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第4話 軍事基地の地下収容所


 賢一たちが、聞こえてきた声に耳を傾けると、どうやら指揮官と科学者たちが話している声が響く。


 彼等は、こちらに向かって、足早に歩いて着ており、何やら口喧嘩しているようだった。



「それに関しては、私は関与していないっ! 貴方の部下たちが勝手に、負傷している犯罪者だと思って、彼等を牢屋に放り込んだんだ」


「ドクター、しかし、いずれにせよ? 我々には関係の無い話だっ! 奴等がゾンビ化したら、即座に射殺するっ! そんなに調べたいなら、死体になってから、血液サンプルを抜き取るんだな」


 賢一たちは、科学者が激しく指揮官に抗議している話し声が響いてくる。


 彼等は、こちらに向かってきて、その姿を証明で照らされた廊下で晒す。



「そんな事はさせないっ!」


「おい、俺は親中派の副大統領側だが、口の聞き方に気をつけろっ! 出ないとっ? 何が起きたっ!」


「集団脱走ですっ! 囚人たちが逃げ出しましたっ!!」


「現在、奴等が暴動を起こしていますっ!」


 七三分けされた黒髪の白衣を着ているアジア人らしき、科学者は真剣な顔をしていた。


 一方、赤いベレー帽を被る指揮官は、腰からコルト45を抜き取ると、引き金を引いた。



 ように見えたが、それは何処からか響いた物であり、基地内に警報が鳴り響く。


 フリッツ・ヘルメットを被る兵士が報告に来ると、続いて野戦帽を被る兵士が走ってきた。



「なにっ!? 凶悪な囚人ばかり何だぞっ! 絶対に連中を出すなっ!」


「はいっ! それから、基地内にゾンビも侵入していますっ!」


 指揮官は、兵士たちを引き連れて、慌てながら何処かへと走りさっていった。



「君たち、聞いていたな? 私は甘・明洞ガン・ミンドゥーだっ! 中国の医療機器メーカーであり、製薬企業でもあるハイテックス公司コンスーに勤めている? 君たちは保菌者だっ! 噛まれても、ゾンビ化していないだろう」


「それは? 確かに俺たちは噛まれても、ゾンビ化していないな」


「中国の科学者だってのは、分かったけど、目的は何だってんだ?」


 ガンと名乗る科学者は、檻に近寄ると、賢一とダニエル達に話しかけてきた。



「聞いていただろう? 私は、君たちを研究所にまで連れて行きたいんだっ! まずは脱走しないと成らないっ! この混乱に乗じて脱出するんだっ!」


 そう言うと、ガンは踵を返し、兵士たちが向かった場所とは別方向に行こうとする。



「私は、鍵を盗んでくるっ! それまで、死ぬなよっ!」


「あ、待てよ、待てって…………」


「行ってしまったわ…………どうしましょう」


 ガンが何処かへと向かって行くと、ダニエルとエリーゼ達は、困ってしまう。



「取り敢えず、彼が戻って来たら、この基地を制圧するわっ! 兵士も囚人も合わせて、殺すのよっ!」


「おい? 殺し合いか? マジで言ってんのかよっ! 勘弁してくれ、ギャング稼業はやらないって決めたんだ」


「そんな悠長な事は、言ってられないっ! 奴等が民間人の救助を優先しているとは思えないしっ! 一刻も早く外に出ないと」


「私のスマホも、没収されたけど、世界に真実を届けないと成らないわ」


 野戦帽を被り直してから、モイラは鋭い目付きで、天井を睨みつける。


 彼女の言葉を聞いて、ダニエルは武器を両手を前に出して、掌を振るう。



 ジャンは、鉄格子を叩きつけ、兵士や囚人が来ないかと、廊下を見張る。


 エリーゼは、壁の方を見て、抜け穴や亀裂が無いかと手で感触を確かめながら探る。



「はぁ…………なんだ、この映画みたいな展開は? しかし、あんな恐ろしい光景を見るとは」


「どうしたの? 体の具合が悪いの?」


 賢一は、皆の様子を見ながら、自身が経験した戦いを思いだし、うつむきながら全身を振るわせる。


 そんな彼の様子を、メイスーは心配しながら、静かに近づいて、話しかけた。



「いや、初の実戦参加だったからな…………まさか、人間相手に銃を撃つんじゃなくて、ゾンビ相手に白兵戦に成るとは思わなかったしな? それより、メイスーだったか? そっちこそ、大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ」


