目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報
大掃除奮闘記

 “大掃除”。それは積年の宿敵だ。

「今年こそは」・・・・・・と何度こいつに挑んだことか。

 去年はとにかく「心がときめくもの以外は全て捨てる」という意気込みで臨んだところがあえなく沈没。なぜならば、捨てようと思うもの全てにときめきを感じてしまったからだ。

 今年はとにかく心を鬼にして断捨離だんしゃりを敢行することを誓う・・・・・・と、いったい誰に誓っているのかというと自分自身に誓ったのである。

 まず、どこから手をつけようかという段階で迷うことになる。なにしろ友人たちに言わせると、わたしの家はすでに手のつけようがないほどゴミで埋め尽くされているというのである。いささか失礼なやつらだ。


 とりあえず冷蔵庫の隙間にある「いつかは必ず使うはず・・・・・・」と思って取っておいた紙袋を片付けようと思った。

「なんだこれは!」

 無理矢理ぬき出してみると、尋常ではない枚数の紙袋が大量に床に散乱してしまった。貯まれば貯まるものである。

「あ、これブランドの紙袋・・・・・・あ、これ紙質がとってもいい・・・・・・キャラのイラスト入りじゃん・・・・・・」などと言っているうちは、紙袋の山はちっともその形を変えないのである。「断じて今年は負けないぞ」と誓ったのである。

 緊張のあまり、指が震える思いで手頃な10枚だけを残し、すべてゴミ袋に詰めてやった。ふう。


 次に化粧台の上がチラッと視界に入った。そこは大量な化粧品のアイランドと化していた。その数かるく百種類は超えていそうな敵陣である。おかげで最近ではほとんど化粧はこたつの上でやらざるを得ない状態に陥っていたのだ。なんとかあの領地を無駄な化粧品から奪還しなければならない。

 わたしは果敢に化粧品の整理に挑んだ。するとどうだろう。次から次へと同じ化粧品の使いかけが出てくるではないか。いったいなんなんだこいつらは、どこから現われるのだ。分身の術でも使ったのか?どうりで最近お金の減りが早いわけである。

 そこでわたしは妙案をひねり出した。使いかけの化粧品を注ぎ足して、空になった瓶を捨て去れば良いではないか。するとどうだろう、おなじ満タンの化粧品が大量発生したではないか。なんという無駄な買い方をしてきたのか。中身の空いた化粧品を丸ごとゴミ袋に投げ捨てながら、我ながらあきれてしまった。


 そうこうしているうちに午前中が終わってしまった。

 さあお昼だ・・・・・・いや待て待て。昨年はここで一回休憩をいれたのが運の尽きだったではないか。

 見よ、あそこの本棚の下を。昼ごはんをたべながら、何の気なしにあそこに積み上げられている断捨離候補の漫画本のページをめくったが最後、日が暮れるまで夢中で読み耽ふけってしまった過去を忘れてはいけない。

 今日の昼食は抜きだ。そのかわりに大掃除が終了した暁には、自分へのご褒美をたんとくれてやる。Uber EATSで旨いものを頼めるだけ頼んで、ビールとワインを飲めるだけ飲んでやるのだ。


 次に最大の難関に挑むことにした。洋服ダンスである。「年に1度も着なかったものは・・・・・・来年は着るかもしれない」・・・・・・などと思ってはいけない。大掃除はそんな甘いものではない。昨年そう考えて、今年そいつらを一枚でも着たか?いいや、そんなことはなかった。

 今年は心を鬼にして捨ててやる。わたしは芋蔓式いもづるしきに出てくるそれらの洋服を、まるで殺人鬼のような顔でゴミ袋に詰め込んでいった。

 机の引き出しは悪魔の場所だから気をつけよう。整理し始めたが最後、無限ループと化してしまう。

 家電の裏は見て見ぬ振りを決めつけた。とりあえず今年は見えるところを攻略するのだ。大量発生した謎のケーブルたちも「いつかどこかで使えるはず・・・・・・」などという幻想を捨ててゴミ袋に捨てた。


 夕闇が近づいてきた。時間がない。わたしは取りあえず床に散乱しているゴミの山を、捕虜収容所とおぼしき1カ所に寄せてまとめる作戦に打って出た。もはや掃除というより、現実を隠そうとしている。捕虜のほとんどはいらないものだから、言い訳もきかず躊躇ちゅうちょなく鬼軍曹のようにゴミ袋行きの刑に処した。

 やった、やったぞ。これで今年のわたしは勝利目前である。旨いビールで乾杯しよう。缶ビールを盛大にあおったわたしは、横目でカレンダーをちらりと見て愕然がくぜんとした。


 迂闊うかつだった!

 なんと年内最後のゴミ収集日が昨日終了していたのだ。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?