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漫画週刊誌

「あなた、太郎たろうはどこ?」

「また友達のところに遊びに行ってるんじゃないのか」

 亭主はアザラシのようにゴロ寝しながらテレビを観ている。痩せてはいるものの、最近いささかお腹が出てきたようだ。アザラシがトドになったらどうしてくれよう。

「あの子ったら宿題もしないで。一学期の成績見た?」

 まあ女房の方も亭主のこを言えた義理ではない。純真無垢だった乙女の頃とはだいぶ違って見える。最近目尻のしわが気になりだした。生活感が使い込んだタワシのようににじみ出ているようだ。

「まあ、オレの子だし。あんな感じじゃないのか」

 どんな感じよ。

「あの子の成績。たまに“ふつう”があるくらいで、後は“がんばりましょう”ばっかりじゃないの。ちょっと太郎を捜してくるわ」

 そう言うと、妻の時子ときこはエプロンを投げ捨て、自転車で街に繰り出して行ったのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 しばらく走ると、時子は本屋の店先で立ち読みをしている太郎の姿を発見した。

 1959年(昭和34年)『週刊少年マガジン』と『週刊少年サンデー』が発刊された。世の少年たちは角砂糖にたかる蟻のように、たちまちその漫画週刊誌のとりこになってしまっていたのである。

「こら!なにヘラヘラ笑ってるの。漫画ばっかり読んで!あなたそんな事じゃロクな人間になれないわよ。わかってんの!」

「たいへん申し訳ございません!」

 すると太郎の横でやはり立ち読みしていた眼鏡をかけた実直そうな青年が、まるでコンクリートでも流し込んだかのように背筋をピイインと伸ばして平身低頭しはじめたのだった。

「あの・・・・・・」

 それは太郎の学校の担任教師、横山よこやま先生なのであった。

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