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第7話 今は三人がいい。澄美怜を守るためにも






 お兄ちゃんを失う事、それは私が消える事……

 消えるというのは自分を棄てること。

 つまり自害衝動。




   それは私の中の闇のひとつ。

   普段は深い所に潜んでいる。




 これは物心ついた時に既に存在していた。

『激しい恨みと、ここに居たくない』というものが渦巻いてる様な、その『何か』のせいで消えてしまいたくなる。


 その想いは深く根を張っていて、いや、むしろそれは自分自身であってどうにもならない。とにかく今はこんな自分と付き合っていくしかない……。



 澄美怜すみれはこうした思念を隠そうと、敢えて仮初めのスンデレを放った。目を逸らしテレ笑いの兄。


 ……実際、私は小さな頃に自分を消そうと実行した事がある。でも寸前で気付いたお兄ちゃんが阻止して約束してくれた。



 何があっても絶対に守ってくれるって。



 そう、この人だけが持つ『不思議な力』 であの衝動を抑えてくれる。と、その闇が何故か直ちに遠退く。幼い頃からこれまで、その度にあの力で守ってくれている。


 私はそれを『癒しの力』と呼んでいる。


 お兄ちゃん……

 カッコなんてつけなくていい。スパダリじゃなくてもいい。私にはそんなの何の価値もない。常に見守るその誠意とあの力にずっと救われて来た。


 だからもしお兄ちゃんに見捨てられた時、きっとあの衝動は抑え切れなくなって、私は存在出来なくなる。


 そうならない様に、これからもこの人を信じて生きていくのです。






◆◇◆


「ねえ深優人みゆと~、最近ドロー系アプリ、何使ってる?」


 あざみとは以前からオタク趣味が合致、休み時間等にイラストの見せ合いをしていた。


 ……地味キャな俺にとって気を使わずに話し合える女子の存在は本当に有り難い。しかもこの娘は学年トップランク美少女だ。それだけに男子の視線がキツイ……。


 薊のクラス転入、つまり深優人が中学二年以来、休みの日等に澄美怜を加えた三人で集まり、自宅でPCゲームや、アニメなどを見たりとオタク遊びに興じていた。


 当初この二人にグイグイ迫られて、好きなクラシック音楽を聴く時間も奪われ、仕方なく付き合っていた。しかし今ではその楽しさを理解、マンザラでもなくなった。


 そもそも今や世界中がオタク文化で染まっている。むしろそれが普通かも知れない。そう割り切ってからはアッという間に親しくなって、『薊ちゃん』から『あざみん』と呼ぶ様になっていた。薊もすっかり馴染んで深優人みゆとを呼び捨てにする迄になっている。


「俺はペンタブ使いだからクラップ・スタジオだけど、アザみんのi-posペイントってメチャ使いやすいね。スマホでも結構使えるし!」


 そんな仲の良い三人の今は―――


 中学生同士の頃と違い、あざみが彼女的なポジションを意識して来るほど、それが澄美怜すみれには受け入れ難いものとなった。とりわけ薊の高校入学でそれに拍車がかかった。 ニコやかに話す深優人みゆとの心中では、


 ……澄美怜すみれとはこの前もかなり険悪だったから何か有ったのかも知れない。もう取り持つのも一苦労だ…… それでもエスカレートさえしなきゃこの二人のマンザイを見てるの楽しいけどね。多分本音では仲良くしたいと思ってるんだろうな。


「でもヤッパ私もペンタブにしよっかな。もっと本格的に遣りたいし~、どこで買ったら良いか教えて―」


 こんな風に最近ではあざみんが二人で出かけるきっかけをそれとなく持ちかけてくる。

 澄美怜すみれは俺から色々聞き出すと、割り込んで阻止するか一緒に付いて来るかのどちらかにもち込む。以前、隠してバレた時、スネて大変な状況になった事もある。

 やるなら余程上手く演らないと……でも実はこの子達のお陰で俺は救われている……。



 この余りに早熟だった深優人みゆとにとって、数年前の百合愛ゆりあとの強い絆が引き裂かれたダメージは甚大だった。それ以来ずっと引きずって来た想い。

 次第に癒えて来たとはいえ、この頃はまだ三人でわちゃわちゃとやってる方が気楽だと思っていた。



 ……だから今は三人がいい。それに澄美怜すみれにも。



 だが最近はいつまでもそうした形ではいられない気配を感じ始めている深優人みゆとだった。




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