賢一たちは、廊下の奥にある階段を見たが、上方からは銃声が何度も木霊していた。
「この先は、俺が先導する…………」
「私も、前に出るわ」
賢一は、前屈みになり、モイラはM4カービンを構えながら、階段を慎重かつ素早く上がっていく。
そして、二人一組で行動している彼等は、薄暗く短い廊下を発見した。
そこは、部屋のドアが開いており、誰も居ないような雰囲気だった。
その一つに、押収品・保管室があり、彼等は取り敢えず、近づいていった。
だが、そこからは、ゾンビ達による低い唸り声が響いており、危険な場所なのは明らかだった。
「ひっ! ぞぞ、ゾンビがっ!」
「しっ! 今、片付けるわ」
「任せとけ、仕留めてくるからな」
メイスーが驚くが、モイラと賢一たちが、保管室へと足音を立てずに近づいていく。
すると、ここでは想像していた通り、兵士ゾンビと囚人ゾンビ達が、看守の死体を貪っていた。
「よ…………」
「ギッ!」
「うらっ!」
「グベ?」
賢一は、真後ろから近づいて、ゾンビの首を後ろから掴んで折りまげ、さらに頭を壁に叩きつけた。
一方、モイラは後頭部を蹴りあげ、脳内に損傷を与えて、簡単に敵を倒した。
「ソイツは、ゾンビに成らないのか? 起き上がる可能性は? ビビるようなホラー展開は、ゴメンだぜ」
「私も、その死んだ人が怖いです」
「大丈夫だ、コイツは自決している…………頭を撃ち抜いたんだな」
「コルト45だわ、押収品か? 軍のお下がりかしらね? 何れにしろ、これは私が貰っておくわ」
ダニエルは、紺色の制服と制帽を被る、警察官みたいな格好をした、看守を睨む。
メイスーも同じく、死体が転化して、起き上がるのではないかと心配する。
しかし、賢一は、側頭部が撃ち抜かれている事を確かめ、死体を探る。
モイラは、手に握られたままの黒い拳銃、コルト45を広い上げた。
「他の武器は? 俺たちのが幾つか残っているな? これは俺が愛用するリングだぜっ!」
「私のサップとバック、それに、カメラも残っているわね? ここに無いのは、ナイフと消火斧、それに中華包丁だけね」
「きっと、囚人たちが、ゾンビや兵士と戦うために持ってたのね? あと、正しくは多用途銃剣ね」
「クソッ! 銃が残っていれば、ゾンビと距離を取って、戦えたのにっ! それなら早く外に救出に向かえたのにっ!」
近くのキャスターに、載せてあった髑髏リングを、ダニエルは笑顔で指に嵌めた。
黒い棒を握り締め、エリーゼは肩を軽く叩きながら、他の武器を探しつつ呟く。
モイラは、チェッカリングして、コルト45に弾丸が装填されている事を確かめる。
空になった保管室で、ジャンは力強く壁を叩きながら、悪態を吐いた。
「まあ、仕方ない? 次の部屋に行こうか? ここに居ても、どうしようも無いからな」
「他も空になっているでしょうね? 使える物は、持っていかれてるようだし」
賢一は、向かい側の取り調べ室へと向かい、モイラは右隣にある部屋に入る。
しかし、そこには大きなミラーがあるだけで、他に使えそうな物はなかった。
「こっちも空だぜっ! あのドアの向こうに行くしか無いな」
「銃声が聞こえているが、大丈夫なのだろうか? 叫び声がしないだけ、マシか? とにかく人助けに行かないと」
「行くわよ、私が突撃するから、みんな着いてきて」
「ふぅ~~? 覚悟を決めるしか無いわね…………スクープ写真より、今は生き残るのが先決と」
奥にある両ドアの挟むように、ダニエルとジャン達が立つと、一気にドアを開いた。
次いで、コルト45を両手で握るモイラが向こう側に飛び込み、エリーゼも素早く突撃した。
「居たぞっ! 兵士だっ! 撃ち殺せっ!」
「奴らを殺せっ!!」
「不味いわっ! みんな、下がってっ!」
「囚人たちが、銃を撃ってくるわっ!」
黒人囚人は、自動小銃AK47を撃ちまくり、白人囚人は、拳銃トカレフを発砲してきた。
どうやら、連中は広い収容施設の真ん中にある連絡橋から、こちらを狙ってきたらしい。
モイラは、直ぐにバックステップを繰り返して、ドアから離れて、元の廊下に戻った。
エリーゼも、即座に踵を返すと、大きくジャンプしながら、敵の射線から離れた。
