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第11話 刑務所から冒険に行く前に


 賢一たちは、ゾンビ達との戦いに勝利して、何とか危機を乗りきった。


 刑務所の敷地内には、静けさが戻り、唸り声や銃声も轟かなくなった。



「終わったわね? 軽量プレートや防弾装備を身に付けてない兵士のゾンビばかりだったわ」


「恐らく、車両の整備兵や軽装備の連中だろう? もし、ゲームに出てくるような防弾ゾンビが出てきたら厄介だったぜ」


「君たち、無事だったかっ!?」


 モイラは、兵士ゾンビの死体を蹴りながら、まだ動く可能性がないかと、生死を確認する。


 しゃがみこんで、賢一は、倒れている看守ゾンビの身に付けている装備を触る。



 しかし、ただの黒いベストには、弾痕と血液が付着しており、着られそうにはなかった。


 ちょうど、そこにガンが、何処から敷地内に出たのか分からないが、看守を連れて現れた。



「ああ、何とかな? この様子だと、無差別に民間人を救出するために、入れまくったのか?」


「その通りだ…………指揮官は、ゾンビ災害を甘く見てて、感染している市民すら救助してしまったんだ」


「死ぬのが怖かったり、自分が、ゾンビになるとは思わなくて、隠す連中が居たのね? はぁぁ」


「それで、この様ね? 普段なら、スクープ写真を取っているわ…………生憎と、そんな元気がないけど」


 賢一は、彼を見ながら疲れたのか、右手を少し震えさせ、刑務所内に、ゾンビが溢れた原因を聞く。


 その質問に対して、甘は真剣な表情で答えながら、眉間にしわを寄せつつ両腕を組む。



 民間人の男女が死体となって、転がっている姿を見て、モイラは憐れむような視線を向ける。


 疲れたと言わんばかりに、エリーゼは、ハンヴィーのボンネットに座って、うつむく。



「それで、アンタは誰なんだ? あの偉そうな指揮官は、何処に逃げたんだ?」


「彼の指揮が無ければ、兵士たちは市民の救助を行わないのでは? そうなれば、まだ無事な人々が危険に晒されたままに」


「指揮官と刑務所長は、ゾンビの攻撃により殉職された…………今は、私が責任者だが、これ以上の無闇な民間人の受け入れは拒否する」


 賢一とジャン達は、指揮官の行方と、市民救助に関して、甘に質問した。


 すると、二人の問いに対して、看守が理由を答えながら、衝撃的な発言を口から出した。



「この惨状を見て、市内は危険だと判断したっ! よって、我々は動かない」


「何だと? 市民を助けるのが、我々、公務員の仕事だろうがっ!」


「落ち着けよ、暴れても仕方ないぜ? まずは話を効かないと」


「下手に、また入れたら? 務所の中が、奴等で溢れるわよ~~」


 看守は、自分たちの安全を鑑みて、組織として、動かない事を選択した。


 その言葉を聞いて、ジャンは顔を真っ赤にしながら怒りだし、今にも暴れそうな姿勢になる。



 手を出さない内に、ダニエルは、彼を後ろから押さえて、何とか説得を試みる。


 エリーゼは、疲れきった表情で、暑い陽射しを浴びせる太陽を見ながら呟いた。



「それに、我々は勝手に動けない…………軍の部隊も、私の管轄下にはないし? 外はゾンビだけではない? 暴徒やテロリストが暴れている」


「ならっ! なおさら、市民の救出に向かわないとっ!?」


「ジャン、俺たちだけで行こう、もし困っている人間が居るなら、俺たちが動けばいい」


 看守は、困った表情を浮かべながら、敷地内を囲む建物両側の二階に立つ、見張りたちを見る。


 どうしても、行きたいと言って、ジャンは一人でも救助に向かうべく、踵を返した。



 その様子を見て、賢一は、早歩きで進む彼を止めて、落ち着かせようと試みた。


 行くにしても、何の準備もなしに向かえば、ゾンビや暴徒に殺られて、死ぬだけだからだ。



「私たちは、軍人だからね? それに、米国軍人はピロケト軍の指揮下にないわ」


「JSDFも、指揮権が無いぜ? まあ、勝手に行動したら、本来は始末書と査問委員会もんだが」


「君たち? 成るべくなら危険な場所に向かわせたくないんだが、行くなら止めはしないっ! ただ、君たちの血だけが、血清を作る希望なんだ」


