「スンスン……はう~、癒されるぅ~……って、こんな変態な妹でゴメンナサイ……」
お兄ちゃん、この前は一緒にゲーム……フォローアリガト……。薊さん、二人きりになりたかったんだろうな……。
でもお兄ちゃんのお陰であの日は最悪の事態にならずに済んだ……。下手したら私、ヤバイ事になってたかも……。
澄美怜は『消えたい衝動』 そして『氷の悪夢(ナイトメア)』 のどちらが来ても大事に至る可能性があった事を感じていた。
何より小6の時に起こした『破壊衝動』。それだけは避けたかった。
薊さえ現れなければ平和で居られたのだろうか――耽り込んであの頃に想いを馳せ始めた。
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――これは薊さんが引っ越してくる前の事。
幼稚園から中1の後半まで、お兄ちゃんと百合愛さんは同じクラスになった事も多く、学校や遊び、趣味等で多くの時間を共有していた。だから他の友達を作る必要もなかった。
「百合愛お姉ちゃん……本当にキレイだったな……」
この超綺麗なお姉さんとお兄ちゃんは互いに好き同士だったし気が合ってたから多くの時を共に過ごしていた。
いつもキラキラしてて面倒見が良く私のコトを本当の妹の様に可愛がってくれた。このお姉さんこそが自分の理想、目指すところ。憧れ。
ああ、この人と入れ替われたらどんなにいいだろう。そうすれば自分をもっと好きになれる。それが出来たなら兄と最高の将来を夢見ることだって出来たかも知れない……。
「あれは妖精だったのかも。だから淡く消えてっちゃったんだ……」
ロシア系アメリカ人の父を持つハーフの彼女は、真っ白な肌、スタイルも良く、少し青みがかったグレーの瞳と涼やかなかわいい声。
小さい頃から凛とした上品さと、それでいて微笑みは優しく、僅かにたれ目の甘いマスクと親しみもありながら気遣いも忘れない態度、とこんな雰囲気だから誰からも好かれていた。
スンと澄ました上品顔に見とれて釘付けに。ふと目が合うと優しく微笑む。まるで自分に気があるのでは? と勘違いしてしまいそうな、なんとも吸い込まれそうな魅力。
……私は自然とこの人の言動を真似していた。いや、それは親子や兄弟の様に、意識していないレベルで感化されて、色んな言い廻しまで勝手に似てきてしまう、そう言う感じに。
そんな百合愛さんもお兄ちゃんと仲むつまじくやりとりしてる時だけは、デレを隠し切れない。このスンとデレを見ていても嫉妬などしなかった。
未だ小学生だったという事もあるけどこの人なら全て許せた。
―――今のお兄ちゃんへの態度の由来はここにある。
実は私が
お兄ちゃんは私が何かに恐怖心を持ってしまった時に鎮める不思議な力を持っているけれど、このお姉ちゃんはそれが無い代わりに配慮はお兄ちゃん以上だった。
何をするにもちゃんと考えてくれてて、「楽しい遊び」なら私を一番先に、「美味しいものの取り分け」ならお兄ちゃん、私、お姉ちゃんの順。怖い事、「勇気のいる場所」へはお姉ちゃん、お兄ちゃん、私といった具合に常に私たち兄妹を第一に考えてくれた。
おしとやかで綺麗なだけじゃなくて、いつも誰かのためを意識して行動出来る姿に尊敬すらしていた。
だからお兄ちゃんを取られる感じは少なく常に共有してくれて、なんならお兄ちゃんに甘えたくなる様な場面を極力控えてくれていたんだと今になって思う。
「ホントに優しかった……お姉ちゃん……会いたいな……」
こうした子供の頃の、未だ恋とか関係ない頃は、もしかして私はお兄ちゃん以上にこの人を好きだったかも知れない。
怒ったり人の悪口とか恨み妬みも見た事がなく、常に自分の理想を映し込んだこの人を否定するなんて事は、自分を否定する以上だった。
――「ありがとう。百合愛ちゃんってホントに優しいね」
ある時、何気ない気遣いに対してお兄ちゃんがそう言葉にした事が有った。その時ちょっと泣きそうに涙をためながら、それを一瞬堪えてから、はにかんで喜んでいた顔を見た。
私は『はっ……』とした。
些細な気遣いを兄に気付いてもらえて……、だけどそんなものだからこそ気付いてくれた事が凄く嬉しくて。それだけで泣きたくなる程お兄ちゃんの事を好きなんだ、と分かった。
その想いの強さに、それだけは私に勝る人は居ない、という自信が砕けた。そのとき初めてこの人に少しだけ嫉妬したと思う。
思う、と言ったのは、子供じみた自分にはその感覚が『凄いな、そして、敵わないな……でも……』という感覚だったから、後から思えば嫉妬だったのかも、という程度の事だ。
そんなまだ小さな頃、お兄ちゃんを取られない様にと、一度だけ牽制した事があった。