賢一とモイラ達は、監視部屋から市街地を眺めると、ここが丘の上にあると分かった。
赤みを含むオレンジ、深い青、銀色などの屋根が、遠くまで続いている。
「まず、道路を歩いていくよ? ハンヴィーを使っても、いいけど、走行音がゾンビを寄せ付けちゃうからね」
「あと、メモを見ると、複数の建物に寄らなきゃ成らない? 面倒だが、調べてみる価値はあるな」
「軍の歩兵部隊は~~? ガソリンスタンド、小さな町病院、町役場、缶詰め工場、漁協の建物に行ったようだな? ご苦労だぜ、全く」
「ビーチまでは、順番に通れそうだけど、そこは行くべきかしら? 危険が潜んでいる可能性が高いわ」
モイラは、監視所を降りると、左側へと曲がっていく、敷地内を眺めながら歩きだした。
賢一も、メモ用紙に書かれた各地の建物と、名前を見ながら呟いた。
ズカズカと、ダニエルが道路を早歩きで、入口にあるハンヴィーに向かっていく。
横から、紙を一回だけ見ると、エリーゼは呟きながら、彼を追って進んでいく。
「それでも、行くべきだっ! ゾンビに噛まれても、死なない俺達しか動けないんだからな」
「私も、叔父の経営する中華レストランが気に成りますし…………」
熱血漢なのか、ジャンは直ぐに人々を救いに行きたがり、メイスー早く親戚に会いたいと急かす。
「まあ、まずは町病院に行こう? 下に行くぞ」
「出発よ、みんな着いてきて」
賢一とモイラ達に続いて、仲間たちは監視室から階段を降りて、一階を目指した。
「出発するんだってな? ジョンソン看守長から聞いてるぞ」
「車両を移動させろ」
「分かってる」
M4カービンを持った、白人看守が、ドアから出た六人を出迎えると、ハンヴィーから離れる。
アジア系の看守は、黒人兵士に頼むと、彼は銃座から車内に入り、エンジンをかけた。
そうして、車が移動すると、入口にあった鉄柵の門は開いたままに成っていた。
ここを潜り抜けると、刑務所の外に出たが、左側には誰も居ない検問所があった。
また、車両の通行を止めるバーは、上を向いたままにされており、不気味さを感じさせる。
「草むらに死体が見えるわね? 兵士や看守が排除したんだわっ! しかし、カメラを覗けば、遠くに人影が見える」
「ソイツが人間か、それともゾンビか? 或いは略奪者かは分からないんだから、不用意に近づけないなっ!」
エリーゼは、両手で高性能カメラを保持し、倍率を上げた、レンズ越しに歩く何者かたちを見る。
それを聞きながら、ダニエルは遠くを歩く人影を、険しい表情で睨む。
いく宛もなく、彷徨う生存者か、それとも、物資を狙う暴徒か。
はたまた、獲物を求めて徘徊するゾンビなのかは、彼と同じく仲間たちには分からない。
「グルアア~~~~!!」
「ガアガア、ガア、ガアア」
「出たね、お化けが」
「みんな、隠れよう」
検問所から離れて、一向は丘を下りてから左側に曲がる道路のカーブを進んでいた。
すると、草むらから素早く走るゾンビ達が現れて、彼等の行く手を阻んだ。
モイラは、直ぐに今来たばかりの道に戻り、カーブで雑草に伏せて身を隠し、賢一も同じ事をする。
何体かの連中は、獲物を探して、辺りに虚ろな目を向けたり、騒ぎながら歩き回る。
しかし、食べられそうな物がないと思ったのか、群れは何処かへと、走りながら移動していった。
「助かったな? 連中は、動きが素早い走るタイプのゾンビだから厄介だ」
「でも、まだまだ先には散らばっているわよ」
「アイツら、何とか成らねぇのか? めっちゃ、邪魔だぜっ!」
「我々の邪魔をしやがって、消化斧さえ有れば、簡単に頭から真っ二つに出来るんだが」
賢一は、走り回るゾンビ達が消え去ると、肩の力を抜きながら、愚痴を呟きつつ歩きだす。
モイラも、前方を睨みながら多用途銃剣を逆手に握りながら進みだす。
文句を垂れながらも、ダニエルは二人の後に続いて、周りを警戒しながら移動する。
ジャンは、右拳に力を入れながら、眉間に
