駐車場の左端に、二台停車している、ケネディジープには弾痕がある。
「両方とも、ハンドルやメーターが壊されているわね? これじゃあ、乗れ回せないわ」
「ふむ、んじゃ? また、徒歩を続けるしかないか? まっ? どのみち、車両はゾンビを惹き付けちまうから元から歩くしかないんだが」
モイラと賢一は、車両の座席を確認したが、どちらも計器類が壊れていると分かった。
「みんな、何か新しい発見はあったか? こっちは車両が壊されているのが分かったぞ」
「こっちは、スタンド内を調べたが、食料や飲み物がないっ! やはり荒らされたようだ」
「冷蔵庫の中は、空でした…………あと、店員さんの遺体が」
賢一の声を聞いて、スタッフルームから、ジャンとメイスー達も出てきた。
「状況を推察すると、土嚢や鉄条網は、持ち運ぶ時間がないから、ここに置いたままトンズラしたようね?」
「銃を奪ったのは、犯罪者や略奪者? つまりは、ギャングか? 勘弁して欲しいぜ」
エリーゼは、死体を探り、弾帯やベストが持ち去られたと見立てる。
それを聞くと、ゾンビではなく、刑務所の時と同じく、ダニエルは再び人間と争うことを嫌がる。
「取り敢えず、次の場所に向かうぞ、ここから南東にある病院に向かうっ! ここから見える、あの灰色の建物だ」
「マンダイア病院だな、中規模の病院で、救急チームとともに、怪我人を運んだ事がある」
「詳しいのね? 流石は現地人だわ、ここからじゃ、カメラを覗くと、病院の大きな赤十字が見えるわね」
「一度だけ、親戚の入院で行きましたから、中の構造は分かってます」
賢一は、次なる場所に向かって歩きだすと、ジャンは病院の名前を思い出した。
エリーゼは、カメラを両手で持ち、建物の外壁に取り付けられた看板を眺める。
メイスーも、どうやら行った事があるらしく、少し自信があるような表情になる。
こうして、彼等は道路を歩き出したが、路上にはゾンビ達が疎らに散らばっている様子が伺えた。
「地元組は、流石に詳しいな? じゃ、まずは道路を歩きながら、ゾンビを倒すとしますか」
「裏道を通っても、いいけど? 奇襲や罠が怖いからね」
賢一が、病院に向かうべく先頭を歩いていくと、モイラは両手で確りと、コルト45を握る。
その後を、四人も着いていき、住宅街を抜けて、道路を南東に進んでいく。
途中、ノロノロと
一匹、二匹程度の敵は、多用途銃剣やサップにより、次々と
「はあっ! よし、モイラッ! 頼むっ!」
「グエッ!?」
「グアア~~! クアッ?」
「あいよっ! コイツを狩ったよっ!」
賢一は、アロハシャツを着ている白人ゾンビの背後から掴みかかり、首をへし折る。
同時に、小走りしてきた黒人女性ゾンビを、彼は蹴り飛ばし、モイラが多用途銃剣を頭に突き刺す。
「ジャン、そっちに行ったわ」
「グエエ~~!?」
「よし、今だっ!」
「あのっ? ダニエルさん、お願いっ!!」
「グアッ! グエッ!」
「やりたくねぇけど、仕方無いか」
サップを思いっきり振るい、黒人男性ゾンビが態勢を崩すと、エリーゼは追撃を叩き込む。
そして、奴が後ろに倒れそうになると、ジャンが勢いよくタックルをして、タガネを眉間に刺した。
メイスーが、中華包丁を振り回し、アラブ系ゾンビの両腕を交互に切る。
それに合わせて、ダニエルは怯んだ奴の顔面を、何度も髑髏指輪で殴りまくった。
「口から血を吐きやがった、汚ねぇぜ…………はあ、喧嘩は嫌なんだがな」
「はっ! そうも言ってられないわよっ! 次の病院まで、簡単に行けそうも無いからねっ! あっちから銃声が聞こえるわっ!」
「誰が戦っているんだ? ゾンビを引き寄せちまうだろうがっ! また、警棒を振るうしかないかっ!」
「とにかく、行くしかないわ? はぁ~~確かめて見ましょう?」
バタりと、ゾンビが倒れた後、ダニエルは奴の背中を見ながら呟いた。
彼を含めた皆が、このまま無事に、病院まで歩いて行けると思っていた。
しかし、モイラは遠くから乾いた銃声を聞いてしまい、そちらに走っていく。
賢一とエリーゼ達も、彼女の後を追って、素早く駆け出していった。
銃撃音が、ゾンビを呼び寄せてしまうのと、誰かが窮地に陥っているかも知れないからだ。
「相手は、ギャングか? それとも生存者が戦っているのか?」
「どっちにしろ、行くしかないです…………」
「ウエアア~~」
「グルアアアアーーーー!!」
「不味い、走る連中が現れやがった」
「みんな、急いで…………あの路地裏まで、走るしかないから」
ジャンとメイスー達も、ひたすら走って、音が聞こえる方に向かっていく。
