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ちょっとそこルール違反ですよ

多胡たこ巡査、また車の破損被害ですか。今月になってこれで7件目ですね」

 岡山警察交通課の手越てごし巡査部長が調書を取っている。

「はい、同じ手口のようです」と車輛を点検していた多胡巡査が答える。

 婦警なのに、“タコ”という苗字がちょっと可哀想な気もするが、本人はあまり気にしていない様子である。

「前回は“障害者スペース”に駐車していたセダンのボディが傷だらけにされていました。そして今回は“点字ブロック”に駐車していたトラックのタイヤが、何者かに刺されてパンクさせられたようです」

「そうか。しかも、白昼堂々の犯行とは大胆にもほどがあると思わないかね」と、手越は多胡を見る。

「確かにそうですね。不可解です」

「そこでおれは考えたんだよ」

「なにをですか?」

「白昼堂々、違反車にいたずらできる犯人のことをさ」

「と言いますと」

「多胡君。きみはミニパトで警邏けいら中にそういう不審者を見かけたことはなかったかね」

「いえ、そのような不審者の姿は一向に」多胡は首を振る。

「そう・・・不審者らしき者はいなかったのだ。なぜならば、それは交通課の婦警の恰好をしていたからだ」

「・・・・・・」

「多胡君・・・君が犯人だね」

 多胡巡査は両腕をわなわな震わせてうつむいた。そして吐き捨てるように叫んだ。

「社会的弱者に理不尽な行為をする車輛を、わたしはどうしても許せなかったんです!」

 婦警の眼目まなこが怒りの炎で燃えていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「はい、これで『交通ルールを守ろう』のお芝居はおしまいです!」

 にこやかに手越巡査部長と多胡巡査が子供たちにお辞儀をする。

「どうだった。点字ブロックの上に自転車を置いたりしたらだめだからね」満面の笑顔で多胡巡査が子供たちを見回す。

「はあい!」幼い子供達が手をあげた。


 その後ろで、一部の父兄たちが青い顔をしていたのだった。

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