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落語で漫才

 景気のいい出囃子でばやしや太鼓が鳴る。

 拍手とともに、舞台の袖から着物を着た噺家はなしかが現れる。噺家は高座の座布団にちょこんと座ると深々とお辞儀をした。一旦収まった拍手がそこで再び沸き起こる。

 最初の拍手は、「待ってました!」の拍手。あとの拍手は「これから面白いのを聞かせてね」という期待の拍手である。


 ええー、落語で上下かみしもをつけるとよく申しますが、これは首を左右に向けてしゃべることを言いまして・・・・・・これをやらないと、誰がしゃべっているのか分からなくなるからでございます。

 落語で漫才なんてやろうもんなら、それはもう、頻繁に首を左右に振らなければならないのでございます。


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「ハっつあん。わてもぼちぼち就職しよ思うてまんねん」

「へえ。熊さんが就職かいな。そんなナリして」

「そんなナリって何やねん」

「丸坊主にタンクトップに革の短パンて・・・・・・」

「外見は関係あらへんやろ」

「で熊さん。どんな仕事がしたいん?」

「そやな。人を笑わせる仕事がやりたいねん」

「人を笑わせるって言うてもいろいろあるで。熊さんくすぐり上手やさかいな」

「だれがくすぐり上手やねん。あるやろ、落語家とか漫才師とか」

「あるなあ」

「できればカッコいい方がやりたいねんけど・・・・・・八っつあん、なんで仕事って、“いえ”がつくのと“し”がつくのがあるんやろな」

「“いえ”と“し”、なにそれ?」

「だから、落語家とか、画家とか、写真家とか、小説家とか、武道家とか、政治家とかはみんな“家”がつくやろ」

「そやな」

「でも漫才師とか、医師とか、弁護士とか、消防士とか、教師とか、牧師とか、理容師とか、囲碁将棋の棋士とかはみんな“し”がつくやないか。あれはなんでなん?」

「ううん・・・・・・たぶんな、“家”がつく方は専門知識とか才能を必要とする職業やないかな」

「ほう、そんで」

「“し”の方は資格が必要な職業だと思うがな」

「あっそうか。なあるほど。家は才能、しは資格か。やっぱり八っつあんは頭いいなあ。今度いい男紹介したるわ」

「アホ言いなさんな。あんさんじゃないんだから、紹介するのは女にしてちょうよ」

「・・・・・・ん?でもおかしいなあ」

「なにがおかしいんや」

「医師とか弁護士とかは分かるよ。でも漫才師に資格はいらんやろ」

「それもそうやな・・・・・・おお、そうや!」

「なに、分かったの」

「よく考えたら詐欺師もシがつくけど資格なんていらへんやないか。漫才師も人をだまくらかして笑いを取るからやないのかな」

「失礼なことを言うたらアカンて。ぼくのなりたい漫才師は詐欺師やないよ」

「じゃあ熊さんがなりたいの何やねん」

「ゲイ(芸)人やて」


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 お後あとがよろしいようで。

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