賢一たちは、収容施設から脱出しようと、両ドアに向かったが、その後ろでは異変が起きていた。
囚人や看守のゾンビ達が、いきなり立ち上がり、彼等に襲いかかった。
「グアア~~!?」
「ギャウウッ!!」
「きゃあっ! ゾンビ達が動き出したっ!」
「下がりなっ! 私たちは戦うしかないんだよっ!」
囚人ゾンビと兵士ゾンビたちの動きを見て、メイスーは驚きながら叫んでしまった。
恐怖で身を震わせる彼女を守らんと、モイラは前に出て、コルト45を撃ちまくった。
「グアアッ!?」
「ゲエ…………」
「頭さえ、狙えばっ! 簡単に殺せるわっ!」
囚人ゾンビは、モイラによる射撃で、脳天を拳銃弾に貫かれて、崩れ落ちるように倒れた。
兵士ゾンビも、右目を撃たれて、髄液を撒き散らすと、直ぐに動かなくなってしまった。
「俺も、指輪さえ填めてれば、お前らは怖くないぜっ! この距離なら、拳銃より殴る方が強いっ!」
「グアアッ! グルアーー! ガッ!?」
「連中を、近寄らせないようにしましょうっ! ここは白兵戦をするしかないわっ!」
「グアアアッ!?」
「ああ、そのために消化斧を取ら…………動きだしやがったなっ!」
「ウオオオオ~~」
「このっ! 賢一、俺が押さえているうちに、頭を叩いてくれっ!」
ダニエルの連続パンチを食らって、右側から迫りくるゾンビ達は、次々と押し倒される。
エリーゼも、サップを何度も振るっては、連中を寄せ付けないように、頭を中心に叩きまくる。
敵が暴れる中、賢一は特殊警棒を握り締め、近くの看守ゾンビに狙いを定める。
しかし、死んでいたと思われた囚人ゾンビが、彼の背後で、のろりと起き上がりだした。
その瞬間に、ジャンは両手で、奴を動けなくするため、肩を掴んで壁に押さえつけた。
「分かったっ! 今、叩きまくるからなっ!」
「グエエーー!? ギャ~~~~!!」
「よし、消化斧で、殺れたっ!」
賢一は、囚人ゾンビを特殊警棒で、滅茶苦茶に殴りまくり、反撃できないように押さえた。
身動きが取れなくなった、奴の頭上に、ジャンは奪い返した消化斧を叩き込んだ。
「ザックリと、頭が割れたな?」
「他は? どうなっている? 仲間を助けねば」
「いや、退いてっ! 気持ち悪いっ!」
「グアア」
「うらっ! 民間人に手は出させないわよっ!」
囚人ゾンビが座ったまま動かなくなると、賢一とジャン達は、辺りを見渡す。
すると、メイスーに襲いかかった看守ゾンビが、後ろに押し倒されて、再び起き上がる。
だが、奴による再度の攻撃も、モイラが放った回し蹴りが頭に当たった事により、未然に防がれた。
「ギャ~~~~」
脳が破壊された、看守ゾンビは、凄まじい叫び声を上げながら崩れ落ちた。
「これで、全部か? だったら、さっさと次の部屋に向かうぞ」
「準備は、出来てるわ…………クリア」
「うう、怖いわ」
「それでも、行くしか無いぜ、それでもなっ!」
両ドアの右側を開き、賢一は即座に通路へと、音もなく走り出した。
左側を開いて、モイラは回転しながら中に飛び込み、コルト45を辺りに向ける。
幸いな事に、この廊下には、ゾンビと囚人たちは存在していなかった。
しかし、それでも何処かに敵が潜んでいるのではと、メイスーは疑ってしまう。
もちろん、同じく気を抜かず、ダニエルも両手で、トカレフを構えながら歩く。
「はっ! あっちから銃声がするっ! このまま行ってみるぞっ! 誰かが戦っているのかも知れないっ!」
「危険だけど、音が鳴る方向が、向かう先だから、仕方ないわねっ!」
「戦場さながらの雰囲気だわ? しかし、私はジャーナリスト、確かめに行くのが使命っ!」
「大した度胸だな、俺は戦場よりも美しいビーチに行って、美味い食い物と、綺麗な姉ちゃんに囲まれたいだけだぜ」
賢一は、遠くから轟いた射撃音に驚き、直ぐに音源へと走り出した。
その後に続いて、モイラも金髪を揺らしながら、気を引き締めつつ駆け出す。
サップで、左右の肩を叩き、エリーゼは首をゴキゴキと鳴らして、小走りし始める。
