「おい
「そうねえ。ずいぶん大きくなったわねえ」
妻とわたしは感慨深げに娘の詩乃をながめた。7歳とはいえ、まだあどけなさが残っている可愛い娘だ。
「パパ。お祝いにどこかに連れてってくれる?詩乃、ディズニーランドがいいな」
「ディズニーランドかあ。今日はちょっと無理だよ。夏休みに入ったらみんなで行こうか」
「わーい。やったあ!」
「あなた、とりあえずお宮にお札を納めに行きましょうよ」
「うん。そうしようか」
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この街の天神さまは人里離れた
「ここを入っていくのかな」
わたしたち親子三人は、細くなった道の曲がり角で立ち止まった。目印なのだろうか、そこには小さなお地蔵さんが鎮座している。わたしたちは細い路地の中に入って行った。
その時、どこからともなく声をかけられた。
「どこにおいでだね」
よく見ると路地の先に、老婆がひとりぽつんと座っていた。
「天神さまはこの先でいいのですか?」
わたしは老婆に訊ねた。
「御用がおありかえ。用がなければ、今日は通れませぬ」
「この子の七つのお祝いに、お札を納めに参ります」早智子が娘の肩にやさしく手をかけて言った。
老婆は喉の奥で笑いをこらえるかのように言った。
「通るのかね、ここを・・・・・・まあいいさ。どうぞ通りゃんせ」
わたしは妻と目を合わせた。なんだろう、いったい。
「行きは良い良い。帰りは・・・・・・どうなっても知らないよ。ひっひっひ」
「それじゃあ通ります」
わたしたちは
「帰りは怖いよ・・・・・・怖いながらも・・・・・・通りゃんせ。くっくっく。通りゃんせ・・・・・・ひっひっひ」
わたしたちは肩を寄せ合いながら、細く暗い道を登って行った。
「さっきのお婆さん、なんだったのかしら」
妻がいくぶん震える声で言った。
「わからんよ。あんな気味の悪い婆さん、今まで見たことがないぞ」
「パパ怖いよ」詩乃がしがみついてきた。
それでもなんとか神社の鳥居にたどり着くことができた。
「お札を納めて早く帰りましょうよ」と早智子が言った。
わたしたちは鳥居をくぐった。
とその時である。頭上で大きな音がしてくす玉が割れた。紙吹雪と色とりどりの紙テープが舞う。
「おめでとうございます!」
フラッシュが一斉に焚かれ、わたしたち親子は地元の新聞社や報道陣に取り囲まれていた。
「あなたは当天神さま、参拝100万人突破の参拝者になります」
わたしは
「どうぞ。ディズニーリゾート家族招待券と副賞の現金20万円が贈呈されます。今のお気持ちをお聞かせください」
詩乃が大喜びする。
「ええ!ほんとう。やったあ!」
妻が言った。
「あの・・・・・・幸せすぎて・・・・・・」
わたしが言った。
「・・・・・・正直、帰りが怖いです」