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第3話 大群


 白人男性は、消防車から飛び降りると、ゾンビ達をどつき倒しながら、消化斧を取りに行く。


 車両に搭載してあった、それを握り閉めると、直ぐさま、敵に向き直った。



「いったい、何なんだ? 暴徒化した群衆が、民間人を襲っているのか?」


「グギャッ!?」


「そこのアンタ、消防士か? とにかく、こっちに来てくれないか?」


「今、ここを突破されたら、私たちは終わりなのよっ!」


 消防士の白人男性は、訳も分からず、消化斧を両手で振るい、ゾンビを薙ぎ倒す。


 賢一とモイラ達は、彼を自分たちの場所まで来るように呼びながら、後ろに後ずさる。



「グルアアーーーーーー!!」


「ガアアッ!」


 素早く走るゾンビ達が、消防車の上に飛び乗って、凄まじい咆哮を上げた。


 消防車の両脇からは、ノロノロと歩くゾンビ達が、こちらを獲物と捉えて歩いてくる。



「このやろうっ! と言うか、民間人は避難しているかっ!」


「ええ、もうだいぶ、遠くまで逃げていってるわっ! っと…………」


「これは、スクープだわっ! でも、写真を撮る暇は無さそうね?」


「スクープとか、どうでもいいぜっ! 今は、これが夢である事を祈るばかりだ」


「ああ、神様、仏様? どうか、悪夢なら夢から目覚めさせて下さい」


「悪夢だろうが、現実だろうがっ! 民間人の救出が最優先の課題だっ!」


 賢一は、ゾンビの頭を掴んで、特殊警棒で叩きながら、消防車まで蹴り飛ばす。


 モイラの方は、最初から回し蹴りを走るゾンビに食らわせて、自らに寄せ付けまいとする。



 険しい顔つきで、北欧系女性は、向かってきた女性ゾンビの顔を、サップで何度も殴打する。


 黒人男性は、髑髏指輪を填めた拳を振りまくり、ゾンビ達を纏めて、殴り倒していく。



 ぶつぶつと呟く、アジア系女性は、どんどん顔を蒼白くさせながら、中華包丁を振るっている。


 白人男性は、頭上に掲げた消化斧で、かなり腐っているゾンビを、真っ二つに引き裂いた。



「アンタらっ! 下がりな、もう持たないよっ!」


「俺たちも後退するっ!」


「ここは、放棄しましょうっ! ホテルまで下がるのよっ!」


「軍隊や警察は、まだ来ないのか? 仕方ない、逃げるしかないっ!」


 黒人女性や白人男性たちが、ゾンビと必死に戦っていたが、押され気味になったのを悟る。


 アラブ人女性やアジア系男性たちも、棍棒やナイフを振るっていたが、一人ずつ逃げだし始めた。



「俺たちも、引き下がろうっ! ぐあっ! 噛まれた」


「不味いわ、ぎゃっ!?」


「離しなさいっ! うっ! きゃああっ!」


「おいおい、マジかよっ! こんな数を相手に出きるかってのっ! うわあっ!」


「はあはあ、もう…………ダメ?」


「みんな、確りしろっ! おら、うらっ! うああああっ! うら…………」


 突然、津波のように押し寄せた、ゾンビ達に、賢一は左腕を噛まれてしまった。


 モイラは、彼を助けようと多用途銃剣を振るったが、その間に彼女も別なゾンビに襲われる。



 北欧系女性は、二人に纏まりつくゾンビ達を後ろから必死に叩いていたが、自身も群れに囲まれる。


 下がり出した黒人男性は、ゾンビの大集団を前に応戦していたが、数と勢いに負けて押し倒された。



 アジア系女性は、中華包丁を落としてしまい、また自身も崩れ落ちるように倒れた。


 最後まで戦っていた、白人男性も遂には、群れの中へと消えてしまった。



 そこに、いきなり何処からか、銃撃音が鳴り響き、動く死者たちを次々とほふっていく。



「さっさと、負傷者を収容するんだっ!」


「収容するだと? 危険じゃないのか?」


「それは、上が決める事だっ! 我々に決定権らない」


「止めだっ! うん、まだ息があるな?」


 ゾンビの群れは、ウッドランド迷彩服を着ている兵士達に、あっという間に倒されてしまった。


 フリッツヘルメットの兵士は、死体を蹴り、野戦帽を被る兵士は、辺りを見渡す。



 そこに、上官らしき赤ベレーの兵士が後ろから現れて、二人に指示を下す。


 M4カービンを、まだ動いていたゾンビに撃った兵士は、何人か負傷した人間を見つけた。



