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第8話 円形闘技場


 賢一は、爆発に巻き込まれてしまった、二人の死体に目を向けていた。


 彼等の服装は、破けており、武器も壊れて使い物に成らなくなっている。



「ダメだな、爆風の裂傷が酷くて、彼等の装備や弾薬は使い物に成らない」


「特に、兵士の方が直撃したのか? 上半身がヤバいね? まあ、このコルトも弾数が少なくなっているけど、仕方ないわ」


 賢一は、死体に触れたが、特に兵士の方が、ズタズタにされており、見るに耐えなかった。


 モイラも、まだ使えそうな物に彼等の遺体が、所持していないかと探るが、何も見あたらなかった。



「先に進みましょう? 外に出れば、状況を把握できるわ? このままでは、何も分からないし? 報道員として、調べたいし」


「同感だぜっ! 取り敢えず、先に進もう」


「なら、後ろは任せろっ! ゾンビが出たら、俺が斧で対処してやる」


「怖いから、私は真ん中で、お願いします」


 エリーゼが廊下を進みだすと、ダニエルも歩きだし、並びながら奥へと向かっていく。


 消化斧を担ぎながら、ジャンが二人に着いて行くと、メイスーは急いで小走りしだす。



「よし、奥に進もう? 頼むから、今度は何も出てこないでくれよ」


「そうは上手く、いかないと思うわ? 特に、ここではね…………」


 廊下を歩き、賢一は、ゾンビや囚人たちによる奇襲を警戒しながら、奥にある両ドアに向かう。


 モイラは、ドアの向こう側を怪しみながら、コルト45を確りと握りつつ、突入準備をする。



「銃声がするっ! 行くぞっ! 1、2、3、突撃っ!」


「やっぱりねっ! 援護するわっ! ファイアッ!」


「敵だっ! 脱走囚人が現れたぞっ!」


「大人しくしろっ! 暴動鎮圧だっ!」


「奴らも殺せーー!!」


「また、荒手が来やがったか」


 自動小銃を、連射する音を聞いて、賢一は急いで、両ドアを開けると、中に飛び込む。


 コルト45を発砲しながら、モイラは走っていき、直ぐに仕舞って、敵に殴りかかっていく。



 特殊警棒を振り回しながら、白人看守は自身を彼女の攻撃から守ろうとする。


 刺股を使い、黒人看守は囚人たちを押さえつけようと、とにかく必死で戦う。



 白人囚人は、鉄パイプを振るいまくり、猛烈な勢いで、突進してくる。


 中華包丁を握りしめ、黒人囚人は、一直線に走ってきて、暴れまわる。



 ここでは、看守と囚人たちが、互いに一歩も引かず、円形の建物内で白兵戦を展開していた。


 オマケに、上の二階や三階では、AK47やM16A2等から弾丸が、両陣営により撃たれている。



「結局、こうなるのね…………仕方ないし、サップで顔面を殴るしかないわ」


「とにかく、走るしかないっ! みんな、銃撃には気を付けろっ! 上から撃ってくるぞっ!」


「参ったぜ? うわ、危なっ!」


「あ、私の包丁だわっ! て言うか? 今の私、丸腰なんですけどっ!」


 エリーゼは走りだし、囚人たちに向かって、猪のごとく猛烈な勢いで、突進していく。


 消化斧を振り上げ、ジャンは向かってくる敵を相手にしながら、頭上にも注意する。



 拳を構えるダニエルは、ステップしながら前に出たが、上からの銃撃を受けて、下がってしまう。


 メイスーは、自身が愛用する中華包丁が、囚人に使われているのを目にする。



「うらっ! くたばれっ! よし、武器を落としたなっ! これは? モイラ、お前の武器だっ!」


「ぎゃあっ! うわああっ!」


「有り難う、賢一…………これで、戦いやすくなるよっ! とりゃっ!」


「うわあっ? がっ!」


 賢一は、左側から走っていき、白人囚人の頭を、ジャンプしながら特殊警棒で叩きつけた。


 それと同時に、円の内側に怯んだ奴を突きだし、上から降り注ぐ、銃撃に晒させた。



 モイラは、右側の方で、彼が蹴りながら、転がした多用途銃剣を受けとる。


 そして、一気に看守へと、タックルを喰らわせて、さらに喉元を切り裂いた。



「下の連中に構うなーー! まずは、看守たちから殺せっ!」


「連中を射殺しろっ! 絶対に外には出させんぞっ!」


 円の外側に隠れる、看守や囚人を含む、賢一たちを狙うには、反対側から撃たねば成らない。


 その間に、敵に撃たれるかも知れないため、二階や三階では、互いに激しい銃撃戦を繰り広げる。



「不味いな、上の連中は殺気だってやがるっ! 看守も囚人も襲いかかって来やがる、こんな警棒だけじゃ、勝てないぜっ!」


「ぐっ! がっ?」


「全くだぜ、うわっ! こっちを向くんじゃねえっ! 俺を狙うなっ!」


 賢一は、囚人の腹に膝蹴りを喰らわせて、怯んだ隙に、アッパーをアゴに入れた。


