封書が届いた。
“本日は『わが夫こそ愛妻家コンテスト』に応募いただきまして誠にありがとうございます。
当番組では、あなたの愛する夫たちが、オフレコで奥様に何か喜んでいただくものをプレゼントしていただきます。その状況は、マイクロ・ドローンと隠しカメラで撮影させていただきます。
もちろん、放送できない部分に関しましてはカットさせていただきますのでご安心ください。そしてそれらを採点し、みごと優勝したご夫妻には、世界一周旅行にご招待するという豪華な企画になっております。”
洋子は驚いた。
なんと実家の母親が、無断で番組に応募してしまっていたのだ。しかも収録はすでに終わっているという。妻の誕生日が同じ夫婦をテレビ局が募集する。その日の様子を隠し撮りし、後日会場と視聴者にみせてリモコン操作で採点させるのである。
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最初に画面に現れたのは、一流商社マンである。仕事帰りに高級フランス料理店で妻と待ち合わせをし、豪華なフルコースをいただいた。
会場からは「うんうん」と納得する声が聞こえる。
次に画面に映し出されたのは、
会場から「きゃー」という歓喜の悲鳴。
三番目に現れたのは、口ひげを生やしたイケメンの紳士である。彼は帰宅早々、後ろ手に隠していた100本の薔薇の花束を妻に捧げた。
会場からは
四番目は気のいい爽やかな男である。口笛を吹きながら妻の前に、箱を置いた。妻が箱を開けると、中からスコティッシュフォールドという、可愛らしい子猫が一匹でてきた。
会場は拍手喝采である。
最後に洋子の亭主があらわれた。すこし頼りなさそうに見える、ごく普通のサラリーマンだ。
こんなことなら、普段からもう少しいい背広を着せておくべきだったと思っったが今さらしかたがない。
夜もふけている。夫は仕事で帰宅が遅くなってしまったらしく、洋子はすでに床についていた。夫は早々に食事を済ませ、食べた食器を洗い、風呂に入り、浴槽を洗って出てきた。
この夫婦にはなにも起こらなかったように見えた。
夫は音を立てないように寝室に入ると、洋子を起こさないように静かに顔を近づける。そしてそっと口づけをした。
信じられないことが起きた。満場の拍手と膨大な点数が、洋子の夫婦に加算されたのである。
電話が鳴った。テレビのコメンテーターからである。夫が受話器を取った。
「おめでとうございます!あなたは愛妻家コンテストでみごと優勝なさいました」
「はあ?・・・・・・それはまたどうもありがとうございます」
「ご感想をどうぞ」
「いえ、とくに何も。だっていつもやってることですし」
「それですよ、それ。それこそが愛妻家ってもんですよね!」