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第10話 いつもありがとう。さすがだね、このタイミング




 帰宅中、澄美怜すみれは何時ものルートでボンヤリ歩いていた。


 そこで偶然見かけた下校中の兄の姿。あざみと肩を並べての歓談の様子を目の当たりにし、強い嫉妬心を覚える。



 帰宅後、その事が頭から離れず気晴らしに妹のらんに声を掛けた澄美怜すみれ


 妹への溺愛。


 実は幼少期からお別れまでずっと姉同然だった百合愛ゆりあがしてくれた様に、自分も良い姉になりたかった。

 最初はその一心だったが、蘭もとても懐いて来たため可愛くて仕方なくなった。

 小さな頃は家で良く遊んであげたり、少し大きくなってからは勉強やマンガ本など教えこむのも甲斐甲斐しい。蘭もそんな姉が好きで堪らない。


 そんな二人だが、兄の取り合いになると姉は最後の所では全く譲ることは無く、仕舞いには一度だけ手酷く妹を泣かせてしまった事があった。


 この姉にとって兄を取られることが余程不安かストレスのかかる事なのだと気付いて以来、蘭はそこだけは姉の絶対的聖域として心得るようになり、それ以降ケンカなどまず起こらない。


 最近の兄争奪戦は単なる『じゃれ愛』であり、蘭の引き際は絶妙である。


 そんな蘭が姉の部屋へ向かいながらあれこれ想像している。



―――私はお姉ちゃんが大好きだ。とってもキレイで優しくて。いつもお姉ちゃんの様になりたいと思ってる。

 そんなお姉ちゃんに似てると言われるのが何より嬉しいし、やってる事は何でも真似たくなっちゃう。遊びも勉強も丁寧に教えてくれる。


 お姉ちゃんは意外と努力家で成績もかなり良くて、そんな所も尊敬している。やたら妹の活躍するアニメを推して来てウザイ所も有るけど、最近私もクセになってきちゃった。これが洗脳というものでしょうか?


 あと、信じ難い程の兄フェチについては、もう病気と思って温かく見守る事に。

 そして普段はちょっと弱虫な面もあるけど、イザという時には強くて頼れる所もあるのです。

 そんなお姉ちゃんの事、いつも見てるのが大好きなのです。




―――ノックとともに蘭が澄美怜すみれの部屋に入って来た。


「お姉ちゃん、今日は顔色が優れなかったから湯タンポ作ってきたよ」


 澄美怜すみれは沈んだ面持ちで物想いに耽っていた。澄美怜に時々ある不定愁訴の一つだ。


 蘭は良くも悪しくも常に澄美怜すみれをチェック、普段はやや陰キャ風に皮肉言ったりと姉をネタに遊んでいるが、澄美怜すみれが不安定になると素早く察知して部屋まで届けてあげるのだった。


 蘭が小学校低学年の頃、澄美怜すみれが『体の冷え』として表現する体調不良に悩んでいた日、思わず居ても立ってもいられず作ってあげた湯タンポ。


 『凄く楽になった』 『本当気がきくいい子だね―』 と褒められてからは、この子のライフワークの一つだ。



「いつもありがとう。さすがだね、このタイミング。今日はぐっすり寝れるかも」


「うん、夜更かししちゃダメだよ、お兄ちゃんの事ばっかり考えて。フフ、じゃね―」


「え、おやすみ~……。蘭ったらもう……」



 苦笑いを浮かべつつ、 ホント人の事よく見てるんだから……でもつい可愛がっちゃうんだよナー、と目を細め、ホカホカのそれをお腹に乗せて布団の中に入った。


「あの夢、見ないといいな……」

 ……小さい頃から私を蝕む連続夢……ナイトメア……


 澄美怜の恐れるそれを『氷の悪夢ナイ卜メア』と呼んでいた。それは命を奪いに来る殺人夢。


 それに殺される予感は少しずつ強まっていた。


 ヒシヒシと迫り来るその予感。澄美怜すみれは首を横に強く振ってそれを振り払い、お腹の上の湯タンポに手を当て集中した。


 ジンワリと伝わる熱気が少しずつ悪感を退けて行く。


 蘭のお陰でその日はすんなりと眠りにつく事が出来た。



 ***



 その翌々日。

 澄美怜すみれの待ちに待った日曜日―――先日の兄の薊との下校。その分を取り返そうと朝から兄の部屋へ入り浸る澄美怜すみれ


 長時間居すわってマンガ、ラノベ、音楽等の話題に興じて二人で話す時間に没頭。それも肌が触れそうな距離感で。


「ねえお兄ちゃん見て、この決壊2ndのトレイラーとMAD。あとこれも、決壊:星間鉄道。……私、鳥ハダ立っちゃった」


「おー、マジエモい! この動画どこで見つけた?」


 楽しさ半分、仲良い兄妹って余所でもこうなの?……と戸惑う深優人みゆと。昔から仲良いものの、最近は友達以上恋人未満の関係をこんな可愛い妹としている事に戸惑いしかない。


「俺もプレイリストに追加しとくよ。こっちもこんなのみつけてさ……」


 穏やかなひと時。でも兄の気持ちは少しいたたまれなかった。



 自分は本当にあの失恋から癒えているのだろうか、と密かに瞳を曇らせる深優人みゆとだった。




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