目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第17話 バリケードの向こう側へ


 賢一たちは、跳び跳ねるゾンビ達を相手に、それぞれの武器を力いっぱいに振るう。



「この野郎っ! 落っこちろっ!」


「グエッ! ぐわっ!」


「助太刀するぜっ! オラッ!」


「ギュアアッ!?」


「ありがとう、助かったわっ! と」


 賢一は、頭を特殊警棒で思いっきり、ドン突いて、跳び跳ねるゾンビをバリケード下に落とした。


 ダニエルの蹴りを腹に食らった敵は、体勢を崩して、さらに、エリーゼが下からひたいを拳で殴る。



「退いてくださいっ!」


「グルウウゥゥゥゥッ!?」


「どうやら、脳に刃が到達したらしいな?」


 メイスーが振るった、中華包丁により、ジャンの右腕を噛んでいた、跳び跳ねるゾンビは死亡する。



「モイラ、大丈夫なのかっ! 今降りるっ! それまで…………」


「ふんっ! もう終わったわよ」


「コエエ…………」


 賢一は、敵に馬乗りにされているモイラを助けるべく、バリケードから飛び降りた。


 しかし、ジャンプするゾンビは既に、彼女により、下顎から脳天を多用途銃剣に貫かれていた。



「凄いな、流石は海兵隊員だ? 立てるか?」


「余計な手間は掛けさせないよっ! でも、ありがとうね」


 賢一は、特殊警棒を腰に下げた、鞘に入れると、モイラに手を貸そうとした。


 だが、彼女は自分で立ち上がり、柔和は笑顔を彼に向けた後、すぐに歩きだす。



「みんな、行くわよっ! こんな物を置いたのが、ギャングか? 民間人かは分からないけど、後者なら助けに向かわないとね」


「だなっ! きっと、この先では、誰かが援軍を待っているに違いないっ! 先を急ぐとしよう」


「ああっ! 民間人の救援に向かわないとなっ! メイスー、さっきは助かった」


「いえ、そんな…………」


「ダニエル、アンタ、結構やるわね? お蔭で、楽に倒せたわ」


「お前こそ、あのパンチは強力だったぜ? 凄かったよっ! エリーゼ」


 モイラが先頭を足早に歩くと、賢一は後を追って、彼女に着いていく。


 ジャンが礼を言うと、メイスーは恥ずかしそうに顔を紅くさせて剃らした。



 エリーゼとダニエル達も、一番後方に並び、他の仲間たちを追っていく。


 やがて、彼等は十字路に着いたが、周りには少しだけ高いビル、アパートや平屋などがある。



「ふぅ? 流石に東南アジア太平洋は暑いな? 台湾より、キツいぜ」


「文句ばかり言っても仕方がないよ? さあ、歩きなさい」


 賢一は、台湾人の祖父を持つため、現地にも何度か足を運んでおり、暑さには慣れている。


 また、普段から甲板や陸地での厳しい戦闘訓練にも、耐え抜いてきた。



 しかし、フィリピンよりも、南洋に位置するプロケトの気候は、どうやら彼には合わないらしい。



 モイラは、熱帯雨林や大都市を含む、東南アジア特有の温度は平気だ。


 彼女にして見れば、特殊任務により、アジア南方を回っていたため、この程度は何ともない。



「分かってるぜ、たく? あん、無線だ」


「甘さんですか?」


「はあ、何の用かしら?」


 赤や茶色き緑色などと言った、色合いに塗られた鉄板フェンスに囲まれた場所を、賢一は歩く。


 すると、ザザッと無線が鳴る音が聞こえたため、彼は直ぐに、ポケットから取り出した。



 メイスーとエリーゼ達は、いきなり連絡が届いたので、面倒な要件や、危険な事件かと思った。


 取り敢えず、彼等はゾンビ達に警戒しながら歩いて、甘の声に耳を傾けようとする。



「そうだろうな? 甘か…………いったい、何の用だ?」


 賢一は、メイスーとエリーゼ達に答えると、素早く無線を口に近づけ、連絡してきた甘の名を呼ぶ。



『そうだ、そっちは賢一だな? ビーチ方面の警察署と無線が繋がったんだっ! 現在、沿岸部方面は無事らしい』


 嬉しそうな声で話す、甘から伝えられた言葉は、なんと朗報だった。



『しかし、安全を確保できたのは、リゾートホテルを含めた沿岸部のみで、未だに周辺地域は、ゾンビやギャング達が存在する? それが避難民が集結する弊害になっているようだ』


