ライフセーバー達は、怒鳴りながら無線機の通信士と話している。
「今それどころじゃない? 反乱が起きた? 都市では、暴動が発生しているだあ~~?」
「だから、こっちには救助隊を寄越せないだとっ!!」
アジア系ライフセーバーは、次々と訳の分からない情報を聞いて、混乱してしまう。
白人ライフセーバーも、どうするんだと思って、両手を振るうしかない。
「はあ? 暴動を起こしているのは、ゾンビ? それに、テロリスト達が暴れている? おい、反乱軍はどうしたんだ?」
「反乱軍だと? それは不味い、本隊と合流しないと」
「英語を話せるのか? チャイニーズなのにっ!?」
相変わらず怒鳴っている、アジア系ライフセーバーの声を聞いた、自衛隊員が起き上がる。
それを見て、白人ライフセーバーは、彼が目を覚まして、しかも英語を話せる事に驚いた。
「悪いが、俺は…………チャイニーズの血が混ざった、日本のJSDF隊員だっ! 中国語は得意じゃない? 少し話せるには話せるが?」
「それより、生きてて良かった、これからは病院まで我々が、サンドバギーで送る」
「念のため、君には精密検査を受けて貰うとしよう」
自衛隊員は、二人の前で、立ち上がりながらも、フラフラと歩きだす。
アジア系ライフセーバーと白人ライフセーバー達は、彼を軽車両まで連れていこうとする。
「きゃああああ」
「だ、誰かっ! 化け物が出た~~!」
「グルアアーー!」
「ギャアアアア~~!?」
その時、現地人女性と白人男性たちが、ビーチを勢いよく走ってきた。
彼等の背後を見ると、怪しい二人組が、背中を追いかけている。
「いやああ~~」
「た、助けてくれっ!」
「はやく、くるんだっ! さあ、はやく」
「うわ、逃げろ、こっちだっ!」
現地人女性と白人男性たちは、ゾンビから逃げるべく、ひたすら走っていく。
アジア系と白人ライフセーバー達も、逃げながらも民間人の避難誘導をし始める。
「グルアアッ!」
「ゴアアアアーー!」
「マジかよ…………やるしかないか」
自衛隊員は、ゾンビ二体を前にして、遭難した時に残った唯一の武器である特殊警棒を抜いた。
これは、白兵戦を想定した訓練で使う予定だった物で、もちろん実戦でも使える。
「ガアガアッ!」
「ギャアッ!」
「うらあ、おらっ!!」
痩せているゾンビを、狙って特殊警棒の殴打が放たれて、頭を叩き割る。
次いで、太っているゾンビは、背負い投げで、砂地に投げ飛ばされた。
「ぎゃああああ~~~~グッ! グアッ!」
「グアアアア」
「誰か助けてくれえーー!」
「ウラアアアア…………」
辺りを見ると、暴れまわるゾンビ達と、逃げ惑う人間の集団で入り乱れている。
自衛隊員は、辺りを見ながら、次に自分に襲いかかってくる敵を探す。
逃げていた黒人男性は、すでに噛まれていたのか、突然ゾンビに変異して、観光客を追って走る。
白人女性のゾンビは、破れた衣服を風に靡かせながら、砂浜を駆けていく。
太っているアジア人男性は、ひたすら町に向かって、必死で逃げている。
それを追いかけながら、かなり腐敗した、ゾンビは猛烈な勢いで、砂を蹴りあげ続ける。
「ここは地獄かよ? 南国の島なら、美女と遊びまくりたいし、本来なら天国のはずだろっ!」
「グルアアーー!!」
「ガギャアアアア~~」
自衛隊員は、ゾンビの右肩を特殊警棒で叩き、体制を崩した瞬間を狙って、頭に一撃を喰らわせる。
しかし、彼の背後からも、水着を着ている白人女性ゾンビが近づいていた。
「しまっ!? うわああーー!!」
「ギャアア~~カハ?」
「よっ? と…………」
自衛隊員の後ろから襲いかかってきた白人女性ゾンビは、背後から多用途銃剣に喉を貫かれた。
それを行った謎の人物は、女性アメリカ海兵隊員であり、彼女は刃に付着した、血液を振り払う。
「助かった、アンタも訓練で溺れたのか? 俺は、
「グエッ!!」
「私は、モイラ・ワワ…………どうやら、呑気に握手している暇は無いね?」
ケンイチは、右側から襲ってきた、ゾンビの攻撃を避けつつ、特殊警棒で後頭部を叩きつける。
モイラも、次から次へと走ってくる、ゾンビ集団に多用途銃剣を降り続ける。
「どうやら、もうここは持ちそうにない? モイラ、道路まで下がろうっ! 民間人も逃げられる奴は大方、逃げたみたいだし」
