賢一たちが、聞こえてきた声に耳を傾けると、どうやら指揮官と科学者たちが話している声が響く。
彼等は、こちらに向かって、足早に歩いて着ており、何やら口喧嘩しているようだった。
「それに関しては、私は関与していないっ! 貴方の部下たちが勝手に、負傷している犯罪者だと思って、彼等を牢屋に放り込んだんだ」
「ドクター、しかし、いずれにせよ? 我々には関係の無い話だっ! 奴等がゾンビ化したら、即座に射殺するっ! そんなに調べたいなら、死体になってから、血液サンプルを抜き取るんだな」
賢一たちは、科学者が激しく指揮官に抗議している話し声が響いてくる。
彼等は、こちらに向かってきて、その姿を証明で照らされた廊下で晒す。
「そんな事はさせないっ!」
「おい、俺は親中派の副大統領側だが、口の聞き方に気をつけろっ! 出ないとっ? 何が起きたっ!」
「集団脱走ですっ! 囚人たちが逃げ出しましたっ!!」
「現在、奴等が暴動を起こしていますっ!」
七三分けされた黒髪の白衣を着ているアジア人らしき、科学者は真剣な顔をしていた。
一方、赤いベレー帽を被る指揮官は、腰からコルト45を抜き取ると、引き金を引いた。
ように見えたが、それは何処からか響いた物であり、基地内に警報が鳴り響く。
フリッツ・ヘルメットを被る兵士が報告に来ると、続いて野戦帽を被る兵士が走ってきた。
「なにっ!? 凶悪な囚人ばかり何だぞっ! 絶対に連中を出すなっ!」
「はいっ! それから、基地内にゾンビも侵入していますっ!」
指揮官は、兵士たちを引き連れて、慌てながら何処かへと走りさっていった。
「君たち、聞いていたな? 私は甘・
「それは? 確かに俺たちは噛まれても、ゾンビ化していないな」
「中国の科学者だってのは、分かったけど、目的は何だってんだ?」
ガンと名乗る科学者は、檻に近寄ると、賢一とダニエル達に話しかけてきた。
「聞いていただろう? 私は、君たちを研究所にまで連れて行きたいんだっ! まずは脱走しないと成らないっ! この混乱に乗じて脱出するんだっ!」
そう言うと、ガンは踵を返し、兵士たちが向かった場所とは別方向に行こうとする。
「私は、鍵を盗んでくるっ! それまで、死ぬなよっ!」
「あ、待てよ、待てって…………」
「行ってしまったわ…………どうしましょう」
ガンが何処かへと向かって行くと、ダニエルとエリーゼ達は、困ってしまう。
「取り敢えず、彼が戻って来たら、この基地を制圧するわっ! 兵士も囚人も合わせて、殺すのよっ!」
「おい? 殺し合いか? マジで言ってんのかよっ! 勘弁してくれ、ギャング稼業はやらないって決めたんだ」
「そんな悠長な事は、言ってられないっ! 奴等が民間人の救助を優先しているとは思えないしっ! 一刻も早く外に出ないと」
「私のスマホも、没収されたけど、世界に真実を届けないと成らないわ」
野戦帽を被り直してから、モイラは鋭い目付きで、天井を睨みつける。
彼女の言葉を聞いて、ダニエルは武器を両手を前に出して、掌を振るう。
ジャンは、鉄格子を叩きつけ、兵士や囚人が来ないかと、廊下を見張る。
エリーゼは、壁の方を見て、抜け穴や亀裂が無いかと手で感触を確かめながら探る。
「はぁ…………なんだ、この映画みたいな展開は? しかし、あんな恐ろしい光景を見るとは」
「どうしたの? 体の具合が悪いの?」
賢一は、皆の様子を見ながら、自身が経験した戦いを思いだし、
そんな彼の様子を、メイスーは心配しながら、静かに近づいて、話しかけた。
「いや、初の実戦参加だったからな…………まさか、人間相手に銃を撃つんじゃなくて、ゾンビ相手に白兵戦に成るとは思わなかったしな? それより、メイスーだったか? そっちこそ、大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ」
「うん…………♡ いえ、体は大丈夫よっ! 体はね? むしろ、さっきより具合が良いぐらいだわ」
体の震えるを抑えるため、賢一は深々と空気を吸い込み、精神を落ち着かせようとする。
彼が、元気を取り戻した事と返事してくれたので、メイスーは顔を紅く染める。