疲れた表情で、ダニエルは愚痴りながらも、他に行く宛もないので、三人に着いていく。
「とにかく、行くしかないっ! おっ! 誰かが来るっ!?」
「ウガアアッ!」
「ギャアアアアーー!!」
「止まりやがれ、止まれ~~~~!」
「殺せ、生きて監獄から出すなっ!」
曲がり角の右側から、賢一は顔を出して、様子を確かめたが、そこではゾンビ達が走っていた。
そして、看守が自動小銃M16A2から、何度も三発ずつ、ライフル弾を発射する。
兵士は、M4カービンを撃ちまくり、走る敵を次々と倒していく。
これにより、ゾンビ化していた、囚人や看守の死体が、そこら中に頃がった。
「危なかったな? まだ、敵が潜んでいるかも知れない」
「警戒は怠るな? 何処かに囚人が隠れているのは間違いないからな」
看守は、そう言うと死体の頭をブーツで踏みつけて、起き上がらないかと確かめる。
兵士も、銃口を周囲に向けながら、囚人の生き残りやゾンビ達を探し始めた。
「アイツら、厄介だな? ダニエル、モイラ? 銃撃を頼めるか?」
「先制攻撃なら、任せな…………」
「俺は、銃なんて、使った事が無いんだが」
賢一は、壁際に身を寄せて、歩き回る二人の行動を密かに観察し続ける。
モイラは、コルト45を右手に握り、ダニエルも両手で、トカレフを強く握り締める。
「こっちに来ますよっ! ヤバいですっ!」
「来たら、斧で叩き割るしかないな」
「アイツら、話は通じるかしら? 通じないなら、叩くしか?」
足音が近づいてくる度に、メイスーは顔を真っ青にさせながら、体を丸めてしまう。
ジャンは、消化斧を確りと抱え、エリーゼは姿勢を低く構えて、サップを振るう準備をした。
「ここは危険だ、外に出よう」
「ああ、そうだな? それから、他の部隊と合流しよう」
看守と兵士たちは、二人とも敵は居ないと判断して、ゾンビが走ってきた道に戻っていった。
「ようやく、行ってしまったか?」
「グアアッ!?」
「しまったっ! まさか、上から来るとはねっ! 撃つのは出来ないからっ!」
「喰らえっ! 頭を薪のように割ってやるっ!」
賢一が、ほっと胸を撫で下ろした瞬間、天井の通気孔から、ゾンビが飛び降りてきた。
それを目にした瞬間、モイラは腹に蹴りを喰らわせ、ジャンが両目に消化斧の刃を叩きこんだ。
「グエエ…………」
「何だっ!」
「あっちに誰か居るぞっ!」
ゾンビが悲鳴を上げた事で、看守と兵士たちは、曲がり角に注意を向ける。
「不味い、俺たちは生存者だっ!? 囚人じゃあないっ!!」
「居たぞっ! 怪しい奴だっ! 撃ち殺せっ!」
「妙な迷彩服を着ている? 反政府ゲリラかっ!」
「どうやら、話は通じないようだね…………なら」
見つかったので、賢一は両手を上げながら、曲がり角から、ゆっくりと出ていこうとする。
しかし、それでも看守と兵士たちは、彼も囚人であると思い、二人とも銃撃してきた。
モイラは、横から飛び出て、コルト45から即座に、二発の弾丸を発射した。
それは、正確に連中の胸に当たり、こちらに対する射撃を中断させた。
「不味い、隠れないとっ!!」
「がっ!」
「うわ、この野郎っ!」
そう言いながらも、賢一は曲がり角に行くより、素早く地面に伏せる事を選んだ。
彼を狙っていた、看守は直ぐに死んでしまったが、兵士は手榴弾を転がしてから動かなくなった。
「ヤバいわっ! 手榴弾よっ!」
「早く投げ返せっ! いや、逃げろっ!」
「きゃああああっ!」
「離れろっ! 下がれっ!」
エリーゼとダニエル達は、直ぐに走り出し、メイスーはジャンが手を引っ張る。
「賢一、早く逃げなっ!」
「いや、これは…………」
モイラは、仲間たちとは反対側の曲がり角に隠れており、賢一は転がってきた手榴弾を拾う。
そして、それが爆発する前に、敵の死体に向かって、勢いよく投げかえした。
「うわああああっ!? 終わったか」
その二秒後、爆風から頭に両手を当てて、身を守った、賢一は顔を前に向けた。
すると、そこには爆発の直撃に巻き込まれた惨たらしい死体が、二体も残っていた。