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答え合わせ12「お師匠様 (1/5)」

 ……戦場に、静けさが戻る。

 つんざくような射撃音は無くなり、軍人たちの姿もない。


「や、やった!! これで――…」






「何が、『やった』なんだい?」






 目の前に、アリス・アインスが立っていた。

 アリス・アインスはその手に持つ拳銃を僕に向け、


 タァーンッ!


「ぎゃあッ!」


 右の太ももが、焼けるように熱い!


「戦いは、これからが本番だって言うのに」


 また、目の前の景色が変わる。


「クリス君!?」


 ノティアの声が聞こえる……レヴィアタン様が【瞬間移動テレポート】で助けてくれた……?


「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】! あぁ……弾丸が入り込んでいる! 【視覚共有シンクロナイズド・アイ】! クリス君、弾丸を【収納】するのよ、頑張って!」


「はぁッ、はぁッ……【収納アイテム空間・ボックス】ッ!!」


「【大治癒エクストラ・ヒール】ッ!!」


 急速に痛みが引いていく。


「――相変わらず弱虫だねぇ、お前さんは!」


 アリス・アインスが敵陣から悠然と歩いてくる。

 前衛組が一斉に斬りかかるけれど、アリス・アインスにはまるで効かず、拳銃による逆襲を受けてしまう。


「取って置きを見せてやろう――【星降りメテオ】ッ!!」


 アリス・アインスが両手を振り上げた。

 途端、空の一点が真っ赤に燃え上がる!


「あぁ……あぁぁ……」


 燃え盛る星が、雲を割って落ちて来た。

 星はぐんぐんと大きくなる。ここ目がけて降ってくる!


「【収納】だ! 早く!」


 ベルゼビュート様の声で我に返り、無我夢中で魔力を振り絞る。

 星に向かって両腕を掲げ、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」


 ――――果たして、星は姿を消した。

 頬は星が発していた熱の余韻を感じている。

 急に丹田が軋むような痛みを発し、


「がふッ……」


 吐血、した。

 全身が震える。


「あっははは!」


 金髪の魔女が嗤った。


「ほらほら、どうしたバカ弟子!? この通り、儂を殺さない限り、儂は止まらない! 儂を止めなければ、血みどろの戦争へ一直線さね!」






 …………こいつを殺さなければ、戦争になる。






 こいつは、敵。僕の敵だ。

 敵を……アリス・アインスを……殺す。

 その覚悟を、決めた。


「【首狩りぃ――」


 右手の平にありったけの魔力を乗せ、


「――収納アイテム空間・ボックス】ッ!!」


 ――――バチンッ!!


 アリス・アインスの首が輝く――抵抗レジストされた!

 まだだ!

 こいつは確か、『体表は【自動オート・魔法マジカル防護結界・バリア】が掛かっている』と言った。

 だったら頭部の内側をくり抜くまでだ!


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」


 ――――バチンッ!!


 やはり、抵抗レジストされる。


「あははっ! 内側からとは考えたねぇ! だけど残念。儂の体は全身がオリハルコン入りの特製超合金――それも、マスターたる魔法神アリスが直々に魔力を込めて強度を高めた一本さね。恐らく世界で最も固い物質だ。ただ、儂の体の中で唯一【収納】可能とすれば」


 トントン、と臍の下――丹田をついて見せ、


「ここ。ここにある、儂のコアたる魔石くらいだね。とは言え、未だ神級にも至っていないお前さんの【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】で、神の創造物たる儂の魔石を【収納】できるかな?」


 言って、アリス・アインスが銃口をこちらに向ける。


「させるかよッ!!」


 フェンリスさんの強烈なシールドバッシュ!!

 小柄なアリス・アインスの体が跳ね飛ばされる――が、すぐに飛び起きて、まるでダメージはなさそうだ。

 そんなアリス・アインスを取り囲みながら、前衛組が攻撃を加えていく。


「あははっ! 効かない言っているだろう! ――【竜巻トルネード】!!」


 アリス・アインスを中心に発せられる強風で、前衛組が吹き飛ばされる。


「ノティア!」


「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】! 【視覚共有シンクロナイズド・アイ】!」


 僕の求めにノティアが即座に応じる。

 目を閉じれば、ノティアの視界の中で、アリス・アインスの丹田――魔石が光り輝いている。


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」


 ――――バチンッ!!


 これでもダメか!!

 どうすれば……どうすればッ!!

 アリス・アインスは、『未だ神級にも至っていないお前さんの【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】で』と言った。

 敵の言うことだ。信じるに値するかどうかは分からない――…けれど!


 もし仮に、僕の【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】のスキルレベルが9――神級――に至れたとしたら?






 ――――たったひとつ、未だに謎なままのことがある。

 アリス・アインスが僕に【収納】させたがっていた『悲願』が、何なのか、ということだ。






「皆さんッ! 時間を稼いで下さい!!」


「何か策があるのかい?」


 僕の叫びに、ベルゼビュート様が即座に反応してくれる。

 話している間にも、前衛組はアリス・アインスの歩みを止めるべく波状攻撃を仕掛けている。


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】のスキルレベルを、いま、この場で、9にまで――神級にまで、上げます!」



   ■ ◆ ■ ◆



「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】――」


 戦場はアリス・アインスの【大嵐テンペスト】による暴風雨が吹き荒れ、時折、まともに触れれば手足が吹き飛びかねない強烈な風の刃がアリス・アインスから放たれる。

 それを前衛組が死力を結して押し留め、バルベラさんが前衛組の傷を癒している。


 僕は少し離れた場所から、アリス・アインスの体――あいつの言うことが本当ならば、世界で最も固い物質――の【収納】を試み続けている。

 何度やっても抵抗レジストされる。

 その都度、ごっそりと魔力を失い、丹田が傷つく余り僕は吐血し、ベルゼビュート様とノティアに【魔力譲渡マナ・トランスファー】と【エクストラ治癒・ヒール】を掛けてもらう。

 でも、これでいいんだ。

 スキルは負荷をかければかけるほど成長する。

 いまの僕の、スキルレベル8の【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】をもってしても【収納】できないアリス・アインスを【収納】し続けようと試みることで、僕のスキルは空前の負荷を受け続ける――スキルが成長する。


 …………どのくらい、そうしていただろうか。

 そのときは、来た。


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】――あぐっ!!」


 頭を内側から殴りつけられたみたいな猛烈な痛みとともに、目の前が真っ暗になった。

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