想いが成就しなければ、兄さんとの『あの日の約束』は……きっと無かった事になる。
―――その時私は……きっと消えて行くんだ。
◆◇◆
相変わらず学校では
映画、アニメ、ラノベ、音楽、雑誌、絵を描く(デジタル)、ダイエット VS 筋トレ等……次から次へと淀みなく話題に尽きないのは薊の性格と話術の
その日、薊は胸を高鳴らせながらも平静を装い
「今、ちょっと世代古めのタブレットでやってるドロー作業が重くて……私もペンタブつないでPCでやりたいって思って。で折角なら秋葉まで行って見たくて」
「秋葉原か……イイネ」
「うん。でね、ついでにメイド喫茶なんかも体験したりとかもやってみたいんだけど一人じゃ無理だから……ねえ、
「―――良いよ」
「ホント~?! やったー。でも……今度こそ妹付きとか、絶対に無しだよ? 」
「……うん。わかった」
「ホントに大丈夫なの?(今まではどうにかこうにか言って妹も連れてきたし)」
「うん、二人で」
「ホントのホントに? こないだみたいな失敗は無しだよ!」
「うん、もっと注意深くやる。まあ既にスマホのPINコ―ド変えたし、カレンダーアプリにロック設定した。あと、ロック解除や一瞬の覗き見対策として暗号で予定書いてる」
「クク!そこまでする~?(イヤ、やっぱ正しい! アレにはそこ迄するべきね……分かってるところに同情しかない)」
薊は初めてきちんとした二人きりのデートに誘う事に成功した。
「いつがいい?」
―――ああ、もう、こんなに楽しみな事がこの世にあるの?
**
休みの朝、多少身ぎれいにした
「あれぇ、お姉ちゃん今日は付いてかないんだ?」
「何か今日は普段と違う友達とPC選びに付き合うらしくて、ついて行けなかった。残念」
「ふ―ん、じゃ今日一緒にお菓子作りやろ? 教えてくれない?」
「うん。いいよ」
―――きっと何か隠してる。お兄ちゃんだけを見てきた私には分かる。中学まではそれでもダダこねて付きまとっても許されたけど、高校生のお兄ちゃんにまで迷惑は……
*
薊の記念すべき初デート。駅で待ち合わせた二人。近づいて来るツインテール。ハイラビットのそれは裾でゆるふわに巻いてあった。
「もう来てたんだ。サスガ早いね」
少し早目に来た薊。なのに
「お、いつもと少し雰囲気違う! 髪が一層可愛いね。服もとっても似合ってるし」
「そう? 良かった」
胸がキュンッ、と鳴った。気遣いの出来る人だとは分かっていても、時間をかけてめかし込んだ甲斐があったと上機嫌になる。
間もなくして電車が到着。窓際で肩を寄せ合う。何時もより顔が近く感じる。
―――遂に本当の初デートなんだな……中1の時、隣に引っ越して来てから3年掛かった。学校ではいつも二人で行動してるのにこうして出掛けるのってスッゴイ特別感。ああ~こんなにもワクワクするものなのかぁ……
薊はあのタロット占いを信じて時間をかけて信頼関係を築き上げてきただけに感慨もひとしおだ。初デートの高揚感は横浜のはずれからの1時間半もの電車移動すら一瞬に感じさせた。
秋葉原に到着するや、早速楽しく二人でペンタブ選び――― 交互に描いて協作。〈キュン〉
「俺のキャラデザの好みはこんな感じのラインかな……」
ペンを渡され、私はねー、こんな感じ、と、
「あ、そ―すると確かに可愛い!」
……これって恋人に見えるかな? 〈キュン 〉
そうこうしてメイド喫茶 初体験へと向かう二人。