「上からか? どうする? ん…………」
「グアアッ!」
「グルアーー!?」
銃弾が、廊下に弾痕を開けていく中、賢一は独房に、ゾンビが押し込められている事に気がつく。
「モイラ、左側の独房の錠前を壊せるか?」
「あの距離、やって見るわねっ!」
「向こうに、まだ兵士が残ってたぞっ!」
「看守も兵士も、皆殺しだっ!」
ゾンビ達を使い、賢一は何とか、銃撃してくる囚人たちを倒そうと考えた。
独房に狙いを定め、モイラはM4カービンを単発で、何度もライフル弾を撃つ。
結果、錠前は見事に破壊できたが、その間も白人囚人は、トカレフを発砲しまくる。
そして、黒人囚人はAK47を、滅茶苦茶に乱射しまくってきた。
「うわあっ! M4がっ! これは、不味いわねっ!?」
「モイラ、大丈夫だっ! 時期に、連中はゾンビに気を取られるだろうっ!」
「ウェアアッ!?」
「ウウウウーー!!」
モイラは、M4カービンを撃っていたが、囚人たちの銃撃で、銃本体が見事に破壊されてしまった。
しかし、賢一の予測していた通り、ゾンビ達は独房から出てきて、連絡橋へと小走りで向かった。
「グアアアアッ!!」
「ウオオオオッ!!」
「うわっ! ゾンビが来るっ! 撃ちまくれっ!」
「この距離なら、撃ち殺せるっ! 焦るなっ!」
囚人たちの喉元に食らい付かんと、ゾンビ達は叫びながら連絡橋を駆けていった。
黒人囚人は、AK47を腰だめ撃ちで乱射しまくり、白人囚人もトカレフを射撃した。
「そうは、いかないよっ! 死にな、クズどもがっ!」
「うげっ!」
「ぎゃっ! ぐああっ!」
「ウオオオオーー!」
「ギャアアアア」
モイラの握るコルト45は、黒人囚人を狙撃して、左側頭部を撃ち抜いた。
白人囚人の方は、ゾンビ達に噛まれてしまい、ジタバタと暴れるが、やがては動かなくなった。
「おっ? 死体の上に何か落ちたぜ、コイツは眉間を撃たれているな? それに、トカレフが手に入ったぜ」
「気を付けろ、死体に化けているゾンビも居るかも知れないんだ、ここは地獄だからな」
「どこもかしこも、スクープだらけ? しかし、今は、生き残るのが先決ねっ!」
「それより、私は安全に出られれば、良いだけなんですけど…………」
看守の死体へと、落下した事で、衝撃が和らいだ、トカレフは暴発しなかった。
それを、ダニエルは拾うと、右手に握りながら、キョロキョロと目を左右に動かした。
当然だが、ゾンビと化しているかも知れない遺体が、そこら中に転がっている。
ジャンは、それ等に警戒しながらも、真剣な顔で、どんどん前へと進んでいく。
エリーゼも、興味深そうに、動かなくなった兵士や囚人などの死体を眺めながら歩いた。
最後尾は、メイスーが時おり後ろを振り向いて、敵が動き出さないか、確かめている。
「おい? あの死体、武器を持っているぞっ! あれ、ジャンの愛用品じゃないか? 警棒で、頭を叩く準備をしないとな」
「囚人だな? 撃たれている、ゾンビ化しないと良いんだが?」
賢一は、左側の独房で、壁に背を預けて、座りながら死んでいる囚人を、指差した。
それを聞いて、ジャンは死体に目を向けると、膝に載っかっている消化斧を見つけた。
二人は、ゾンビ化している可能性を考慮して、ゆっくりと、
オレンジ色の囚人服には、弾痕が無数あり、そこからは血液が流れたあと、乾いていた。
「ウアアアア」
「ウオオオオ」
「本当にゾンビ化しない事を願うわ、あと上の連中が、こっちに気がついている? 下まで、来られないから放置するけどねっ! 弾が
「それより、やっぱり、後ろが怖いです…………」
モイラは、二階のゾンビ達が、連絡橋から騒いでいるが、連中は鉄格子に阻まれている。
ゆえに、こちらには来られないし、万が一に落下してきても、衝撃で死ぬだろうと予測できた。
周囲には、たくさんの死体があるため、メイスーは肩を震わせながら、かなり怖がっている。
少しでも動かないかと、彼女は、ここにある怪しい亡骸に目を向けては、顔を青くさせる。
「ウア?」
「グアアッ?」
もちろん、その予想は当たり、ゾンビ達はムクリとした不気味な動きで、一気に起き上がった。