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第14話 ガソリンスタンドを越えて


 駐車場の左端に、二台停車している、ケネディジープには弾痕がある。



「両方とも、ハンドルやメーターが壊されているわね? これじゃあ、乗れ回せないわ」


「ふむ、んじゃ? また、徒歩を続けるしかないか? まっ? どのみち、車両はゾンビを惹き付けちまうから元から歩くしかないんだが」


 モイラと賢一は、車両の座席を確認したが、どちらも計器類が壊れていると分かった。



「みんな、何か新しい発見はあったか? こっちは車両が壊されているのが分かったぞ」


「こっちは、スタンド内を調べたが、食料や飲み物がないっ! やはり荒らされたようだ」


「冷蔵庫の中は、空でした…………あと、店員さんの遺体が」


 賢一の声を聞いて、スタッフルームから、ジャンとメイスー達も出てきた。



「状況を推察すると、土嚢や鉄条網は、持ち運ぶ時間がないから、ここに置いたままトンズラしたようね?」


「銃を奪ったのは、犯罪者や略奪者? つまりは、ギャングか? 勘弁して欲しいぜ」


 エリーゼは、死体を探り、弾帯やベストが持ち去られたと見立てる。


 それを聞くと、ゾンビではなく、刑務所の時と同じく、ダニエルは再び人間と争うことを嫌がる。



「取り敢えず、次の場所に向かうぞ、ここから南東にある病院に向かうっ! ここから見える、あの灰色の建物だ」


「マンダイア病院だな、中規模の病院で、救急チームとともに、怪我人を運んだ事がある」


「詳しいのね? 流石は現地人だわ、ここからじゃ、カメラを覗くと、病院の大きな赤十字が見えるわね」


「一度だけ、親戚の入院で行きましたから、中の構造は分かってます」


 賢一は、次なる場所に向かって歩きだすと、ジャンは病院の名前を思い出した。


 エリーゼは、カメラを両手で持ち、建物の外壁に取り付けられた看板を眺める。



 メイスーも、どうやら行った事があるらしく、少し自信があるような表情になる。


 こうして、彼等は道路を歩き出したが、路上にはゾンビ達が疎らに散らばっている様子が伺えた。



「地元組は、流石に詳しいな? じゃ、まずは道路を歩きながら、ゾンビを倒すとしますか」


「裏道を通っても、いいけど? 奇襲や罠が怖いからね」


 賢一が、病院に向かうべく先頭を歩いていくと、モイラは両手で確りと、コルト45を握る。


 その後を、四人も着いていき、住宅街を抜けて、道路を南東に進んでいく。



 途中、ノロノロと彷徨うろついているゾンビ達を、避けていくが、どうしても邪魔な者は倒す。


 一匹、二匹程度の敵は、多用途銃剣やサップにより、次々とほふられていく。



「はあっ! よし、モイラッ! 頼むっ!」


「グエッ!?」


「グアア~~! クアッ?」


「あいよっ! コイツを狩ったよっ!」


 賢一は、アロハシャツを着ている白人ゾンビの背後から掴みかかり、首をへし折る。


 同時に、小走りしてきた黒人女性ゾンビを、彼は蹴り飛ばし、モイラが多用途銃剣を頭に突き刺す。



「ジャン、そっちに行ったわ」


「グエエ~~!?」


「よし、今だっ!」


「あのっ? ダニエルさん、お願いっ!!」


「グアッ! グエッ!」


「やりたくねぇけど、仕方無いか」


 サップを思いっきり振るい、黒人男性ゾンビが態勢を崩すと、エリーゼは追撃を叩き込む。


 そして、奴が後ろに倒れそうになると、ジャンが勢いよくタックルをして、タガネを眉間に刺した。



 メイスーが、中華包丁を振り回し、アラブ系ゾンビの両腕を交互に切る。


 それに合わせて、ダニエルは怯んだ奴の顔面を、何度も髑髏指輪で殴りまくった。



「口から血を吐きやがった、汚ねぇぜ…………はあ、喧嘩は嫌なんだがな」


「はっ! そうも言ってられないわよっ! 次の病院まで、簡単に行けそうも無いからねっ! あっちから銃声が聞こえるわっ!」


「誰が戦っているんだ? ゾンビを引き寄せちまうだろうがっ! また、警棒を振るうしかないかっ!」


「とにかく、行くしかないわ? はぁ~~確かめて見ましょう?」


 バタりと、ゾンビが倒れた後、ダニエルは奴の背中を見ながら呟いた。


 彼を含めた皆が、このまま無事に、病院まで歩いて行けると思っていた。



 しかし、モイラは遠くから乾いた銃声を聞いてしまい、そちらに走っていく。


 賢一とエリーゼ達も、彼女の後を追って、素早く駆け出していった。



 銃撃音が、ゾンビを呼び寄せてしまうのと、誰かが窮地に陥っているかも知れないからだ。



「相手は、ギャングか? それとも生存者が戦っているのか?」


「どっちにしろ、行くしかないです…………」


「ウエアア~~」


「グルアアアアーーーー!!」


「不味い、走る連中が現れやがった」


「みんな、急いで…………あの路地裏まで、走るしかないから」


