「ねえあなた。今年こそわが家もクリスマスツリーを飾りましょうよ」
その日、妻がわたしに脅迫めいた提案を申し渡したのである。
「無理だよ。そんなお金がどこにあるんだい」
「これよ」
妻が新聞の記事をわたしの前に突き出した。それは『クイズに答えてクリスマスツリーをゲットしよう!』という広告記事だった。
12月7日はクリスマスツリーの日なのだそうだ。なんでも日本で初めてクリスマスツリーを飾ったのが横浜のスーパーマーケットだったそうで、外国船の船乗りを楽しませるために飾りつけをしたのが最初だという。それを記念して、ある大手のホームセンターがクリスマスツリーのプレゼント企画を催すというのである。
「プレゼントなんて言って、本当は何か買わせようっていう魂胆こんたんじゃないのか。タダより高いものは無いっていうだろ」
「タダより安いものはないわよ。あなた勉強はできないけど、クイズはいつも得意だったじゃない」
「勉強はできないけどは余分だよ。仕方が無い、遊びがてら行ってみるか」
かくして、クイズ王を自負するわたしは、このクイズ大会に挑戦することにしたのである。
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そもそもクリスマスツリーは古代ヨーロッパの冬至祭り『ユール』が発祥の起源だと言われている。冬でも枯れないもみの木は永遠を象徴しているのだそうだ。
「これから出題するクイズにお答えください。全問正解しますと豪華なクリスマスツリーを差し上げることになっています」
賞品のクリスマスツリーは本当に豪華だった。高さが大人の身長ぐらいあって、きらびやかな装飾品が吊るされていた。ホームセンターの特設会場に座った回答者はわたしをふくめて5人いた。
「それではクリスマスツリーに関する問題です。クリスマスツリーに飾られている、赤いりんごは何を意味しているのでしょうか」
わたしは用意されたボードに「アダムとイブの禁断の実」と書いた。全員が正解した。
「それでは色とりどりのガラス玉の色についての問題です。金銀はイエスの気高さや高貴さを表します。白は純潔、緑は永遠。では赤はなんでしょう」
たしかりんごが不作のときの代用ともうひとつ意味があったはずだ。わたしは「イエスの血」と書いた。わたしと残り3人が正解した。この時点で「火の玉太陽」と回答したひとりが脱落した。
「ベルを飾るのはキリストの誕生を喜んで音を鳴らしたものですが、靴下が飾られるのは何に由来するでしょうか」
わたしは知っていた。
「聖ニコラウスが貧しい家を救うために、家に金貨を投げ入れた。靴下を吊していた家にはその中に金貨を落として行った」
この時点で「靴下の穴をふさいだ当て布の代り」と書いたひとりが脱落し、正解者はふたりになっていた。わたしの脳裏に妻の狂喜乱舞する姿が浮かんだ。
「それではサービス問題です。クリスマスツリーの頭頂部に飾る星は、いったい何を意味しているのでしょうか」
これは簡単である。
「イエスの降誕を知らせたベツレヘムの星」だ。これはふたりとも正解した。
「それでは最後の問題です。杖のキャンディを『キャンディケイン』と言いますが、これはいったい何を意味するのでしょうか。すべてお答えください」
わたしは「羊飼いの杖。困ったひとがいたら手を差し伸べなさいという意味」と書いた。そしてもうひとりの挑戦者は「杖の形のJがイエス(JESUS)の頭文字」と書いた。
「残念です。結局どちらも正解ですが、ふたつとも答えられなかったのでおふたりともこれで脱落になります」
なんてこった。落胆する妻の顔が目に浮かんだ。
「でも脱落したみなさんには、ひと回り小ぶりなサイズのクリスマスツリーを半額で購入できる権利がございます。どうなさいますか」
4人の回答者は苦笑いしながらも購入を希望した。
「お客様は?」と司会者がわたしに訊いてきた。
「残念ですが、いま持ち合わせがないので遠慮しておきます」
「それではこちらならいかがです。料金は月々少額をお支払いいただければ結構なのですが・・・・・・」
このホームセンターの司会はどうしてもわたしに何か買わせたいらしい。
「なにこれ」わたしは丸いツリーを手にした。「もしかして、リースだけにリース料だけ払えばいいっていうシャレなのかな?」