「うん…………♡ いえ、体は大丈夫よっ! 体はね? むしろ、さっきより具合が良いぐらいだわ」


 体の震えるを抑えるため、賢一は深々と空気を吸い込み、精神を落ち着かせようとする。


 彼が、元気を取り戻した事と返事してくれたので、メイスーは顔を紅く染める。



「ちょっと、イチャイチャしてないでっ! 誰か来るわよっ!」


「やった、脱走は成功だっ! 軍の奴等、ゾンビの相手だけで、手一杯だからな」


「このまま外を目指すぞっ!」


 モイラは何者かが、走ってくる足音を聞いて、壁に貼り付いて、身構える。


 それから直ぐに、オレンジ色の囚人服を着ている二人組が現れた。



 アジア系の囚人は、自動小銃M16A2を持ち、とにかく前に向かっていく。


 南太平洋系の囚人も、自動小銃M4カービンを抱えながら進んでいく。



「囚人の脱走も酷いようだね? ここは混乱しているわ…………海兵隊が来てくれないかしら?」


「何が、どうなっているんだ? 外の様子が分からないぞ? 89式さえ有れば…………」


「うわーーーー!! 助けてくれーーーー!?」


「グアア」


「グルアアアア」


 モイラは、鉄格子の合間から廊下を眺めていると、またもや足音が聞こえてくる。


 賢一も、天井を睨みながら呟いていると、いきなり誰かの悲鳴が木霊した。



 それは、兵士の声であり、フリッツ・ヘルメットを落としながら彼は、ひたすら走っていく。


 もちろん、直ぐ後ろには、走る囚人と兵士のゾンビ達が、物凄い勢いで追いかけていた。



「ぐああっ! た、助けてくれぇーー!!」


「ガルルッ!」


「グアアッ!」


「なら、その銃で、錠前を撃つんだよっ!」


「そしたら、直ぐに助けてやるっ!」


 兵士は、自動小銃M16A2から弾丸を、三発ずつ何回か撃って、囚人のゾンビを倒した。


 しかし、兵士のゾンビには銃を抱えながら、噛みつこうとする奴を抑えるだけで、手一杯だ。



 そんな彼に対して、モイラは鉄格子から大声で、取引を持ちかける。


 賢一も、錠前を指差して、壊してくれるように頼むと、誤射を避けるため直ぐに離れた。



「グルアアアア」


「ガアッ!!」


「奥からもっ!?」


 ゾンビは、目の前で叫ぶ奴だけでなく、廊下にも複数存在するらしく、唸り声が響く。


 兵士は、それを耳にすると焦って、恐怖のあまり、冷や汗を顔に垂らす。



「早く開けるんだっ!」


「わ、分かった…………このっ!」


「グッ?」


「今だ、撃ってくれ」


「頼むわ」


 賢一の声を聞いて、兵士は自動小銃M16A2で、ゾンビを殴って床に押し倒す。


 それから、すぐさま錠前を狙い、三発の弾丸を当てて、鍵穴を破壊した。



 ダニエルは、鉄格子を蹴破り外に飛び出て、エリーゼは後に続く。


 二人は、立ち上がった敵を挟みうちにしようと、すばやく前後に回り込んだ。



「おいっ! 抑えているから、早く倒せっ! 頭を殴るんだっ!」


「このっ! このっ!」


「ウガア、ウガアッ! ガアッ!?」


「うわあ…………」


 ゾンビの背後に回り込んで、ダニエルは羽交い締めにすると、エリーゼは頭を集中的に殴りまくる。


 それを見ていた兵士は、腰を抜かしながら、銃を持って、後ろに下がっていく。



「ウラアアアア」


「ウガアアアアーー!!」


「ギャ~~~~」


「グルガーーーーー!!」


「うわああああっ!」


 兵士や囚人のゾンビ達が、一斉に走って来る声が聞こえると、兵士は走って逃げていった。



「あっ! 待てっ! 奴等が来たぞっ! 銃がないのにっ! どうすれば良いんだっ!」


「武器が無いっ! だったら、素手でやるしかないわっ!」


「海兵隊員は、マーシャルアーツを学んでいるから銃がなくても平気よ」


「自衛隊員、それも水陸機動団員なら多少の心得はあるっ!」


「せめて、中華包丁さえ有れば何とかなるのに…………」


「贅沢は言ってられないっ! ゾンビ達を倒すしか道はないっ!!」


 ダニエルは、逃げていった兵士を呼ぶが、すぐに前に向き直ると、ファイティングポーズを取る。


 焦りまくる彼の隣では、エリーゼが向かってくるゾンビ達を睨んで、背を丸くする。



 余裕の顔で、モイラは仁王立ちして、叫び声を放つ主たちを待ち構える。


 その近くで、賢一は足技を放とうとして、暗闇から現れるであろう、敵に身構えた。



 メイスーは、オドオドしながらも仲間たちの後ろに立ち、迫りくる動く死者たちに、目を向けた。


 そんな彼女を守るように、みんなの前に立って、ジャンは廊下に響く足音に耳を傾けた。


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