「どうして山に登るのですか。そこに“”山があ~る”から・・・・・・なんてね。あ、失礼しました」リポーターのアップからカメラが引いて女性を映し出した。「“山ガール”というのはあなた方のような方を言うのですね」
テレビのリポーターが山道でそれらしき女性を捕まえてマイクを向けたのだ。
「そうデース」と
「どうすればあなたのような“
「簡単ですよ。帽子、シャツ、タイツ、スカート、トレッキングシューズを揃えればいいんです。しかもなるべくカワイイのを選んで!」
「ほう」テレビリポーターはメガネを押し上げて興味津々といった顔でマイクを近づけた。「それらを選ぶコツとかあるんでしょうか?」
「ありますよ。なんでもいいって訳じゃありませんから」
「たとえば」
「そうですねえ。まず下着選びは意外と大切なんです」
「どういうふうにでしょう?」
「汗を吸うだけではだめなんです。いつまでも濡れていたら、汗が冷えて体調を崩してしまうでしょう。だから水分を拡散してくれる下着が大切なの」
「なるほど、山では汗をかいたからといって、ひと前で着替えるわけにもいきませんものね」
「そうです。もちろん、アウターやその下に着るものは防寒、防風、防雨を視野にいれて選びます。フードがあるとカワイイけど、かさ張ってしまうのでアウターとミッドレイヤーの両方がフード付きにならないように注意しますけど。それから山は寒暖の差が激しいですから、脱着しやすいものがいいですね」
「リュックはどうですか?」
リポーターが沙奈絵の背負っているリュックを指さす。
「大きさはもちろん大切ですけど、ウエストベルトの長さなんかも気にして身体にフィットするものを選びます」
「重たい物を下に入れるのですよね」
「逆ですよ」沙奈絵は笑った。「意外かもしれませんが、重いものを上に詰めた方がバランスがとれて歩きやすいんです」
「へえ、それは知りませんでした」
リポーターがわざとらしく驚いた顔をした。
「でも最もたいせつなのは登山靴かもしれません」
「靴ですか」
「山道を歩くときは疲れにくくするために、とにかく通常時に履く靴よりもさらにジャストサイズでフィットしていることがとても大切なんです」
「本日は本当にありがとうございました。最後に登山女子にとって、困ったことなんかがあったら教えていただきたいのですが」
「そうですねえ・・・・・・ふだん道でひととすれ違ってもあまり挨拶とかしないじゃないですか。でも、山だと“こんいちは”を1日100回ぐらい言わなければならないんですよ。とくに中年おじさんはふだん若い女性と話す機会が少ないせいだと思うのですけど・・・・・・」
「ああ、わたしも中年だから気持ちはよくわかります」
「中にはストーカーみたいに一緒に行動しようとするおじさんもいるので閉口します」
「ありがとうございました。森口さんでしたっけ。これからどちらへ?」
「あの・・・・・・ちょっとお花を摘みに・・・・・・」
「おや、それはいいですね。是非同行させてください」
「結構です」
「そんなこと言わないで」
「だめです」
「どうしてですか?」
「女子のお花摘みっていうのはオシッコのことだから!」