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第6話 こんな事がばれたら俺たちはどうなってしまうのだろう








 夕飯を終え、暫くリビングで寛ぐ永遠園とわぞの一家。澄美怜すみれはその愛くるしく柔かな澄まし顔をあざとく傾けて微笑むと、


「お兄ちゃんスマホ見過ぎ! ホラ、こんなに肩凝ってる。ちょっとほぐしてあげる」


 そう言って指圧を開始。だが何故か澄美怜すみれの顔がうなじに近い。微かにスンスン音。密かに動揺する深優人みゆと



―――ヤッパリ嗅がれてる?!?!



 う~ん……こう言った妹の『スンデレ』? な可愛いくもアブノーマルな所は俺的に役得なんだけど……


 表に顕さないテレ笑いを心の中に浮かべる深優人みゆと。満足げに指圧を続ける澄美怜すみれ。そして仲の良い兄妹を微笑ましく見守る両親と末っ子。

 全ては上手くいっているささやかながらも幸福な家族の様に見える。


 だが実は澄美怜すみれには人には言えないヤバイ問題行動がある。



 それは月に一~二回の頻度でやってくる。



 大抵皆が寝静まった深夜、隣の部屋の澄美怜は必ずトイレを経由して俺の部屋へ。

 これは他の部屋の人に俺がトイレに行って戻ったと思わせる為の足音の偽装の様なのだ。


 二階には兄妹三人それぞれの個室がある。トイレも二階にあるため、こうすると特に一階の両親には誰がどの部屋に出入りしたか分かりづらい。恐らくそれを考えての事だ。


 そうしておもむろに俺のベッドに潜り込んで来る。



「ゴメンね……また……」


 寝入りがけを起こされ、あ……う……うん……と、返事もやっとだ。


「冷たいよ……兄さん」


 かすれた声でささやいてくる。


「大丈夫だよ」


 と言って、預けて来たその手を繋ぐ。


 辛そうに口をつぐんだ澄美怜すみれは、やにわに「ス―――ッ」と鼻から息を吸い込んだ。

 そのまま止まる呼吸。


「どぉ?……」

「……んっ」


 繋いだ手に力が入る澄美怜すみれ。そして、


「はぁ……」


 溜め息混じりの吐息が深優人みゆとの肩越しにかかった。


 そこへ微かな囁き。ありがとうと聴こえたような。


 「ふぅ―――― ……」


 微小に空気を揺らす満足気にも思える長い呼気が耳をくすぐる。


 澄美怜すみれは手の親指で深優人みゆとの手を何度もなで続ける。深優人みゆとも同じ様に返す。

 それは感謝と愛おしさを表す仕草か。


 互いに緊迫が安らぎへと移ろいで行く。


 そうしている内、やがて眠りに落ちた。





 ……こんな事がばれたら俺たちはどうなってしまうのだろうか。起きている時にこれについて余り話し合わない。互いに気を遣わせたくないから……。


 こうして大抵は未明か明け方まで一緒に寝てから、誰かに見つかる前に自分の部屋に戻っていく。


 それがこの何年も続いていた。うたた寝状態で深優人みゆとは思いを巡らせる。



 ……見つかれば誰の目にも異常な兄妹に見えるだろうな。もちろんこの子なりの理由があるんだけど……多くを語ろうとしない。あの不調ヘの対処なのは確かなんだろうけど……。



 この様にして再び眠りに落ちる深優人みゆと





 しかし、こうした事のあった翌朝でも何も無かったかの様にいつもと変わらぬ朝のル―ティンが始まる。


「はい、今日はあの『ブルーエ青い矢車菊』入りの大好きなフレーバーティーで作ったミルクティーだよ」


「ありがと。これ久しぶりだな。ストレートもイイけどミルクティーにも意外と合うんだよな……」


 澄美怜すみれはこんな時、敢えて目を合わさない。しかし心中では……


 お兄ちゃんと過ごす平和で幸福な朝。家族の手前、昨日の事は話題に出さない。あのお陰で今日もこうして普通に過ごせる事、とても感謝してる。

 ただこの人にプレッシャーを与えたくなくて敢えて口にしない私の中の大前提がある。決して変えらそうもない事。


 お兄ちゃんを失う事、それは私が消える事……

 消えるというのは自分を棄てること。

 つまり自害衝動。




   それは私の中の闇のひとつ。

    普段は深い所に潜んでいる。




 これは物心ついた時に既に存在していた。

『激しい恨みと、ここに居たくない』というものが渦巻いてる様な、その『何か』のせいで消えてしまいたくなる。


 その想いは深く根を張っていて、いや、むしろそれは自分自身であってどうにもならない。とにかく今はこんな自分と付き合っていくしかない……。





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