「
岡山警察交通課の手越てごし巡査部長が調書を取っている。
「はい、同じ手口のようです」と車輛を点検していた多胡巡査が答える。
婦警なのに、“タコ”という苗字がちょっと可哀想な気もするが、本人はあまり気にしていない様子である。
「前回は“障害者スペース”に駐車していたセダンのボディが傷だらけにされていました。そして今回は“点字ブロック”に駐車していたトラックのタイヤが、何者かに刺されてパンクさせられたようです」
「そうか。しかも、白昼堂々の犯行とは大胆にもほどがあると思わないかね」と、手越は多胡を見る。
「確かにそうですね。不可解です」
「そこでおれは考えたんだよ」
「なにをですか?」
「白昼堂々、違反車にいたずらできる犯人のことをさ」
「と言いますと」
「多胡君。きみはミニパトで
「いえ、そのような不審者の姿は一向に」多胡は首を振る。
「そう・・・不審者らしき者はいなかったのだ。なぜならば、それは交通課の婦警の恰好をしていたからだ」
「・・・・・・」
「多胡君・・・君が犯人だね」
多胡巡査は両腕をわなわな震わせてうつむいた。そして吐き捨てるように叫んだ。
「社会的弱者に理不尽な行為をする車輛を、わたしはどうしても許せなかったんです!」
婦警の眼目まなこが怒りの炎で燃えていた。
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「はい、これで『交通ルールを守ろう』のお芝居はおしまいです!」
にこやかに手越巡査部長と多胡巡査が子供たちにお辞儀をする。
「どうだった。点字ブロックの上に自転車を置いたりしたらだめだからね」満面の笑顔で多胡巡査が子供たちを見回す。
「はあい!」幼い子供達が手をあげた。
その後ろで、一部の父兄たちが青い顔をしていたのだった。