「分かった、気をつけていく」


 甘から、リゾートホテルが無事だと聞いて、賢一は直ぐに無線を切ろうとした。



『それから、まだ新しい情報がある? ジャンプするゾンビの筋繊維を調べたが、凄いぞ…………カエルやバッタのように異常な発達が見られるっ! これ等のゾンビを、ジャンピンガーと名付けよう』


「ああ、たった今、そいつと戦ったばかりだっ! しかし、弱点はなんだ?」


 跳び跳ねるゾンビに対して、ジャンピンガーと言う名前を、甘が命名する。


 それを、聞きながら、賢一は疲れた顔をしながら、特徴を質問した。



『彼等は、全身の筋肉が発達しているため、飛び掛かって来るだろうっ! しかし、猪のように軌道を変えられるワケじゃない? 一度、ジャンプした後に隙を狙って、集中攻撃するんだな』


「なるほど、じゃあ次からは攻撃を避けながら、反撃を叩き込む事にするよ」


 弱点を甘が教えると、それに賢一は納得しながら、敵が居ないかと、辺りを警戒する。



『ああ、また新しい情報が見つかれば、そちらに報せるっ! 幸運を祈る』


「…………だ、そうだ」


「と言っても、飛び掛かられたら、やはり厄介だぜ」


「強さは、フレッシャーと同程度だったがな…………連携されると、面倒な敵だが」


 甘と無線での話を終えた、賢一は短く仲間たちに呟いて、歩きだした。


 ダニエルとジャン達は、文句を言いながらも、彼と同じく、十字路を右側に曲がっていく。



「はあ、敵は走るゾンビに、跳び跳ねるゾンビ…………レフト4デッドかってのっ!」


「そのゲーム、俺もやったぜ、あのゲロを吐くゾンビが、汚ねえと思ったんだよな~~マッチョなのも、ウザかったし」


「ゲームの話は、後にしなっ! ここは、スラム…………つまりは、戦場なんだよっ! ふぁっ!? 聞こえたねっ!」


「はっ! 銃声、向こうからだわっ!」


「ううっ! いったい、誰が?」


「分からない、だが、双方で撃ち合っているようだっ!」


 呑気に、愚痴を吐きながら、ゲームの話をしつつ、賢一とダニエル達は歩いている。


 そんな中、モイラが注意すると、何処からか再び聞こえた銃声に、驚きながらも顔を左右に振るう。



 エリーゼも、乾いた発砲音が鳴り響く度に、険しい顔つきで、その方向を睨む。


 怖がりながら、背中を丸めるメイスーは不安そうな表情を浮かべるが、ジャンは直ぐに走り出す。



「あっ! 待て、仕方ないっ! ジャン、勝手に行くなっ!」


「みんな、行くよっ!」


 賢一とモイラ達が、一気に走り出すと、他の仲間たちも、ジャンを追いかけていく。


 前方に見える左右を、コンクリート壁に挟まれた狭い道を彼等は、とにかく駆け抜ける。



「ここかっ! 不味いな、やはり、ギャングだっ!」


「ジャン、勝手に行くなっ! 道中で、ゾンビやギャングの不意討ちに、あったら死ぬんだぞ」


「そうだよ? 人助けも大事だけど、奇襲や伏兵、罠に注意しなきゃね」


 先に見える、T時路を左側に曲がっていってから、ジャンは壁に貼り付いて、様子を伺う。


 すると、そこには、メインストリートで撃ち合っている人間たちが存在した。


 賢一とモイラ達も、彼に追い付くと、自分勝手な行動を慎むように注意した。



「下手したら、あのギャングに撃たれていただろう? あっちは生存者か?」


「済まない、どうしても人を助けてしまう性分なんだ…………これは職業病と言うより、昔からでな? 生存者は死んでないよな?」


「それよりも、今は敵に注目しましょう? カメラを覗くと? 見えたわ、生存者は右側に隠れているわね」


「勘弁してくれっ! 俺は、ギャングとの抗争は、十代で卒業したんだぜ」


 広い交差点の左側では、ピックアップ車両を楯にしながら、ギャング達が激しく銃撃を行っている。


 賢一とジャン達は、連中を睨みつけながら、どうやって、倒そうかと思案する。



 エリーゼは、右側で奥にあるレストラン手前の街路樹から、電柱や室外機に身を隠す生存者を見た。


 その様子を眺めて、拳銃弾を撃ち合う様子に、ダニエルは肩を落としながら愚痴った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?