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第17話  お兄ちゃんへの洗脳教育







「お兄ちゃん、今日学校帰ってきたら一緒にアニメ見よう!」


 澄美怜すみれは兄との楽しい時間が長いほど、自分の中の闇が抑えられる事を本能的に知っていた。


 それ故に昨夜の足掻きを思うと嫌な感覚を早期に払拭しておこうと、眠り際の想いを今朝一番に兄にぶつけていた。

 快諾する兄。澄美怜すみれの微妙なストレス状態を見抜いての事だ。勿論こんな約束はちゃんと覚えてくれていて必ず守ってくれる。


 澄美怜すみれと言えばその恩返しとして、兄の百合愛ゆりあとの心の傷を兄洗脳作戦で少しでも忘れさせて癒そうと、今日もとり憑く事にご執心だ。


 そんな事からマンガとアニメはこの兄妹をつなぐ重要なツールだった。


 小・中学生の頃、澄美怜に押し付けられるままにオススメされた少女マンガ。1つ目は破天荒な少女が様々な因難を乗り越えて、その青春と夢を手に入れるというものだった。


「これすっごく面白かった。ありがとう」


 その後もこれが共通の話題となって盛り上がり、嬉しくなってもっと語り合いたくなった。楽しい時と共通の話題が増えていくのが何より楽しく、どんどん貸し借りする様に。


「ホント少女マンガって凄く奥が深いね」


 お兄ちゃんは少年マンガ等もそれなりに楽しむ方だ。でも人の心理描写に興味があったみたいで、特に恋愛物は『女子の心情がリアルで参考になる』 なんて言って興じてた。


「お兄ちゃん、乙女のフクザツな心境が分かりますか?」


 な~んてからかっていたのも束の間、その真面目さでその手のマンガをどんどん読破。私の膨大なコレクションを全制覇。心配になって、そっち系なの? って聞いてみたら


「いや、単に面白いし……あと百合愛ゆりあちゃんとの仲の参考になるかなと思って……」


 ……それ、女心のカンニング! あまり恋愛ものは見せるべきじゃなかったかな……なんかちょっぴり不安。だってお兄ちゃんと百合愛ゆりあお姉ちゃんて仲良すぎるし。


 自分など二の次、或いはそれ以下だ。そう思わされて、それが少し寂しかった。それからはそうした傾向のものをオススメから避けて、アニメをはじめ他の分野で意気投合出来るよう慎重に選ぶ様になった。


「恋愛マイスターになっても困るし、何か私に気持ちを向かせるものって無いのかな?」


 そんな頃に百合愛ゆりあの海外永住の話が……。私達はお姉ちゃんと生涯のお別れとなってしまい、お兄ちゃんはとても塞ぎがちになった。


 余りに異常に想い合っていた二人。その相性は私の想像を遥かに超えていた。どんな事情があったのか、それとなく聞いてみた事もあるけど教えてはくれなかった。


 そこで事情はともかく元気付けの為に何か、と色々調べてる時に『妹ものアニメ』の存在を知り、それをお兄ちゃんへの洗脳教育? もとい、元気付けの一貫として導入する事に。


 先ずはライトなものから徐々に刷り込み、かなり変態っぽいものまで間違いを起こさず? 一緒に見れる程になった……ってのもどうなんだろ。クス。


 私のヘンタイっぽさはきっとコレのせい……って事にしといて下さい。


 まあでもそれも 『妹道』 その① ……のためだ。『妹に特別萌える体質改善』を施して恋人を忘れさせてあげるのです。


 結果、着々と計画は成就へ向かって進んでる……のかな?


 昔の三人の思い出から現実に戻る澄美怜すみれ。兄と肩を並べてリビングのモニターを見入ると、あえて肩を触れさせてソファーに座るゴキゲンな妹ぶり。


 私、それにしても判ってるんです。お兄ちゃんの好きな『妹キャラ』は誰なのか。それは『お兄ちゃん的にポイントの高い小言娘』でも、究極の『反発ツンデレエロゲー娘』でも、仕事パートナーとして高め合いながら『引き篭もりを続けるヤンデレ娘』でも、はたまたケチャップソース大好き『萌え萌え世話焼き娘』でもない、と言うことを。


 こうして如何にも自分が『世界で一番この兄の事を知ってるんだ』とばかり自慢気に当てに行く澄美怜すみれだった。





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