日々の登校で
『深優人とまた選択授業で同じになったね~。もうずっと一緒だね』
『今度の体育祭で一緒の混成チームでさぁ、あれやろうよ』
『お弁当でクラブハウスサンドにチャレンジするんだけど何通りか作りたいから食べるの手伝ってもらっていい? 明日』
登校時、反撃の暇いとまも無い程に次々と繰り出される当て付けのジャブ攻撃にサンドバッグ状態の澄美怜。
居場所を失くしてうつ向く。兄は不穏な空気を感じていた。こんな風に落ち込む時は大抵……
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俺はその夜、ベッドで眠りかけていた。布団の中に入って来る人の気配を感じ、少しスペースを空けようとに体を壁に向けた。
背中に顔を埋める様な感覚。いつも以上にピッタリとくっついてくる。少し震えているのが分かる。
「大丈夫……?」
返事は無い。その代わりその細い腕全体で背中から俺を包む。力強く抱きしめて来る。胸の前に来たその腕に俺の手を優しく載せて指でさする。ちょっとすすり泣きが聞こえて
「誰も恨みたくないのに……」
そう聞こえ、ゴクリ、と生唾を飲み込む音のあと、息を大きく吸って、まるで温泉に浸かるとき最初に出てしまう安堵の吐息か、或いは延々と泣いてた子が漸ようやく止んだ時に出る溜め息か、そんなのを一つ吐き出した。そして抱きついたその力が一気に抜けていった。
と同時に
「お兄ちゃん……………………寝てたのに……ごめんね……」
「いいよ。でも大丈夫なの?」
「うん……多分……もう」
優しい囁きで会話する様子は端から見ればさながら恋人の様でもある。
「ならいい。……おやすみ」
「……うん………………おやすみ……」
だが腕を解こうとしなかったので俺も眠りに落ちる迄そのままの姿勢でいてあげた。
翌、明け方。いつも通り部屋に戻って行った澄美怜。朝食時、居間で顔を合わせた瞬間、
「あ、お兄ちゃんおはよっ!」
と言った
昨日の事は夢なのだろうかと思ってしまう程に何事もない普段通りの朝が始まった。
***
だが高校生となってからは互いに部屋にあげていない。色々と昔とは意味合いが違って来る事や
いつもの登校でのやり取りが始まる。
「じゃあ今日はこないだから言ってた新作のゲーム、
アイテムを理由に薊あざみのアタックが開始された。それも
「あ!勝手に決めないで下さいっ。お兄ちゃんにも予定が……」
「いいよねっ、
「え……う、うん。まあね」
「ほら、いいって」
ムゥ~、また何をやり出すか分からないから私がお兄ちゃんの部屋を守らねば!
「俺、今日は選択授業の後で遅めになるからそれで良ければ」
「うん、大丈夫。今回のギャルゲーは凄く評判良いから進めずに待ってる」
そうこうしている内に校門に到着し、中等部の澄美怜すみれとはここで別行動だ。
「じゃあ、澄美怜すみれ、ここで。勉強頑張って!」
うん。同行ありがとう、と言って別れて行った方を見ると
いいなあ。ずっと一緒に居れて……
―― ん! そーゆー事なら今日は早く帰らねば!