「ちょっと、イチャイチャしてないでっ! 誰か来るわよっ!」
「やった、脱走は成功だっ! 軍の奴等、ゾンビの相手だけで、手一杯だからな」
「このまま外を目指すぞっ!」
モイラは何者かが、走ってくる足音を聞いて、壁に貼り付いて、身構える。
それから直ぐに、オレンジ色の囚人服を着ている二人組が現れた。
アジア系の囚人は、自動小銃M16A2を持ち、とにかく前に向かっていく。
南太平洋系の囚人も、自動小銃M4カービンを抱えながら進んでいく。
「囚人の脱走も酷いようだね? ここは混乱しているわ…………海兵隊が来てくれないかしら?」
「何が、どうなっているんだ? 外の様子が分からないぞ? 89式さえ有れば…………」
「うわーーーー!! 助けてくれーーーー!?」
「グアア」
「グルアアアア」
モイラは、鉄格子の合間から廊下を眺めていると、またもや足音が聞こえてくる。
賢一も、天井を睨みながら呟いていると、いきなり誰かの悲鳴が木霊した。
それは、兵士の声であり、フリッツ・ヘルメットを落としながら彼は、ひたすら走っていく。
もちろん、直ぐ後ろには、走る囚人と兵士のゾンビ達が、物凄い勢いで追いかけていた。
「ぐああっ! た、助けてくれぇーー!!」
「ガルルッ!」
「グアアッ!」
「なら、その銃で、錠前を撃つんだよっ!」
「そしたら、直ぐに助けてやるっ!」
兵士は、自動小銃M16A2から弾丸を、三発ずつ何回か撃って、囚人のゾンビを倒した。
しかし、兵士のゾンビには銃を抱えながら、噛みつこうとする奴を抑えるだけで、手一杯だ。
そんな彼に対して、モイラは鉄格子から大声で、取引を持ちかける。
賢一も、錠前を指差して、壊してくれるように頼むと、誤射を避けるため直ぐに離れた。
「グルアアアア」
「ガアッ!!」
「奥からもっ!?」
ゾンビは、目の前で叫ぶ奴だけでなく、廊下にも複数存在するらしく、唸り声が響く。
兵士は、それを耳にすると焦って、恐怖のあまり、冷や汗を顔に垂らす。
「早く開けるんだっ!」
「わ、分かった…………このっ!」
「グッ?」
「今だ、撃ってくれ」
「頼むわ」
賢一の声を聞いて、兵士は自動小銃M16A2で、ゾンビを殴って床に押し倒す。
それから、すぐさま錠前を狙い、三発の弾丸を当てて、鍵穴を破壊した。
ダニエルは、鉄格子を蹴破り外に飛び出て、エリーゼは後に続く。
二人は、立ち上がった敵を挟みうちにしようと、すばやく前後に回り込んだ。
「おいっ! 抑えているから、早く倒せっ! 頭を殴るんだっ!」
「このっ! このっ!」
「ウガア、ウガアッ! ガアッ!?」
「うわあ…………」
ゾンビの背後に回り込んで、ダニエルは羽交い締めにすると、エリーゼは頭を集中的に殴りまくる。
それを見ていた兵士は、腰を抜かしながら、銃を持って、後ろに下がっていく。
「ウラアアアア」
「ウガアアアアーー!!」
「ギャ~~~~」
「グルガーーーーー!!」
「うわああああっ!」
兵士や囚人のゾンビ達が、一斉に走って来る声が聞こえると、兵士は走って逃げていった。
「あっ! 待てっ! 奴等が来たぞっ! 銃がないのにっ! どうすれば良いんだっ!」
「武器が無いっ! だったら、素手でやるしかないわっ!」
「海兵隊員は、マーシャルアーツを学んでいるから銃がなくても平気よ」
「自衛隊員、それも水陸機動団員なら多少の心得はあるっ!」
「せめて、中華包丁さえ有れば何とかなるのに…………」
「贅沢は言ってられないっ! ゾンビ達を倒すしか道はないっ!!」
ダニエルは、逃げていった兵士を呼ぶが、すぐに前に向き直ると、ファイティングポーズを取る。
焦りまくる彼の隣では、エリーゼが向かってくるゾンビ達を睨んで、背を丸くする。
余裕の顔で、モイラは仁王立ちして、叫び声を放つ主たちを待ち構える。
その近くで、賢一は足技を放とうとして、暗闇から現れるであろう、敵に身構えた。
メイスーは、オドオドしながらも仲間たちの後ろに立ち、迫りくる動く死者たちに、目を向けた。
そんな彼女を守るように、みんなの前に立って、ジャンは廊下に響く足音に耳を傾けた。