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第6話 収容所からの脱出


 賢一たちは、廊下の奥にある階段を見たが、上方からは銃声が何度も木霊していた。



「この先は、俺が先導する…………」


「私も、前に出るわ」


 賢一は、前屈みになり、モイラはM4カービンを構えながら、階段を慎重かつ素早く上がっていく。


 そして、二人一組で行動している彼等は、薄暗く短い廊下を発見した。



 そこは、部屋のドアが開いており、誰も居ないような雰囲気だった。



 その一つに、押収品・保管室があり、彼等は取り敢えず、近づいていった。


 だが、そこからは、ゾンビ達による低い唸り声が響いており、危険な場所なのは明らかだった。



「ひっ! ぞぞ、ゾンビがっ!」


「しっ! 今、片付けるわ」


「任せとけ、仕留めてくるからな」


 メイスーが驚くが、モイラと賢一たちが、保管室へと足音を立てずに近づいていく。


 すると、ここでは想像していた通り、兵士ゾンビと囚人ゾンビ達が、看守の死体を貪っていた。



「よ…………」


「ギッ!」


「うらっ!」


「グベ?」


 賢一は、真後ろから近づいて、ゾンビの首を後ろから掴んで折りまげ、さらに頭を壁に叩きつけた。


 一方、モイラは後頭部を蹴りあげ、脳内に損傷を与えて、簡単に敵を倒した。



「ソイツは、ゾンビに成らないのか? 起き上がる可能性は? ビビるようなホラー展開は、ゴメンだぜ」


「私も、その死んだ人が怖いです」


「大丈夫だ、コイツは自決している…………頭を撃ち抜いたんだな」


「コルト45だわ、押収品か? 軍のお下がりかしらね? 何れにしろ、これは私が貰っておくわ」


 ダニエルは、紺色の制服と制帽を被る、警察官みたいな格好をした、看守を睨む。


 メイスーも同じく、死体が転化して、起き上がるのではないかと心配する。



 しかし、賢一は、側頭部が撃ち抜かれている事を確かめ、死体を探る。


 モイラは、手に握られたままの黒い拳銃、コルト45を広い上げた。



「他の武器は? 俺たちのが幾つか残っているな? これは俺が愛用するリングだぜっ!」


「私のサップとバック、それに、カメラも残っているわね? ここに無いのは、ナイフと消火斧、それに中華包丁だけね」


「きっと、囚人たちが、ゾンビや兵士と戦うために持ってたのね? あと、正しくは多用途銃剣ね」


「クソッ! 銃が残っていれば、ゾンビと距離を取って、戦えたのにっ! それなら早く外に救出に向かえたのにっ!」


 近くのキャスターに、載せてあった髑髏リングを、ダニエルは笑顔で指に嵌めた。


 黒い棒を握り締め、エリーゼは肩を軽く叩きながら、他の武器を探しつつ呟く。



 モイラは、チェッカリングして、コルト45に弾丸が装填されている事を確かめる。


 空になった保管室で、ジャンは力強く壁を叩きながら、悪態を吐いた。



「まあ、仕方ない? 次の部屋に行こうか? ここに居ても、どうしようも無いからな」


「他も空になっているでしょうね? 使える物は、持っていかれてるようだし」


 賢一は、向かい側の取り調べ室へと向かい、モイラは右隣にある部屋に入る。


 しかし、そこには大きなミラーがあるだけで、他に使えそうな物はなかった。



「こっちも空だぜっ! あのドアの向こうに行くしか無いな」


「銃声が聞こえているが、大丈夫なのだろうか? 叫び声がしないだけ、マシか? とにかく人助けに行かないと」


「行くわよ、私が突撃するから、みんな着いてきて」


「ふぅ~~? 覚悟を決めるしか無いわね…………スクープ写真より、今は生き残るのが先決と」


 奥にある両ドアの挟むように、ダニエルとジャン達が立つと、一気にドアを開いた。


 次いで、コルト45を両手で握るモイラが向こう側に飛び込み、エリーゼも素早く突撃した。



「居たぞっ! 兵士だっ! 撃ち殺せっ!」


「奴らを殺せっ!!」


「不味いわっ! みんな、下がってっ!」


「囚人たちが、銃を撃ってくるわっ!」


 黒人囚人は、自動小銃AK47を撃ちまくり、白人囚人は、拳銃トカレフを発砲してきた。


 どうやら、連中は広い収容施設の真ん中にある連絡橋から、こちらを狙ってきたらしい。



 モイラは、直ぐにバックステップを繰り返して、ドアから離れて、元の廊下に戻った。


 エリーゼも、即座に踵を返すと、大きくジャンプしながら、敵の射線から離れた。



