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第2話 死者の群れによる襲撃で、ビーチは天国から地獄へ


 ライフセーバー達は、怒鳴りながら無線機の通信士と話している。



「今それどころじゃない? 反乱が起きた? 都市では、暴動が発生しているだあ~~?」


「だから、こっちには救助隊を寄越せないだとっ!!」


 アジア系ライフセーバーは、次々と訳の分からない情報を聞いて、混乱してしまう。


 白人ライフセーバーも、どうするんだと思って、両手を振るうしかない。



「はあ? 暴動を起こしているのは、ゾンビ? それに、テロリスト達が暴れている? おい、反乱軍はどうしたんだ?」


「反乱軍だと? それは不味い、本隊と合流しないと」


「英語を話せるのか? チャイニーズなのにっ!?」


 相変わらず怒鳴っている、アジア系ライフセーバーの声を聞いた、自衛隊員が起き上がる。


 それを見て、白人ライフセーバーは、彼が目を覚まして、しかも英語を話せる事に驚いた。



「悪いが、俺は…………チャイニーズの血が混ざった、日本のJSDF隊員だっ! 中国語は得意じゃない? 少し話せるには話せるが?」


「それより、生きてて良かった、これからは病院まで我々が、サンドバギーで送る」


「念のため、君には精密検査を受けて貰うとしよう」


 自衛隊員は、二人の前で、立ち上がりながらも、フラフラと歩きだす。


 アジア系ライフセーバーと白人ライフセーバー達は、彼を軽車両まで連れていこうとする。



「きゃああああ」


「だ、誰かっ! 化け物が出た~~!」


「グルアアーー!」


「ギャアアアア~~!?」


 その時、現地人女性と白人男性たちが、ビーチを勢いよく走ってきた。


 彼等の背後を見ると、怪しい二人組が、背中を追いかけている。



「いやああ~~」


「た、助けてくれっ!」


「はやく、くるんだっ! さあ、はやく」


「うわ、逃げろ、こっちだっ!」


 現地人女性と白人男性たちは、ゾンビから逃げるべく、ひたすら走っていく。


 アジア系と白人ライフセーバー達も、逃げながらも民間人の避難誘導をし始める。



「グルアアッ!」


「ゴアアアアーー!」


「マジかよ…………やるしかないか」


 自衛隊員は、ゾンビ二体を前にして、遭難した時に残った唯一の武器である特殊警棒を抜いた。


 これは、白兵戦を想定した訓練で使う予定だった物で、もちろん実戦でも使える。



「ガアガアッ!」


「ギャアッ!」


「うらあ、おらっ!!」


 痩せているゾンビを、狙って特殊警棒の殴打が放たれて、頭を叩き割る。


 次いで、太っているゾンビは、背負い投げで、砂地に投げ飛ばされた。



「ぎゃああああ~~~~グッ! グアッ!」


「グアアアア」


「誰か助けてくれえーー!」


「ウラアアアア…………」


 辺りを見ると、暴れまわるゾンビ達と、逃げ惑う人間の集団で入り乱れている。


 自衛隊員は、辺りを見ながら、次に自分に襲いかかってくる敵を探す。



 逃げていた黒人男性は、すでに噛まれていたのか、突然ゾンビに変異して、観光客を追って走る。


 白人女性のゾンビは、破れた衣服を風に靡かせながら、砂浜を駆けていく。



 太っているアジア人男性は、ひたすら町に向かって、必死で逃げている。


 それを追いかけながら、かなり腐敗した、ゾンビは猛烈な勢いで、砂を蹴りあげ続ける。



「ここは地獄かよ? 南国の島なら、美女と遊びまくりたいし、本来なら天国のはずだろっ!」


「グルアアーー!!」


「ガギャアアアア~~」


 自衛隊員は、ゾンビの右肩を特殊警棒で叩き、体制を崩した瞬間を狙って、頭に一撃を喰らわせる。


 しかし、彼の背後からも、水着を着ている白人女性ゾンビが近づいていた。



「しまっ!? うわああーー!!」


「ギャアア~~カハ?」


「よっ? と…………」


 自衛隊員の後ろから襲いかかってきた白人女性ゾンビは、背後から多用途銃剣に喉を貫かれた。


 それを行った謎の人物は、女性アメリカ海兵隊員であり、彼女は刃に付着した、血液を振り払う。



「助かった、アンタも訓練で溺れたのか? 俺は、尾野賢一オノ・ケンイチだっ! ケンイチと呼んでくれっ! と、危ないぜ」


「グエッ!!」


「私は、モイラ・ワワ…………どうやら、呑気に握手している暇は無いね?」


 ケンイチは、右側から襲ってきた、ゾンビの攻撃を避けつつ、特殊警棒で後頭部を叩きつける。


 モイラも、次から次へと走ってくる、ゾンビ集団に多用途銃剣を降り続ける。



