賢一たちは、迫りくる大量のゾンビ達を前に、逃げられないと判断して、六人とも敵と退治する。
「グアアアア~~!?」
「ギャウウウウッ!!」
「来たぞっ! もう殺るしかないっ! ほんっとに、ナイフだけでも有れば…………」
「行くわよ、海兵隊員として心の準備は出来てるわ」
走ってくる囚人ゾンビの襟を掴むと、賢一は思いっきり、壁に叩きつける。
モイラは、回し蹴りで、兵士ゾンビの肋骨を折る勢いで、胸を蹴り飛ばした。
「まだまだ、来るわねっ! 殴りまくるしかないわっ! 覚悟するしかないっ! 死体はカメラに取って上げる」
「喧嘩なんて、もう何年もやってないっ! 俺は、こう見えて、平和主義者なんだっ! ギャングなのは見た目だけだぜ」
「ギャウアア~~~~」
「グルアーーーー!!」
エリーゼは、囚人ゾンビの頭を何度も左右から殴って、向こうが攻撃する事を許さない。
その後ろから走ってくる女性兵士ゾンビを、ダニエルは喉を掴み、後ろに押し倒した。
「いやあっ!? 来ないで下さいっ! ぐっ! うう…………もう止めてっ!」
「うらっ! このまま足で踏み潰してやるっ! 俺は、はやく民間人を助けに行かないと成らないんだっ! 邪魔するなっ!」
「ギャアアアア~~」
「グオオーー!!」
メイスーは、囚人ゾンビの体を掴んで、壁に押し付けたが、右手を噛まれて血を流す。
兵士ゾンビが殴りかかってくると、ジャンは後ろに下がり、素早く奴の喉元に肘鉄を喰らわせた。
「いやあっ! このっ! このっ!」
「グアッ! グッ! ゲアッ!」
「退きやがれっ! この変態野郎っ!」
「止めだっ! 俺は暴力沙汰は嫌いなのにっ!」
「グアアアア~~~~!?」
「また、来るわよっ! 不味いっ! 今のより、数が多いわっ! 一度撤退をしましょうっ!」
メイスーは、壁に押さえつけた囚人ゾンビの頭を揺らして、後ろに何度も叩きつける。
その右側から、賢一は髪を掴んで、奴を地面に押し倒して、後頭部を踏みつけた。
拳を振るいまくる、ダニエルの連続攻撃を喰らって、兵士ゾンビは後ろに倒れた。
モイラは、そう言いながら叫び声が聞こえる方向とは逆に、勢いよく駆け出していく。
「ギャアアアア~~!!」
「グオオオオッ!」
「アアアアァァ」
「ウエエーーーー!」
「マジだな? みんな下がれっ! とにかく、走るんだっ! 俺は自衛隊員であって、飛脚じゃないが、走るしかないか…………」
「これは、火事場から逃げるより、キツイなっ! でも今は下がるしかない」
「火の海とゾンビ、どっちもスクープだけど、今は逃げるのが先決ね」
「まっ! 待って、私を置いてかないでよっ!」
「いいから、走るんだっ! ゾンビの餌に成るなんて、俺はゴメンだぜっ!」
ゾンビの大集団が走って来る声が聞こてくると、賢一は踵を返して、モイラを追って行った。
ジャンも、すばやく後ろに振り返り、廊下を一心不乱に駆けていく。
エリーゼは、このまま突っ立っていると不味いと思い、彼等を追っていった。
メイスーが走り出すと、彼女を励ましながら、自らも悲鳴を上げつつ、ダニエルは走る。
「兵士の死体があったっ! 撃たれているわねっ! みんな伏せてっ!」
「銃撃する気だっ! 全員、床に這いつくばれっ!」
「うわっ! これは、不味いわっ!」
「ひぇ~~! もう銃撃は止めてくれ~~!」
頭を撃たれて、死んでいる兵士の死体から、M4カービンを、モイラは拾った。
彼女の声を聞いて、賢一は、スライディングしながら、床に伏せた。
エリーゼは、それを見ると一気に飛びながら伏せて、銃撃を切り抜けようとする。
タタタタと続く、銃撃音を耳にして、ダニエルは恐怖の余り叫んでしまう。
「ギャアアーー!!」
「グアアッ!?」
「リロード中、今が走るチャンスだよっ!」
「走れっ! メイスー、行くんだっ! 今は逃げろっ!」
「うん、行かないと」
「ジャン、お前も行けっ!」
ゾンビの集団は、何発もライフル弾を受けて、先頭を走る連中が倒れていく。
モイラは、弾倉が空になると、それを取り替えるべく、兵士の死体を探る。
ジャンは、メイスーを励ましながら、二人して、廊下を逃げて行った。