「上からか? どうする? ん…………」


「グアアッ!」


「グルアーー!?」


 銃弾が、廊下に弾痕を開けていく中、賢一は独房に、ゾンビが押し込められている事に気がつく。



「モイラ、左側の独房の錠前を壊せるか?」


「あの距離、やって見るわねっ!」


「向こうに、まだ兵士が残ってたぞっ!」


「看守も兵士も、皆殺しだっ!」


 ゾンビ達を使い、賢一は何とか、銃撃してくる囚人たちを倒そうと考えた。


 独房に狙いを定め、モイラはM4カービンを単発で、何度もライフル弾を撃つ。



 結果、錠前は見事に破壊できたが、その間も白人囚人は、トカレフを発砲しまくる。


 そして、黒人囚人はAK47を、滅茶苦茶に乱射しまくってきた。



「うわあっ! M4がっ! これは、不味いわねっ!?」


「モイラ、大丈夫だっ! 時期に、連中はゾンビに気を取られるだろうっ!」


「ウェアアッ!?」


「ウウウウーー!!」


 モイラは、M4カービンを撃っていたが、囚人たちの銃撃で、銃本体が見事に破壊されてしまった。


 しかし、賢一の予測していた通り、ゾンビ達は独房から出てきて、連絡橋へと小走りで向かった。



「グアアアアッ!!」


「ウオオオオッ!!」


「うわっ! ゾンビが来るっ! 撃ちまくれっ!」


「この距離なら、撃ち殺せるっ! 焦るなっ!」


 囚人たちの喉元に食らい付かんと、ゾンビ達は叫びながら連絡橋を駆けていった。


 黒人囚人は、AK47を腰だめ撃ちで乱射しまくり、白人囚人もトカレフを射撃した。



「そうは、いかないよっ! 死にな、クズどもがっ!」


「うげっ!」


「ぎゃっ! ぐああっ!」


「ウオオオオーー!」


「ギャアアアア」


 モイラの握るコルト45は、黒人囚人を狙撃して、左側頭部を撃ち抜いた。


 白人囚人の方は、ゾンビ達に噛まれてしまい、ジタバタと暴れるが、やがては動かなくなった。



「おっ? 死体の上に何か落ちたぜ、コイツは眉間を撃たれているな? それに、トカレフが手に入ったぜ」


「気を付けろ、死体に化けているゾンビも居るかも知れないんだ、ここは地獄だからな」


「どこもかしこも、スクープだらけ? しかし、今は、生き残るのが先決ねっ!」


「それより、私は安全に出られれば、良いだけなんですけど…………」


 看守の死体へと、落下した事で、衝撃が和らいだ、トカレフは暴発しなかった。


 それを、ダニエルは拾うと、右手に握りながら、キョロキョロと目を左右に動かした。



 当然だが、ゾンビと化しているかも知れない遺体が、そこら中に転がっている。


 ジャンは、それ等に警戒しながらも、真剣な顔で、どんどん前へと進んでいく。



 エリーゼも、興味深そうに、動かなくなった兵士や囚人などの死体を眺めながら歩いた。


 最後尾は、メイスーが時おり後ろを振り向いて、敵が動き出さないか、確かめている。



「おい? あの死体、武器を持っているぞっ! あれ、ジャンの愛用品じゃないか? 警棒で、頭を叩く準備をしないとな」


「囚人だな? 撃たれている、ゾンビ化しないと良いんだが?」


 賢一は、左側の独房で、壁に背を預けて、座りながら死んでいる囚人を、指差した。


 それを聞いて、ジャンは死体に目を向けると、膝に載っかっている消化斧を見つけた。



 二人は、ゾンビ化している可能性を考慮して、ゆっくりと、項垂うなだれた奴に近づいていく。


 オレンジ色の囚人服には、弾痕が無数あり、そこからは血液が流れたあと、乾いていた。



「ウアアアア」


「ウオオオオ」


「本当にゾンビ化しない事を願うわ、あと上の連中が、こっちに気がついている? 下まで、来られないから放置するけどねっ! 弾が勿体もったいないし」


「それより、やっぱり、後ろが怖いです…………」


 モイラは、二階のゾンビ達が、連絡橋から騒いでいるが、連中は鉄格子に阻まれている。


 ゆえに、こちらには来られないし、万が一に落下してきても、衝撃で死ぬだろうと予測できた。



 周囲には、たくさんの死体があるため、メイスーは肩を震わせながら、かなり怖がっている。


 少しでも動かないかと、彼女は、ここにある怪しい亡骸に目を向けては、顔を青くさせる。



「ウア?」


「グアアッ?」


 もちろん、その予想は当たり、ゾンビ達はムクリとした不気味な動きで、一気に起き上がった。

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