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殺し屋

 その公園には大きな噴水があった。噴水は古代ローマでは、富の象徴だったのだそうだ。


 今回わたしは噴水のほとりで待ち合わせをすることにした。

 噴水はいい。マイナスイオンが発生するから、リラックス効果がありストレス解消にもって来いだ。

 とくにわたしのような特殊な仕事をしている人間にとっては打ってつけの場所なのだ。しかも、噴水の水音は周囲の音を遮断してくれる。盗聴される心配もない。話に集中できるというものだ。


 わたしは噴水の縁に腰を掛け、新聞を読んでいる若者を見つけた。

 連絡した通りだ。額に目印のメガネを架けている。わたしは男の隣にゆっくりと座った。

「火を貸していただけませんか?」

 若い男は怪訝けげんそうな顔をしてわたしを見た。少しウェーブのかかった柔らかな髪。鼻筋の通った端正な顔立ちをしていた。細身のセーターが筋肉質の身体を隠しているようだ。身長は平均よりもやや高いぐらいか・・・・・・。

「すみません。タバコは吸わないもので」

「失礼しました」合言葉も完璧だ。

 わたしはまっすぐ、遠くの砂場で遊ぶ子供たちを眺めながら話をすすめた。

「いいか。今回のターゲットは17歳の女子高生だ」

「え?」男は驚いた声を上げた。「あなたは・・・・・・」

「こっちを見るな」

「はい」男は恐縮しているようだ。

「ターゲットが若いからと言ってあなどるなよ。武術の達人だ」

「そうなんですか。でも争わなければ別に問題ないと思いますが・・・・・・」

「まあそうだな。今夜7時にこの住所の家でやってくれ」わたしはメモを渡した。「ひとりの時を狙うんだぞ」

「そうですね、家族がいると邪魔ですからね」

「やり方はきみに任せる」

「ありがとうございます」

「あと腐れないように頼むぞ」

「だいじょうぶです。そんな複雑な関係にはなりませんから」

「報酬はいつもの口座に振り込んでおく」

「はい。助かります」

「次回の依頼まではコンタクトを取ってくるな」

「は?了解しました」

「では行け」

 若い男は立ち上がると、会釈をして公園から立ち去って行った。


 しばらくすると別の男がわたしに近づいて来た。

「遅れてしまって申し訳ない」男は新聞を片手に持っている。

 わたしはギョッとして男を見上げた。サングラスを額にかけた屈強な男がそこに立っていた。ピンストライプの濃紺のスーツに身を包んでいる。

「まさか・・・・・・火を貸してくださらんか」

「あいにくタバコは吸わないんでね」

「おまえが殺し屋ヒットマンなのか!」

「はあ?」

「わたしは今までいったい誰と話をしていたんだ・・・・・・」

「さっき公園を出て行った大学生のことか?あれは家庭教師のアルバイトだろう」

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