 右側のポケットに閉まっていた、コルト45を抜いて、モイラは、チェッカリングする。


 賢一は、右肩を特殊警棒で叩きながら、苦しそうな表情と、額から汗を垂らしつつ話す。



 六人の血が必要な甘は、彼等には行って欲しくないと、困ったような顔を浮かべる。


 だが、それを止める権限も、また理由も彼にはなく、仕方なく行かせるしかない。



「だから、この周辺の安全を確保して、私たちを首都にある研究所に連れていって、欲しいんだ」


 甘は、ゾンビに対する治療方やワクチンを作るため、六人の前で、真剣な顔をしながら頼む。



「えっと、賢一さんが行くなら、私も…………」


「いい、スクープ写真が撮れそうだわ? これは、政治家のスキャンダルより、凄いのが撮れるわ」


「お前ら、行くのか? まあ、どの道、ここに長居しても仕方がないからな」


「みんな、市民の救出に手を貸してくれるのか?」


 メイスーは、他に頼れる人も居ないので、賢一を含む仲間たちに着いて行くしかない。


 バッグから黒いカメラを取り出し、エリーゼは兵士と看守たちを、レンズ越しに眺める。



 両肩を、ダラリとさせながら、ダニエルは入口の方を見て、背筋を伸ばしつつ呟く。


 ジャンは、皆が自分とともに行動してくれる事が、嬉しくて驚いてしまう。



「まあなっ? ここに、何時までも籠城するワケには、いかない? それに兵隊は、給料分は働かなきゃなっ! 出るかどうかは分からないが…………」


「ふむ、行くなら止めはしないが? 無線機を持って行くといい、全員分はある」


 賢一は、ヤル気を出したが、すぐに大事な金のことを思い出して、表情を曇らせる。


 彼に、看守は右側にある仮設テント内の携帯無線機が、いくつか置いてあった木箱を指差した。




「ああ、待ってくれ、くれぐれも気をつけてくれっ! 私が刑務所の無線室から、サポートする? あと、首都に行くには、それなりの準備が必要だろう」


 甘は、そう言いながら右手を出して、全員を止めて、神妙な顔つきで話す。



「分かった、まず何が必要なんだ? 銃か? それとも爆弾か?」


「いや、必要なのは船だっ! ここは出島のような地形になっている、ボロロハル島だ? ただ、殆どの船は沖に逃げてしまったし、残っているのは海賊や密輸業者…………」


「或いは? 凶悪なテロリストだね」


 賢一が、何気なしに質問すると、甘は地域の名前と、現況を説明する。


 それを聞いて、モイラは目付きを鋭くさせながら、さらなる悪党の名を呟いた。



「て、テロリストッ? ヤダ、怖いっ!? 普段なら、街に出ないのに?」


「ジャングルの連中が、この混乱に乗じて、沿岸部に出てきたか? 厄介だな、救助の邪魔になる」


 地元民であるメイスーは、普段なら居ないはずの悪党たちを怖がり、両肩を触って、体を震わせる。


 同じく、地元で働いているジャンも、凶悪な武装集団の存在は知っている。



「そうだ? 様々な武装集団が動いている……だから、まずは現在地の北部ボロロハル島ビーチから、海峡を隔てた南部ボロロハル島州都コロランに向かわねば成らない?」


 甘は、懐からピロケト諸島の地図を取り出しながら、六人に現在地を教える。



「さらに南下して、ワギオブラス島に、そこからヘランソロン島、最後はマカラナル島だ」


「段々、インドネシアに近づくんだな? はあ、市街地と海、ジャングルを越えるのか」


 甘の説明を聞いて、賢一は、かなり壮大な冒険に成りそうだと思った。



「賢一さん、もう行くんですか? 私は、大丈夫ですけど、皆さんは…………」


「早く行こう、俺たちを待っている人たちが居るんだ」


「いやいや、まずは準備が先よ」


「行き先も決めないとなーーで、まずはビーチに行って見るか? ふぅーー」


 メイスーは、勇気を振り絞りながら、怖いのを我慢して、外に出て行こうと決意する。


 一方、ジャンはと言うと、今すぐにでも、飛び出していきそうな顔を見せる。



 冷静なエリーゼは、無鉄砲に進む事を危険視して、使えそうな物は無いかと辺りを見渡す。


 ダニエルも、両手を空に掲げながら、大きな欠伸アクビをしながらため息を吐いた。

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