「どうするのさ? カメラで監視するけど、はやく答えを出してね」
「うう…………いつまでも、ゆっくりと歩いてられないけど、これじゃあ?」
「少し待ってろ、無線で、
前方の街へと続く道路に、カメラを向けて、エリーゼは、走るゾンビや歩くゾンビ達を眺める。
メイスー怖がっているので、賢一は、無線機を取り出して、刑務所に連絡してみた。
『甘っ! 街に行くまで、走るタイプが邪魔していて、これじゃあ道路を抜けられないっ? 連中に見つかったら、どうすれば良い』
『…………それは、フレッシャーだ? 私が命名したが、見つかったら叫び声に反応して、仲間を集めるだろう』
賢一の言葉を聞いて、甘はゾンビに関する新たな情報を彼に提供する。
『ただ、心配するな? 遺体安置所で、死体を調べたが、感染してから時間が立っていないからか? 耐性があるのか? それは分からないんが…………そのため、通常のゾンビよりは弱い』
甘は、さらに調査した、フレッシャーに関する説明を、ゆっくりと語る。
『じゃあ、どうすれば倒せるんだ? 俺達は、ザック・スナイダー版の走るゾンビに喰われたくないぞ』
『落ち着くんだ、君達は一度、連中と刑務所で戦っているだろう? スピードと連続攻撃は、脅威であるが? その分、通常のゾンビより防御力と体力が低い』
映画を思い出して、賢一は走るゾンビが、スーパーマーケットに群がる姿を思い出す。
興奮する彼の声を聞いて、甘は冷静に語りかけ、敵が持つ弱点を伝える。
『死体を調べたから分かるが? 少数、または一匹ならば、むしろ打撃や斬撃で簡単に倒せる』
『分かった、なら倒しながら進んでいくぞ、また何かあったら、無線で連絡する…………』
甘は、研究者としての見解を述べると、賢一は納得しながら、顔を無線機から離す。
『分かった、こちらも研究を続ける…………』
「だそうだ、ステルスキルしながら行くか? 見つかり次第、戦闘に突入だな」
「なら、行くしか無いわ、着いてきて」
甘が通話を終わらせると、賢一は渋々前進し始め、みんなの先を歩く。
彼の後ろを歩きながら、仲間たちを率いて、モイラも移動を開始する。
「幾つか、建物に近づいてきたな? ガソリンスタンドは、もう少しだ」
「また、喉が渇いてきたぜ? 本当は、今頃は南国のビーチで、ビールを大ジョッキで飲んでいるはずなんだが」
「アルコールに、水分は殆ど無いわよ」
「あの黄色い屋根の建物が、スタンドですね? 食べ物もあるかも知れないです」
広い道路の先には、周辺を、小さな家屋に囲まれている十字路があった。
左側には、ガソリンスタンドの黄色い屋根があり、給油装置も見えてきた。
賢一は、南国特有の暑さから、顔から汗を滴し、ダニエルも呑気に飲料を求める。
舌を出す彼を、エリーゼは冷淡な声と鋭い目で見つめて、メイスーは元気な声をだす。
「気をつけて、鉄条網が壊れて…………いるわ? いや、これは敷いている途中で、戦闘になってしまったのね」
「ゾンビか? なら、気をつけて調べないとな? 死体が起き上がると、厄介だからな」
「待って、銃創が見えるわ? それに、防弾ベストやアサルトライフルが無いわ?」
「追い剥ぎ、いや、ギャングや略奪者に装備を取られたのか? 済まない、救えなくて」
鉄条網や土嚢などが、中途半端なまま放置されており、それらを、モイラは注意深く観察する。
賢一も、頃がっている死体を見ながら、慎重に近づいていき、いざとなった場合に備える。
カメラのレンズ越しに、エリーゼは兵士たちの死体を眺めると、弾痕を見つけた。
ジャンは、すごく悔しそうな顔をして、両拳をギュッと握り、
「ケネディジープがあるわ、調べてみる」
「動くと良いんだがな?」
駐車場の左端に、二台停車しているケネディジープを見つけて、モイラは近づいていく。
賢一は、彼女の背後に着いていき、背中にゾンビ達が不意討ちを仕掛けないように警戒した。