「どうやら、もうここは持ちそうにない? モイラ、道路まで下がろうっ! 民間人も逃げられる奴は大方、逃げたみたいだし」


「そうだね? それに道路には、まだ生き延びた人々が、残っているようだわ」


 賢一は、ゾンビの大集団が走ってくる方向を見ながら、急いで反対側に走り出す。


 モイラも、その後を追って、ゾンビ達から離れるべく、勢いよく駆け出した。



「ウラアアア」


「オアア…………」


「うらっ!」


「このっ! くたばれ」


 ゾンビ達の群れに対して、観光客や地元民たちは、何人かが勇敢に戦っていた。


 白人男性は、棍棒を振り回し、黒人男性は、ビーチチェアを投げ飛ばす。


 賢一とモイラ達が、逃げている途中、彼等が奮闘する姿が目に入った。


 しかし、多勢に無勢なため、やがて戦闘を諦めた人間たちは、後方へと下がっていく。



「向こうで、誰かが戦っているっ! 助けないとっ!」


「行くよっ! こんな時に、銃剣しかないとはねっ!」


 賢一の目には、アジア人女性が道路で、ゾンビ相手に、中華包丁を振り回している姿が見えた。


 モイラも、素早く砂浜を走りながら、一刻も早く、民間人を助けようと走っていく。



「このっ! 来ないでっ! いやっ!」


「ガアアーー!!」


「ギュエ~~!!」


 中華包丁を振り回して、ゾンビを近づけまいと、アジア系女性は道路で、必死に戦っている。


 その度に、騒いでいるため、益々ゾンビ達は、彼女に注目して集まっていた。



「大丈夫ですかっ! 今、私たちも参戦するわっ!」


「グアッ! グへッ!」


「おいおい、逃げるんじゃないのか? たく、仕方ねぇ~~! 姉ちゃん、こっちに来るんだっ!」


「ウグゥゥ~~! カハッ!」


「た、助かりますっ!?」


 急に現れたはがりの北欧系女性は、サップと呼ばれる短い棍棒を振るい、ゾンビを叩きまくる。


 これは、円筒形の黒革砂を詰めて、固く絞って、棒状にした武器である。



 彼女に続いて、黒人男性は、灰髪のロングブレイズヘアを振り上げながら走ってきた。


 そして、彼は手指に装着した、幾つもの髑髏指輪で、ゾンビが血を吐くまで殴りまくる。



 二人の奮闘を見ながら、中華包丁を持っている、アジア系女性は、具合が悪そうな顔をする。



「うう、擦りむいたのかしら?」


 アジア系女性は、右手首に怪我を負ったらしく、それを見て、さらに顔色を青くさせる。



「大丈夫かっ! 俺達は軍人だっ! いや、正確には少し違うがなっ!」


「細かい事より、先に敵を倒しましょうっ!」


「あ…………ハイ♡」


「だなっ! ここで、踏ん張らないと、奴等が観光客を襲ってしまうっ!」


「他の人達も頑張っているわっ! 私たちも、今は敵を倒す事に集中しましょうっ!」


 賢一は、アジア系女性を助けるために、彼女を庇うようにして、ゾンビ達の前に立ち塞がる。


 一方、モイラは多用途銃剣を、敵に向けながら、何時でも突きを繰り出せるように群れを睨む。



 そんな中、同じアジア人である賢一の容姿に、アジア系女性は、一瞬で虜になってしまった。



 北欧系女性は、それを知る由もなく、正面から向かってくる大集団に、顔を険しくさせる。


 ファイティングポーズを取る黒人男性は、背中を丸めて、猛獣のように目付きを鋭くさせた。



「ここを通すなっ! まだ、民間人の避難誘導が終わってない」


「なら、やるしかないわっ!」


「グルゥゥ~~アアアア」


「ギャアア」


 警備員らしき男性が、警棒を握り、それを振るいまくって、ゾンビを近づけまいとする。


 観光客らしき、黒人女性は、思いっきりバッグを振り回して、敵の頭を殴りまくっている。



 賢一とモイラ達だけでなく、勇敢な人々はゾンビの大集団を前に、何とか奮戦していた。



 だが、ゾンビ達は小走りしながら、どんどん正面から尽きる事なく向かってくる。


 また、中には余り腐敗していないらしく、素早く走ってくるタイプのゾンビまで存在していた。



「不味い、囲まれつつあるっ! 早く、下がるんだっ!」


「だとしても、私たちは囮になるよ、民間人のためさっ!」


 ゾンビの大集団を前に、賢一は後ずさりしながら、特殊警棒を連中に向ける。


 モイラは、多用途銃剣を片手に、身を低くしながら、相手が近づいてくるのを待つ。



「おらあっ! 何だか分からないが、民間人は殺らせないっ!」


 そこに、白人男性が運転する消防車が突っ込んできて、ゾンビ達を次々と引き殺していった。


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