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スイカ

「いよいよ今年も『全国スイカ割選手権』がはじまります!わたくし司会の富士光晴夫ふじみつはるおと申します」

「アシスタントの紅小玉靖子べにこだまやすこです。よろしくお願いします」

 浜辺の特設会場には、大勢の観客が集まっていた。テレビ中継の司会は中堅のアナウンサー、アシスタントは売り出し中の若手のタレントである。

「紅小玉さん。今年はもうスイカを食べられましたか?」

「もちろんです。でも今年のスイカはちょっと甘さが足りなかったような気もするんですよね」

「おや、それは選び方に問題があったのかもしれませんよ」

「おいしいスイカの選び方があるんですか。ぜひ教えてください」

 靖子は切なそうな顔をして司会を見つめる。

「スイカにはしま模様がありますよね」

「あります、あります」

「あれがくっきりと黒いほどおいしいそうなんです」

「へえ、そうなんですか。あの縞模様はどうしてついてるんですか?」

「鳥が見つけやすいようにです。スイカは鳥に食べられることによって繁殖するんだそうですよ」

「どういうことですか?」

「お食事中の方にはすみません。種は消化されずに、あちらこちらにバラまかれるんです」

「あらまあ」

「それから、最近はスーパーで切り売りもしているでしょう」

「はい。少人数の家族には助かります」

「その時は種をよく見て買うといいですよ」

「種ですか」

「そう、種が黒い方がおいしいスイカなんだそうです。あと実は赤が強いスイカが甘いそうです」

「最近は黄色い実のスイカもありますよね」

「江戸時代は赤は気持ち悪いからって、黄色いスイカが好んで食べられていたそうですよ」

「富士光アナウンサーさんて博識ですねえ。さすがです」

「それではそろそろ準備が整ったようですので、さっそく本番に参りましょう!」


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「今日は全国から勝ち抜いた10人のスイカ割名人が集まってきています」

 富士光アナは海パンの男性陣をざっと紹介した。

「スイカ割ってルールがあるんでしょうか」靖子が訊く。

「山形JAの『日本スイカ割り推進協会』が制定したルールがあるんです。スイカと競技者の間は5から7m離れていなければいけません。棒は太さ5cm以内、長さ1.2m以内と決められています。競技時間制限は1分30秒以内、棒を振るのは3回までと決められているんですね」

「へえ、こんなお遊び・・・失礼、スイカ割にも厳格なルールがあるんですね」

「今回は4位までの入賞者に豪華な商品が用意されています。紅小玉さん、ご紹介お願いします」

「はい。今回4位までに入賞された選手には、食べ放題で『世界のスイカの食べ方体験』を贈呈いたします。ところで富士光さん。スイカって世界中で食べられていたんですね」

「そうなんですよ紅小玉さん。スイカを漢字で書くと西瓜と書くでしょ。この西っていうのはインドのことなんです。スイカはインド発祥の野菜なんですよ」

「え?スイカって果物じゃないんですか」

「果実的野菜ですよ。ちなみにイチゴやメロンも同じです」

「今日は本当に勉強になります!」

「それでは各自一斉に用意、スタート!」

 競技用ピストルが打ち鳴らされた。


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「では、4位の方に賞品です。4位はイタリアの食べ方で食べ放題になりますよ」

 富士光アナが紹介したのはスイカにレモン汁をかけるというものだった。

「お味はどうでしょう?」

 アシスタントの紅小玉靖子がマイクを向けた。

「爽やかです。これは有りですね。目からうろこの食べ方です」


「次に3位の賞品になります。これはギリシャの食べ方です」

 ギリシャでは、スイカをチーズと一緒に食べるのだった。

「いかがですか?」靖子のマイクが向けられた。

「うん。チーズの塩味が、スイカの甘さを引き立ててくれるような感じがします。メロンと生ハムを彷彿ほうふつとさせますね。グッドなお味です」


「それでは2位の賞品です。2位は南米の食べ方になります」

 南米では、スイカにチリソースをかけて食べるのだった。

「お味はどうでしょう?」アシスタントの靖子がマイクを向けた。

「う~ん。食べれないことはないけど・・・ビミョウかな」


「それでは優勝賞品です。栄えある優勝者にはカンボジアの食べ方をご提供いたします!」

 カンボジアではスイカを干し魚と一緒にご飯を食べるのだ。

「いかがですか?」靖子がマイクを向ける。

「これって・・・・・・罰ゲームじゃないですよね」

「とんでもない。あじにあきたらさば秋刀魚さんまもありますよ。おかわりをどうぞ!」

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