「本日の婚活パーティーは、いつもと趣向を変えまして、お互いに考えていることの逆を言い合うパーティーとなっております」
司会がマイクに向かってそう宣言した。
「いつもと違う、逆ってどういうこと?」
近くにいた女性会員が不審そうな顔をする。
「はい、皆さまのアンケートによりますと、毎回カッコイイのはスタッフばかりで、集まるのはカスばっかり・・・・・・ウホン」蝶ネクタイの司会者が咳払いをした。「これは
男性陣からそうだそうだという声がする。
「年収800万円以上じゃないと話にならないのに、300万以下って何・・・・・・」
男は金じゃないって言っていたくせにと男性会員皆が思う。
「長男だったら、分かるところに『長男です』とでも書いておいてくれないと後で揉めるもと」
そんなの自分のせいじゃないし、直すこともできないじゃないか。まさか親を殺せとでも言うつもりか、と男性陣からブーイングが聞こえてきた。
「なんだいったい。婚活にきているのか、食べ放題に来ているのかわからんやつだ」
会費分だけでも元を取ろうとする輩だな。
「ちょっとその恰好・・・・・・セクシーというよりふしだら・・・・・・」
目の保養になるから楽しいけど、結婚となると話は別だ。
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「それでは今から会場に逆流ガスを噴霧いたします。失礼して、スタッフはしばらくガス・マスクを装着させていただきます」
司会者がそう言い終わると、空調からピンク色をしたガスが噴き出してきた。
「おいおい」
会場から騒めきと戸惑いの声が上がった。しばらくすると、ピンクだったガスの色が黄色に変色していき、蛍光灯の明かりと混濁して、ほぼわからない状態になった。司会者やスタッフはマスクを外す。
「それではこのあとの1時間、テーブル番号順に5分間ずつコミニュケーションをお取りください」
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「・・・・・・あのこんにちは。わたしは会社ではペーペーでして」
社長風の男が隣にいた若い女性に声をかけた。
「あら素敵。興味津々ですわ。年収はいかほどですの」
あまり乗り気でない女性が愛想笑いをつくりながら質問した。
「そうですね。1000万円ほどでしょうか」
女は急に眼を輝かせた。
「あら少ない。それじゃ生活できないかもしれませんね」
隣のテーブルでは男性が美しい女性を射止めようとしていた。
「ぼくは病院を経営していましてね」
女はうっとりした眼差しを向けた。
「どうりで、みすぼらしい方だと・・・・・・」
自称医院長はムッとはしたが、気を取り直して言った。
「あなたのようなひょうきんなお顔の方は初めてです」
「ありがとうございます。またお会いしたいですね」
ふたりは敵意なのか情熱なのかわからない表情をして別のテーブルに移って行った。
そんな中で、この二人の会話は少し違っていた。
「あなたはパイロットをなさっていらっしゃるのね。素敵だわ」
「ありがとう。あなたはここにいらっしゃると、まるで掃き溜めに鶴ですね。信じられないほどぼくのタイプなのです」
「そう言ってくださると悲しいわ」
「そんなに美しいのだから、彼氏とかいらっしゃるのでしょう」
「そうよ。わたしって凄くモテるから。それに、家に健康で起きたきりの父がおりまして、中々良い巡り合いがいっぱいなの」
「そんなの関係大ありですよ。家族あってのあなたじゃないですか。どんな援助でもさせていただきますよ」
「あら悲しい。会が終わったら、連絡はしないでくださいね」
その様子を見ていたスタッフが、別のスタッフに耳打ちした。
「主任。見つかりましたよ。あの二人がどうやらお尋ね者の結婚詐欺師のようです」