カリカリカリ……夕食後、
すると、隣室からの物音に気付き少し壁に近づく。
ん?! お兄ちゃん……その声は……と、何やら気になって壁に耳を寄せた。
『はあはあ……』
なんか荒い息遣いが聴こえる……こ、これはまさか……
と急にドキドキしはじめる。息が段々エスカレートしてくる。
これはなんか青春のイケないコト?……
「はあ、うっ、はあ、くっはっ……っ ……スミ……レッ……くっ」
―――ええ?! 私のこと考えながら! そんな、お兄ちゃんたら!
真っ赤に染まる耳。だが髪をばっちりその耳に掛け、ぴったりそれを壁に密着させる。
「28、29、くっそ……ぬあぁ、……負けるか……んぐぐ」
「え?」
ガチャン!……ドコッ……ダンベルを置き台に戻す音だ。
やっぱトレーニング……ハハ……私も集中力切れてきたからちょっと筋卜レ講義でも聞こっかな。でも乗せちゃうと長いかもなー。構ってくれるのは嬉しいんだけど。クスッ
ドアノックにタイムラグがあり、荒く息を切らせて「どうぞ」と返事が返る。
ゆっくりドアを開き、お兄ちゃん筋トレしてるの? と覗くとダンベルの後は腹筋をしていた様だ。
「ああ、うるさかった? 悪い」
「ううん、ちょと気分転換におじゃまするね。私最近もっとウエスト引き締めたいなー、なんて思ってて。何か有効なやり方知ってる?」
「ああ
ヤッパリ講義が始まっちゃった。でも、こんな風に楽しそうに一生懸命語るお兄ちゃんが好きだ。それにこうして気軽に部屋へ来て話が出来るのは妹の特権だよね。恋人だってこんな機会はそうそう無い筈! フフン。
「ねえ、ところでトレーニングって辛いんだけど、特に最後に後もう1回とか、力が入らない時ってどうしたらいいカナー?」
「それ、俺も以前父さんが毎日続けてる腕立て伏せについて同様な質問した事があって、そしたら父さんがね、
『あと十回が辛い……なんて時に 《この十回は家族の誰かの分》て事にするんだ。 そしてそれをやり遂げなければ助けられない、とかって設定にすると踏ん張れるんだ』
―――って教えてくれたんだ。コレが実際かなり有効で。んで、それ以来取り入れてるんだ」
ナルホド―……さっきのはそれね……って何考えてたの私。
思い出して赤面するも、ブンブンと顔を横振りしてリセット。早速自分もアブローラーをやってる所を想像する。しかもその1回を遂げねば兄は死す、という設定で。
『……ムンっ…はぅぅぅ、お兄ちゃ―ん! ぐぐぐっ、』
ナハハ、確かに力が出そう。
「ありがとう。ためになりそう。じゃあそろそろ戻るね。お兄ちゃんはまだやるの?」
「ああ、もう少し」
「ならそっちのシャツ洗いに出しとくよ(これはレア・アイテムゲットのチャンス!)」
「いや、いいよ(って優しすぎ!……或いはまさかヘンタイ目的?)」
「でも、洗い物有ったら早く出してってママが……(言って無いけどw)」
「え、そう? じゃお言葉に甘えて」
そもそも深優人は潔癖症で、少し汗をかくとすぐに汗拭きシート等で拭いて着がえてしまう。何でも以前にちょっと汗くささを指摘されて気にする様に。だから汗臭いどころかフェロモンまで拭き取ってしまって勿体ない、等と澄美怜は残念がる。故に……
やった~、アイテムゲット~! 私はお兄ちゃんの匂いが大好き。表現が難しいけど、そう、それはまるでお兄ちゃんが愛飲してるあれ、あの青く美しいブルーエ(矢車菊)の花びらがたくさん入った兄お気に入りのフレーバーティーの香りに似ている。
様々な果実、バニラ、そしていくつかの花で香り付けされた、あの甘い香りにも似た何とも落ち着くけど抱きしめたくなる様な感じにウットリしてしまうのです!
最近の
清潔なのはいいけどちょっと神経質なんだよね。洗たく物もさっさと洗濯機へと入れられちゃうし。ん? て事はこれ、私的末端価格、プライスレスってヤツ? このまま封詰め……いやそれは流石にマズいか、でもすぐに洗濯機ヘって言うのもちょっと惜しいし。
キョロキョロ ――――誰も居ないよね……。