「担架を持ってこいっ! 急げ、拘束するのも忘れるなっ!」


「直ぐに運べっ! 基地まで連れ帰るんだっ!」


「このゾンビ患者たちを調べるんだっ!」


「うぅ? い…………」


 兵士は、科学防護服を着ている衛生兵たちを呼び、二人は担架を持ってくる。


 そして、賢一は意識を失う前に、彼等にベルトで手足を縛られて、何処かへと運ばれるのを見た。



 こうして、ゾンビ災害の最中、軍事基地まで、装甲車に載せられた負傷者たちは連れて行かれた。



「起きろ? おい、起きるんだっ! ジャパニーズ? いや、チャイニーズかな?」


「ソイツは、ジャパニーズだよっ! JSDFの迷彩服を着ているでしょう?」


「JFDS? 確か、ジャパンの軍隊よね? なんで、彼はここに…………? ジャーナリストとして、イラクやジブチで良く見たけど? そう言えば、この迷彩はジャパンのだわ」


「日本語では、ジエータイよ…………彼は、日本人なのねっ!?」


「彼も、災害救援部隊として、派遣されてきたのか?」


 地下牢らしき場所で、ベッドで寝ている賢一を起こそうと、体を揺さぶる黒人男性は騒ぐ。


 モイラは、野戦帽を頭から取りながら、顔を振るい、背中を壁に預けつつ呟く。



 北欧系女性は、彼の事を調べようと、ゆっくりと近づきながら顔を見下ろす。


 それを聞いて、アジア系女性は、反対側のベッドから、急に起き上がってしまった。



 救援部隊ならば、心強いと白人男性は考えながら、しゃがんで、背中を鉄格子に預ける。



「いいえ? 私と同じく、近海で夜間上陸訓練中の事故で、島に流れ着いたのよ? それに、良く分からないけど、本人はチャイニーズでもあるとか?」


「チャイニーズ? ハーフのジャパニーズなのか~~?」


「えっ? それって、私と同じじゃないっ!?」


「まだ、動かない方がいい…………静養してなきゃダメだっ! ああ~~君の名前は?」


 モイラは、賢一の事を話して、自分も救援部隊ではないと、無念そうな表情で語る。


 黒人男性は、それを聞いて、良くある隣国同士に生まれる混血児の事かと思った。



 アジア系女性は、ベッドから起き上がると、元気そうな顔で、目をキラキラさせる。


 そんな彼女を、白人男性は制止して、名前を聞いてなかった事を思い出した。



「私は? メイスー・タナカサン、母はシンガポール人で、父は日系パラオ人なの」


「そうか、俺はジャン・ルイーズ・シュミットだっ! 祖父がドイツ系の海外県在住フランス人だっ! 今はプロケトの消防士だがな」


 メイスーとジャン達は、互いに名前を名乗りながら握手を交わした。



「うう? 何とか、起き上がれたか? 他のみんなは? と言うか、俺の祖父は中華民国の人間だった…………中華系と先住民の混血…………それから、さらに日本人の祖母との混血だな? 尾野賢一、賢一呼んでくれ」


「話しを聞いていたのか? てか、複雑な家庭事情だな? 俺は、ダニエル、ダニエル・オリーズだっ! 暗号通貨で、一山当てたのさっ! ま、今は、この様だけどな」


「エリーゼ・ニエミよ? フィンランド系スウェーデン人なの? 現在は、パパラッチ兼フリージャーナリストをしているわ」


「私は、海兵隊員のモイラ・ワワ…………これで、全員紹介が終わったわね?」


 賢一は、ベッドから起き上がると、周りの人間たちに名前を名乗る。


 黒人男性も、自分をダニエルと言いながら、握手して、すぐにゲンナリとした顔になる。



 エリーゼは、みんなの方に振り向いてから、すぐに鉄格子に向き直り、周囲を観察している。


 モイラは、相変わらず、壁に背を預けたまま、深い溜め息を吐いていた。



「彼等は、貴重な血液サンプルを保有しているっ! つまり、きちんとした場所に送れば、ワクチンの製造が出きるんだ」


「ご忠告、有り難う? ドクター…………しかし、そこは政府軍の管轄下にあるっ! それから、彼等の拘束を解いたのは不味いんじゃないのか? 再び、ゾンビ化したら、どうするんだ?」


 賢一たちが、聞こえてきた声に耳を傾けると、どうやら指揮官と科学者たちが話している声が響く。


 彼等は、こちらに向かって、足早に歩いて着ており、何やら口喧嘩しているようだった。


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