「そうだね? それに道路には、まだ生き延びた人々が、残っているようだわ」
賢一は、ゾンビの大集団が走ってくる方向を見ながら、急いで反対側に走り出す。
モイラも、その後を追って、ゾンビ達から離れるべく、勢いよく駆け出した。
「ウラアアア」
「オアア…………」
「うらっ!」
「このっ! くたばれ」
ゾンビ達の群れに対して、観光客や地元民たちは、何人かが勇敢に戦っていた。
白人男性は、棍棒を振り回し、黒人男性は、ビーチチェアを投げ飛ばす。
賢一とモイラ達が、逃げている途中、彼等が奮闘する姿が目に入った。
しかし、多勢に無勢なため、やがて戦闘を諦めた人間たちは、後方へと下がっていく。
「向こうで、誰かが戦っているっ! 助けないとっ!」
「行くよっ! こんな時に、銃剣しかないとはねっ!」
賢一の目には、アジア人女性が道路で、ゾンビ相手に、中華包丁を振り回している姿が見えた。
モイラも、素早く砂浜を走りながら、一刻も早く、民間人を助けようと走っていく。
「このっ! 来ないでっ! いやっ!」
「ガアアーー!!」
「ギュエ~~!!」
中華包丁を振り回して、ゾンビを近づけまいと、アジア系女性は道路で、必死に戦っている。
その度に、騒いでいるため、益々ゾンビ達は、彼女に注目して集まっていた。
「大丈夫ですかっ! 今、私たちも参戦するわっ!」
「グアッ! グへッ!」
「おいおい、逃げるんじゃないのか? たく、仕方ねぇ~~! 姉ちゃん、こっちに来るんだっ!」
「ウグゥゥ~~! カハッ!」
「た、助かりますっ!?」
急に現れたはがりの北欧系女性は、サップと呼ばれる短い棍棒を振るい、ゾンビを叩きまくる。
これは、円筒形の黒革砂を詰めて、固く絞って、棒状にした武器である。
彼女に続いて、黒人男性は、灰髪のロングブレイズヘアを振り上げながら走ってきた。
そして、彼は手指に装着した、幾つもの髑髏指輪で、ゾンビが血を吐くまで殴りまくる。
二人の奮闘を見ながら、中華包丁を持っている、アジア系女性は、具合が悪そうな顔をする。
「うう、擦りむいたのかしら?」
アジア系女性は、右手首に怪我を負ったらしく、それを見て、さらに顔色を青くさせる。
「大丈夫かっ! 俺達は軍人だっ! いや、正確には少し違うがなっ!」
「細かい事より、先に敵を倒しましょうっ!」
「あ…………ハイ♡」
「だなっ! ここで、踏ん張らないと、奴等が観光客を襲ってしまうっ!」
「他の人達も頑張っているわっ! 私たちも、今は敵を倒す事に集中しましょうっ!」
賢一は、アジア系女性を助けるために、彼女を庇うようにして、ゾンビ達の前に立ち塞がる。
一方、モイラは多用途銃剣を、敵に向けながら、何時でも突きを繰り出せるように群れを睨む。
そんな中、同じアジア人である賢一の容姿に、アジア系女性は、一瞬で虜になってしまった。
北欧系女性は、それを知る由もなく、正面から向かってくる大集団に、顔を険しくさせる。
ファイティングポーズを取る黒人男性は、背中を丸めて、猛獣のように目付きを鋭くさせた。
「ここを通すなっ! まだ、民間人の避難誘導が終わってない」
「なら、やるしかないわっ!」
「グルゥゥ~~アアアア」
「ギャアア」
警備員らしき男性が、警棒を握り、それを振るいまくって、ゾンビを近づけまいとする。
観光客らしき、黒人女性は、思いっきりバッグを振り回して、敵の頭を殴りまくっている。
賢一とモイラ達だけでなく、勇敢な人々はゾンビの大集団を前に、何とか奮戦していた。
だが、ゾンビ達は小走りしながら、どんどん正面から尽きる事なく向かってくる。
また、中には余り腐敗していないらしく、素早く走ってくるタイプのゾンビまで存在していた。
「不味い、囲まれつつあるっ! 早く、下がるんだっ!」
「だとしても、私たちは囮になるよ、民間人のためさっ!」
ゾンビの大集団を前に、賢一は後ずさりしながら、特殊警棒を連中に向ける。
モイラは、多用途銃剣を片手に、身を低くしながら、相手が近づいてくるのを待つ。
「おらあっ! 何だか分からないが、民間人は殺らせないっ!」
そこに、白人男性が運転する消防車が突っ込んできて、ゾンビ達を次々と引き殺していった。