 その間に、トカレフを撃ちながら走り回る、ダニエルは上方にも、拳銃弾を発射する。



「きゃああっ! 来ないでっ!」


「へへっ! いい女だなっ!」


 メイスーは、奥に隠れていたが、特殊警棒を持っているアジア系の囚人が襲いかかってきた。



「メイスーが、不味いっ! これは、どうする? …………これを投げるしかないかっ!!」


「ぐわ」


「きゃ~~~~!?」


 賢一は、すぐに辺りを見渡して、床に落ちている中華包丁を見つけた。


 囚人に、それを拾って投げると、奴の後頭部に突き刺さり、前のめりに倒れた。



 いきなり、目の前で人間が死ぬさまを見て、メイスーは驚いて、悲鳴を上げてしまう。


 しかし、そうしていると、僅かな隙を狙って、他の敵が押し寄せてくる。



「あの女を殺せっ!」


「弱そうな奴だ、少し痛めつければ、後は…………」


「ヒヒヒヒ」


「いやあっ! 近寄らないでっ! 来ないでっ!」


 白人囚人と黒人囚人たちが向かってくると、その後ろからアジア系囚人まで、やってきた。


 メイスーは、三人を相手にしながら尻もちを突いてしまい、ガタガタと震えてしまう。



「メイスー、中華包丁を取るんだっ!! うわ、なんだ? 今度はゾンビが来やがったぞっ!」


「ゾンビが来たぞっ!」


「クソ、囚人だけでも手一杯なのにっ!」


「ウアアアア」


 特殊警棒で、賢一は看守を相手にしていたが、看守や兵士、囚人のゾンビ等が走ってくる姿を見た。


 白人看守は、後ろに振り返り、すばやく刺股をゾンビたちに向ける。



 アジア系看守は、警杖を前に出し、鋭い打突を繰り出しながら、突撃していく。


 そんな中、マラソンランナーのごとく、囚人ゾンビが駆け出してくる。



「賢一さん…………こ、来ないでっ!」


 メイスーは、近くに倒れている囚人の後頭部に突き刺さっていた、中華包丁を、すばやく抜きとる。


 その時、グチャッと嫌な音がしたが、それを気にする暇なく、囚人たちに向き直る。



「来たら、切るわよっ!」


「へへ、そんなんでビビるかよ」


「殺れるものなら、殺ってみな?」


「抵抗した方が? 不味いっ! ゾンビがっ!」


 三人の囚人たちに両手に握る中華包丁を向けて、メイスーは段々と下がっていく。


 白人囚人と黒人囚人たちは、彼女を痛め突けて、後で犯そうとして、両側に回り込んだ。



 口から、ヨダレを垂らす、アジア系の囚人は、特殊警棒を持って、ど真ん中から走らんとした。


 そんな彼等の前にも、ゾンビ達が現れて、当然だが襲いかかってくる。



「へあ? あぐっ!」


「逃げろっ!」


「ヤバいっ!」


「ぐああ~~~~!?」


 後ろから、いきなり襲われた、メイスーは訳も分からず体を振るうが、ゾンビは離れない。


 その間に、黒人囚人とアジア系囚人たちは、恐れをなして、一目散に逃げ出した。



 だが、白人囚人だけは、逃げるのが遅れた事で、

ゾンビに腕や手足を噛まれてしまった。


 こうして、彼方此方あちらこちらから大量のゾンビ達が走ったり、小走りしてきて、ここは大混乱に陥った。



「メイスーから離れろっ! 邪魔だっ! このっ!」


「退きなさいっ! その娘は、殺らせはしないわよっ! この変態野郎っ!」


「痛い…………でも、これくらいなら、大丈夫だわ」


 賢一は、突進しながら、タックルを囚人ゾンビに当てて、メイスーから引き剥がした。


 そこに、エリーゼが走ってきて、起き上がろうとした、ゾンビの顔面をサップで叩きつける。



「賢一、上からもくるわよっ! ジャンプするタイプだわっ!」


「また、不味い事になったな…………モイラ、殺るしかないぞ」


 囚人と看守たちが、互いに銃撃し合っていたはずの二階から、ゾンビが次々と飛び降りてくる。


 しかも、連中は落ちてきても死なず、見事に着地すると、今度は高く飛び上がる。



 モイラと賢一たちは、変則的な動きを見せるゾンビ達に、困惑しながらも武器を構える。


 高々とジャンプしまくる奴等を前に、二人は警戒しながら後ろに引き下がった。



「ぐあわ~~~~!?」


「ウガアアーー!!」


「殺、やられ」


「ギュオオオオオオ」


 二階や三階では、看守と囚人たちが、銃撃しまくるが、走るゾンビに殺られてしまう。



「ギュオオオオーー」


「グルアアアア」


「グオ~~~~~~」


「囲まれたか…………だが、相手が人間だろうと、ゾンビだろうと、俺は戦うだけだっ! 来るなら、さっさと来やがれっ!」


 ジャンプするゾンビ、走るゾンビ、ノロノロと歩くゾンビ等が、賢一たちを取り囲む。


 こうして、彼等は覚悟を決めながら、円形の建物内で、一ヵ所に集まって戦う積もりだった。

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