すると、前方に見える十字路から、ゾンビとフレッシャー達が、いきなり左右から現れた。
賢一は、焦りながらも、狭い路地に向かっていき、危険を承知で直ぐに飛び込む。
顔色を変えず、エリーゼは冷静に話しながら、彼の後に続いて、奥へと駆け込んだ。
「いや? 待て、この先から聞こえる? お前らはゴミ箱の裏や、ドラム缶に隠れていろっ!」
「私たち、軍人が様子を探ってくるわっ! みんな、後ろのゾンビ達に気をつけるんだよ」
「分かりました」
「後ろは任せて、見張っているわ」
険しい顔をしながらも、賢一は、発砲音が木霊する方向へと走っていく。
モイラも、コルト45を片手に、真剣な目を前方に向けながら、彼とともに奥へと向かう。
メイスーとエリーゼ達は、それぞれ緑のドラム缶と木箱に、素早く身を潜めた。
そうしている間にも、道路には大量のゾンビ達が、群れを成して走り回る。
「早く音源を見つけないとっ! 奴らか? 民間人か? それとも、ギャングか」
「そう見たいだね? どちらか、分からないけれど…………いや、ギャングのようだね? アレを見てっ!」
賢一は、少し広い草地を左側に見つけると、そこで、建物屋上から銃撃している連中を眺める。
民間人の死体を見つけて、モイラは銃で、ゾンビを迎えうつ、人間たちが悪党であると気づく。
「あそこに頃がっているのは、観光客や金持ちか? 何てことだ…………民間人が虐殺されているとは」
「ロレックス、アクセサリー、バッグ…………どうやら、そのようだね」
ジャンは、路地左側から顔を出して、地面に転がる死体を見ながら無念だと言う表情を浮かべる。
死体の側にある、木箱に置かれた高級ブランド品を険しい目付きで、エリーゼは睨む。
「ギャアアーー!!」
「グルアアアアーー!!」
「死体が、こっちに走って来てるっ!」
「撃ち殺せ、連中を殺すんだ」
「飛ぶ奴だ、気を付けろ」
「とにかく、撃ちまくれっ!」
走るフレッシャー、跳び跳ねるゾンビ等は、屋根を超えて集まってくる。
普通のゾンビ達は、小走りしながら、左右から建物に迫ってきた。
屋上の二人による、弾薬装填で、射撃が止むと、内部から銃撃が強化される。
内部のギャング達は、自動拳銃を撃ちまくり、地上から迫る敵を迎撃していた。
「不味い、バカどものせいで、続々とゾンビが集まって来やがるっ! 俺は後ろから回り込む」
「あいよ、援護は任せてくれっ! ただ、いざとなったら、私がコルトを撃つ」
賢一は、屋根の上に立つ、アジア系ギャングと白人ギャングを睨む。
二人とも、リボルバーを撃っているらしく、ここらでは、何の銃か詳しくは分からない。
モイラは、建物の内部から、路上を攻撃している連中を殺すべく、静かにドアへと近づく。
どうやら、ギャング達は外から群がるゾンビ達に夢中で、こちらに気がつく事はなさそうだ。
「上に行く、そっちも気をつけてくれ」
「分かっているわ、そっちもね」
賢一とモイラ達は、それだけ話すと、後はハンドサインだけで、静かに建物へと近づいていく。
「死ね、死にまくれーー!!」
「ギャーーーー!!」
「撃ちまくるんだっ!?」
「グルエエエエ…………」
階段として、設置されている木箱を、賢一は静かに上がっていくと、敵が戦う様子を伺う。
屋根に立っている、アジア系ギャングは、普通のリボルバーだが、白人ギャングはマグナムを撃つ。
そして、二人の射撃で、フレッシャー達が道路左右から集まってくる。
前方にある平屋や、二階建ての建物からも、跳び跳ねるゾンビ達が向かってきていた。
「ふぅ、死んでくれっ!」
「死ね、死ね、あ…………」
「な、誰だっ! この野郎っ!」
賢一は、屋根に身を隠して、シリンダーに弾を装填するアジア系ギャングの首を、へし折る。
それを見て、驚いた白人ギャングは、彼を狙って、素早くマグナムを向けた。
「させるかっ! この野郎っ! 自衛隊格闘術を舐めるなよっ!」
「うわあっ! ぐぅっ!」
マグナムを、賢一は特殊警棒で叩き、さらに巴投げを仕掛けて、白人ギャングを道路に落下させた。
「勝った…………不味い、不味い、ゾンビ達が集まっている? 逃げなきゃなっ!」
「グルウウウウ~~~~!?」
「ガルルルルッ!」
「賢一、中も終わったわよっ! はやく、皆を避難させましょう」
ギャング達を倒し終わった、賢一は、直ぐに草地にジャンプしながら飛び降りる。
射撃手が存在しなくなり、今度はゾンビ達を相手にせねば成らないからだ。
しかし、大群を敵に回す余裕はなく、今の彼は逃げる事しかできない。
モイラも、すでに戦闘を終えたらしく、建物の中から手招きしてきた。