 ジャンとメイスー達も、ひたすら走って、音が聞こえる方に向かっていく。


 すると、前方に見える十字路から、ゾンビとフレッシャー達が、いきなり左右から現れた。



 賢一は、焦りながらも、狭い路地に向かっていき、危険を承知で直ぐに飛び込む。


 顔色を変えず、エリーゼは冷静に話しながら、彼の後に続いて、奥へと駆け込んだ。



「いや? 待て、この先から聞こえる? お前らはゴミ箱の裏や、ドラム缶に隠れていろっ!」


「私たち、軍人が様子を探ってくるわっ! みんな、後ろのゾンビ達に気をつけるんだよ」


「分かりました」


「後ろは任せて、見張っているわ」


 険しい顔をしながらも、賢一は、発砲音が木霊する方向へと走っていく。


 モイラも、コルト45を片手に、真剣な目を前方に向けながら、彼とともに奥へと向かう。



 メイスーとエリーゼ達は、それぞれ緑のドラム缶と木箱に、素早く身を潜めた。


 そうしている間にも、道路には大量のゾンビ達が、群れを成して走り回る。



「早く音源を見つけないとっ! 奴らか? 民間人か? それとも、ギャングか」


「そう見たいだね? どちらか、分からないけれど…………いや、ギャングのようだね? アレを見てっ!」


 賢一は、少し広い草地を左側に見つけると、そこで、建物屋上から銃撃している連中を眺める。


 民間人の死体を見つけて、モイラは銃で、ゾンビを迎えうつ、人間たちが悪党であると気づく。



「あそこに頃がっているのは、観光客や金持ちか? 何てことだ…………民間人が虐殺されているとは」


「ロレックス、アクセサリー、バッグ…………どうやら、そのようだね」


 ジャンは、路地左側から顔を出して、地面に転がる死体を見ながら無念だと言う表情を浮かべる。


 死体の側にある、木箱に置かれた高級ブランド品を険しい目付きで、エリーゼは睨む。



「ギャアアーー!!」


「グルアアアアーー!!」


「死体が、こっちに走って来てるっ!」


「撃ち殺せ、連中を殺すんだ」


「飛ぶ奴だ、気を付けろ」


「とにかく、撃ちまくれっ!」


 走るフレッシャー、跳び跳ねるゾンビ等は、屋根を超えて集まってくる。


 普通のゾンビ達は、小走りしながら、左右から建物に迫ってきた。



 屋上の二人による、弾薬装填で、射撃が止むと、内部から銃撃が強化される。


 内部のギャング達は、自動拳銃を撃ちまくり、地上から迫る敵を迎撃していた。



「不味い、バカどものせいで、続々とゾンビが集まって来やがるっ! 俺は後ろから回り込む」


「あいよ、援護は任せてくれっ! ただ、いざとなったら、私がコルトを撃つ」


 賢一は、屋根の上に立つ、アジア系ギャングと白人ギャングを睨む。


 二人とも、リボルバーを撃っているらしく、ここらでは、何の銃か詳しくは分からない。



 モイラは、建物の内部から、路上を攻撃している連中を殺すべく、静かにドアへと近づく。


 どうやら、ギャング達は外から群がるゾンビ達に夢中で、こちらに気がつく事はなさそうだ。



「上に行く、そっちも気をつけてくれ」


「分かっているわ、そっちもね」


 賢一とモイラ達は、それだけ話すと、後はハンドサインだけで、静かに建物へと近づいていく。



「死ね、死にまくれーー!!」


「ギャーーーー!!」


「撃ちまくるんだっ!?」


「グルエエエエ…………」


 階段として、設置されている木箱を、賢一は静かに上がっていくと、敵が戦う様子を伺う。


 屋根に立っている、アジア系ギャングは、普通のリボルバーだが、白人ギャングはマグナムを撃つ。



 そして、二人の射撃で、フレッシャー達が道路左右から集まってくる。


 前方にある平屋や、二階建ての建物からも、跳び跳ねるゾンビ達が向かってきていた。



「ふぅ、死んでくれっ!」


「死ね、死ね、あ…………」


「な、誰だっ! この野郎っ!」


 賢一は、屋根に身を隠して、シリンダーに弾を装填するアジア系ギャングの首を、へし折る。


 それを見て、驚いた白人ギャングは、彼を狙って、素早くマグナムを向けた。



「させるかっ! この野郎っ! 自衛隊格闘術を舐めるなよっ!」


「うわあっ! ぐぅっ!」


 マグナムを、賢一は特殊警棒で叩き、さらに巴投げを仕掛けて、白人ギャングを道路に落下させた。



「勝った…………不味い、不味い、ゾンビ達が集まっている? 逃げなきゃなっ!」


「グルウウウウ~~~~!?」


「ガルルルルッ!」


「賢一、中も終わったわよっ! はやく、皆を避難させましょう」


 ギャング達を倒し終わった、賢一は、直ぐに草地にジャンプしながら飛び降りる。


 射撃手が存在しなくなり、今度はゾンビ達を相手にせねば成らないからだ。



 しかし、大群を敵に回す余裕はなく、今の彼は逃げる事しかできない。


 モイラも、すでに戦闘を終えたらしく、建物の中から手招きしてきた。

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