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第3話 クンクンする世話焼きメイドの天使






 日々エスカレートする世話焼きぶりに戸惑う兄・深優人みゆと



「じゃあ食後はエスプレッソにする? 勉強するなら眠気醒ましにもいいし」


 う……またしても世話焼きメイド……何か最近の澄美怜すみれのブラコン度は余りに……いや俺だって端から見れば充分シスコンだろうけど、どちらかと言えばまだ節度のあるシスコン……

 ま、自分で言うのも何だがムッツリシスコンとでも言うか、実に奥ゆかしいものだ……と思いたい。

 でも最近の澄美怜すみれは堂々と恋人か良妻の様な、そんな言動が目に付く感じで、兄としてはどう対応して良いやら……。


「あ、甘味料は、こっちを使うんでしょ、はいパラスウィート。糖質控えめだもんね」


 気が利きすぎというか、俺は甘やかされ過ぎなのだ。俺の全ての好みを熟知している。そしてその可愛さに清楚な微笑みを添えての日々の過剰サービス。もう『天使かよ』


 澄美怜すみれは顔立ちもアイドル並でスタイルは深優人ごのみの細身タイプ。適度な胸とくびれた腰のシルエットが美しい。黒髪ストレートをたまにポニーテールにもしている。


 その髪を下ろしている今は動く度に肩より下までのそれがサラサラと揺れ、繊細な細毛は日の光に当たった時などは栗色から琥珀色へのグラデーションとなって輝く。ヘアアイロンをかけずとも濡れ羽の様なツヤやかな髪からは、通りかかると仄かにいい香りを放って来る。


 う~ん、これらは俺にとって文句なしに嬉しい状況のはず、なのだが恐らくは全て俺を虜にする為の演出……の気もする。こんなに甲斐甲斐しくして貰うと何か後が怖い……。


 タ食はニュースを見ながらの一家団欒。向かいの席で凛とした佇まいと柔らかな澄まし顔の澄美怜すみれが、上品な箸使いで口に運ぶ最中に目が合うと、天使の微笑みで返してくれる。


 ちょっとおい、可愛過ぎだろ!


 アニメ妹であればここは「フン」〈プイッ〉 とか「何よ」とか、はたまた甲斐甲斐しい世話焼きの小事とかで兄をたじろがせて、イラ・カワな妹属性を全開にする場面である。

 だが深優人みゆとがそうした反発性妹属性に萌えるタイプではない事をわきまえていて、あの様な微笑みを見せるのだ。因みに従順タイプ好きとバレている。


 ううう……この笑顔に超萌えてる俺も仕方無いヤツだが、それを必死に隠している所を見てそんな兄に澄美怜すみれもムッツリ萌えしている事も、実はこちらとしても分かってしまっているのが何ともモドカシイ。

 『あ、今お兄ちゃん、私の事可愛く思ってくれたよね?』等と思ってるハズだ。それが何となく伝わって来る。


 そして『スン』としてたと思ったら不意打ち気味に目を合わせて意味もなく 〈ニコッ〉


「……っ!」


 しかし……全く何を考えているのかこの子は。良く分からないが差し当たって妹のこんな態度を俺は『スンデレ』と呼んでいる。


 近いものにク―ルでデレるヤツでクーデレと言うのがある。アニメで良くある冷たい態度ながら放つ言葉はデレった内容だったり、クールな仕草から急にデレになったりがそれだ。


 その点で『スンデレ』は後者に似ているが、妹は対象を冷たく落としてから持ち上げる様な所は一切なくて、スンとお澄まししてる時も温かさを湛えて、そこからデレてくるこれは呼称が無いので俺的にスンデレと名付ける事にした。


「ああ……そもそもこの子からのツンデレ経験、一度も無いし……ホント優し過ぎる」


 こんなに可愛い奇跡の妹だが、最近では至れり尽くせりが行き過ぎて妙にヘンタイっぽいものを感じる事も。


 何かクンクンされてたり?……ストーカーみたいな時もあって……。兄としてちょっと心配……。


 まあ怖いのであまり考えない様にしてるけど。


 そう、深優人みゆと澄美怜すみれには本当は切ない理由があってそうしている事を半分知りながら、澄美怜すみれだけでなく自分自身にも気付かぬフリに努めていた。






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