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第20話 澄美怜なりの恩返し




 失意の兄への元気付けに勤しむ澄美怜すみれ


 もっと他にも気晴らしを、として再び自分の楽しめたマンガを渡す。


「これ、なかなか面白かったよ。読んでみて」

「ありがとう。――――――――う…… 」


 しまった! 少女マンガだからどうしても恋愛要素が……そもそもお兄ちゃんは私のコレクションで恋愛ものに傾倒していったんだっけ、かえって思い出すだけか。


 そこで澄美怜すみれは恋人よりも今ある何かに気持ちを向けられるものがないか、と考えて出逢ったのが『妹アニメ』だ。以来、そのブッ飛んだ世界観で気を紛らせようと奮闘。


『丁度実妹が目の前にいるんだし没入感もあって最適環境では?』



 こうして澄美怜すみれの洗脳作戦が始まる。


「で~、これがシスコンの兄が妹の屈折した愛に全力で応える超有名作おれいもで、妹も終始全力で反発して兄を試すの。

 それでも妹への愛を全力で貫いて、最後に一瞬だけ……すごいの。サイト評価も星4・5以上だよ。これを見よう!」


「はは、なんだこの倒錯した世界! でも面白いな」


 これなら現実の妹へも目を向けてもらえるし一石二鳥で良いかも。


―――色々慣れてきた所で


「次、これはね……『真実の愛の前ではタブーなんて無意味なんですっ!』 って言いきる濃い逸品おに・愛でー」 


「その次は―、ラノベ作家の主人公の引き篭もりの妹エロマンガ先生が実は自作のイラストレーターで……」 


「さらにー」……


――― かくして妹アニメ洗脳に成功。



 ……お兄ちゃん……気を紛らせるために敢えて本当は興味なかったこんなハチャメチャなものを言われるままに見てるって事、分かってる。

 でもひと時でもあの事を頭から放すこと、それが大事だと思うから、まだまだ押し付けちゃうんだから……ここはあの濃い逸品おに・あいヒロイン妹・秋子の様に強引に!


「ねえ、お兄ちゃん、それじゃこれから私も真実の愛でお兄ちゃんと接っするね」

「はいはい、宜しく頼むよ」


 ひるまずにアニメ主人公のお兄さんに引けを取らぬ落ち着いた切り返し。


 お兄ちゃんも段々板についてきたね。でもちょっと余裕すぎ。妹ものアニメ観させすぎたかな? これじゃキュン死させられない。


 一方、兄は、


 ……ありがとう、澄美怜すみれ。こんな俺を元気付けようとこの子なりに必死に頑張ってくれてる。いつまでも塞いでいちゃだめだな……


 狙った効果とは別の作用で兄は立ち直ろうとしていった様だ。



 ……私がこんな事をしたい理由は当然恩返しの為だけど、お兄ちゃんが私に親身になる理由が分からない。


 そう言えばあんな風に言ってたっけ……あれはまだ小さな頃、お兄ちゃんが『どうして不安なの?』と、聴いてきた時の事だ……。


「なんかね、私ここにいて良いのかなってなっちゃうの」


「実はぼくも、自分に自信がないんだ。でも父さんに人に優しくなりなさいっていつも教わってて。だから人に優しくして誰かの役に立つと、自分は居てもいいんだと思えるんだ。 だからスミレのためになる事、嬉しい」


「そうなの?」


「それに今のスミレにはボクが必要でしょ」

「うん。いなかったら大変な事になっちゃう」


「そう。だから今世では大切な家族は絶対にくしたくない。ちゃんと役に立ちたい」


「今世……?」


「あ、いや……そう、だから、スミレも誰かのためになれたらいいんじゃない? そしたら喜ばれて、頑張ったことが報われるんだ」


「むくわれる?」


「自分のした事が、ちゃんと返ってくるってことだよ」


―――人に優しくして役に立てばいいの? ならお兄ちゃんの為になれたら…………そしたら私は……?……


 私……あの頃からほとんど進歩してない。今は大した事してあげられない。でもバカなりにでも、やれることやるんだ ―――


 そうして二人三脚で立ち直って貰えたら、もしかして私は認められて……あの人に必要とされる様な存在に……


 勝手にそんな事まで期待して……。


 ……なのに最近は自分の事で不安定だ。で助けてもらってばかり。それもこれも薊さんと上手くいかなくなったから。


 薊さんは百合愛さんと違って、気兼ねなく何でも言える人だったからこそこうなった。きっと言いたいこと言っちゃうんだ。


 でもそれって甘え?……本当は薊さんとはあんなに仲良かったのに。


 そう、あの頃……



 澄美怜すみれは薊との蜜月を思い出し始めた。





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