その一番後方では、賢一が敵を眺めて、何れくらい距離が離れているか測る。
「もう一回、撃つよっ!」
「やべっ!? 頭を下げないと」
「うわわ、不味いわね」
モイラが叫び、M4カービンから再び射撃が開始されると、仲間たちは床に伏せる。
エリーゼとダニエル達は、頭を両手で覆いながら、ゾンビ達が殲滅されるのを待つ。
「グアア…………」
「グエエエエ」
「ギャアアア~~!!」
「グルアーーーー」
その間に、前方を走るゾンビ達は、ライフル弾で倒れてゆくが、後ろから来る連中も死んでいく。
これは、銃弾が貫通しているからだが、それでも、生き残りが勢いよく突っ込んでくる。
「モイラ、もういいっ! 逃げるぞっ! 奥に向かえっ!!」
「不味いねっ! この数じゃあ、道路の二の舞だわ」
賢一は、五メートルの距離まで迫るゾンビ達から逃れようと、必死で足を動かし続ける。
モイラも、奥から次々と現れる群れに、銃撃を諦め、銃を抱えたまま走っていく。
「ドアが見えたぞっ! あそこなら、我々は無事に逃げられるっ!」
「よっしゃ? あそこを開ければ、後は閉めるだけだ」
「そこまで行けば、この地獄から抜け出せるわね」
「はあ、はあ、もう少しでっ! あっ!」
ジャンは、奥に見える分厚いドアを見つけると、目を細めて、そこを指差した。
それが分かると、ダニエルは走る速度を上げて、一足先に辿りつこうとする。
エリーゼは、出口に向かって、ただひたすらに廊下を駆け抜けていく。
そんな中、メイスーだけが運悪く、床に足を滑らせて、転んでしまった。
「いたた…………うあっ!」
「立てっ! メイスー、はやく行くぞ」
転倒してしまった、メイスーを立ち上がらせて、賢一は彼女を先に走らせる。
「着いたわっ! 貴方たち、さっさと来なさいっ!」
「もう直ぐそこまで来ているぞっ!」
モイラとダニエル達は、ドアを開けて、他の仲間たちを呼びながら、逃げてくるまで待つ。
「不味い、二人が…………」
「私達は、着いたけど」
「ううううっ! 最悪っ!」
「メイスー、泣くなっ! 先に行けっ!」
何とか、ドアにまで無事に着いたばかりのジャンとエリーゼ達は、最後尾を走る二人を心配する。
メイスーは、恐怖のあまり、半泣きに成りながら、ゾンビ達から逃げていく。
最後に成るであろう、賢一は後ろを振り返り、追っ手たちの顔を睨んだ。
そこには、傷付いたり、土色をした肌の兵士と囚人だった動く死者たちが、口を開いていた。
「モイラ、メイスーが入ったら、ドアを閉めろっ! 俺は良いっ! どうせ、必要な犠牲だっ!」
「賢一さん…………」
「後は、君だけだっ! 諦めるなっ!」
「そうだよ、まだ弾は残ってるんだっ! 賢一、頭を下げながら走ってきてっ!」
「グアアアアッ!?」
「グルアーーーー!!」
賢一は、何とかして、メイスーだけを生かそうと、自らが犠牲になる事を選んだ。
ジャンは、ドアから手を伸ばして、最後の一人となった彼を助けようとする。
モイラは、M4カービンから単発で、何度もライフル弾を発射していく。
その一発ずつ放たれた射撃は、ゾンビ達に当たって、次々と倒していった。
「ふぅ~~! モイラ、助かった」
「いいから、閉めるぜ」
「これで、一難去ったわ? でも、次はどうするの?」
「助かったのは良かったけど、とにかく海兵隊と無線連絡が取れれば…………」
「うう、怖かった、うっ!」
「泣いても仕方ない、メイスー、今は生き残った事を喜ぶんだ」
賢一が、ドアを潜り抜けると、ダニエルは急いで、出入口を閉めてしまった。
その向こうでは、ギャアギャアとゾンビ達が騒いでいたが、エリーゼは真剣な顔で冷静に呟く。
モイラも、流石に肝を冷やしたらしく、少し疲れたような表情を浮かべる。
ゾンビに追われていた恐怖感から、メイスーは、泣き崩れてしまった。
そんな彼女を、ジャンは落ち着かせようとして、静かに声をかけた。
「そうだ、メイスー? 俺たちは、二度もゾンビと戦ったんだっ! しかも、噛まれてもゾンビに成らないんだぜっ! とは言え、次は何をするか?」
「そうだけど…………」
賢一とメイスー達は、廊下の奥にある階段を見たが、そこからは銃声が何度も木霊していた。