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レッスン47「盗賊 (2/3)」

「い、いやぁああッ!!」


「おらっ、逃げんじゃねぇ! 殺されてぇか!」


 洞窟の奥から、幼い少女と、短剣を手にした薄汚れた男の姿。


「【風の精霊よ・美しきシルフィードよ】」


 クロエが詠唱を始め、


「――――ふッ」


 エンゾが、大きな声を上げることもなく、鋭い吐息とともに盗賊へシールド突進・バッシュ


「【いまだけはその囁きを・鎮め給え――】」


「がっ! だ――…」


「【消音サイレント】ッ!!」


『誰か』と助けを呼ぼうとしたその声は、音を打ち消す魔法に覆い隠される。


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】ッ!!」


 僕は無我夢中で盗賊の短剣を【収納】する。

 続いてエンゾとドナが、盾を振り上げ振り下ろし、何度も何度も盗賊を叩く。盗賊が地に伏してもなお叩き、


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


「た、倒した……? オレらが、盗賊を……?」


 死んでこそいない様子だが、ぴくりとも動かなくなった盗賊を見て、エンゾとドナがつぶやく。


「やった……やったぞ! オレたちでも盗賊を倒せた! これでオレたちもCランク候補だ!!」


 歓喜するエンゾとドナの後ろで、僕は虚空から取り出した毛布を少女の方にかける。

 少女の肩がびくりと震え、それから、オーガ悪魔デーモンでも見るような目で僕を見て、その目がみるみるうちに理性を取り戻してきて、


「助けてください!!」


 少女が、僕にすがりついて来た。


「お、おと、お父さんと、お母さんがッ!!」


 僕の、僕の所為で――――ッ!!


 頭の中がぐちゃぐちゃになって、僕は洞窟の奥へ向かって走り出す。


「こら、クリス! ――この馬鹿たれ!!」


 背後で、お師匠様の毒づく声。


「【念話テレパシー】ッ! ――【思考加速オーバークロック・4倍スクエア】ッ!」


 急に、自分の動きが遅くなる。

 この感覚は知っている。お師匠様による、思考速度が4倍に向上する支援魔法だ。

 さんざん訓練を重ねた感覚だ。今更転んだりなんてしない。

 遠く洞窟の奥の方から、薄汚れた複数の笑い声が聞こえてくる。

 僕は洞窟の奥、声と明かりのある方へ向かい、部屋らしきところへ駆け込み、






 そして、見た。






 ひとりの女性を犯しながら、その首を絞める男と、その様子を笑って見ている男たち。

 部屋の片隅に転がる、ぴくりとも動かない――生きている男たちとは違い、身なりの良い――男性。

 行商人、死んで――――……






 僕の、所為せいだ……――――ッ!!






 僕が調子に乗って街道なんて敷いたから、交易所が出来上がってしまった。

 その為に、護衛をつける余裕もない人が、一攫千金を夢見てこの交易路に参加するようになった。

 そして、盗賊団の餌食になった。


 僕が余計なことをしなければ、少なくともこの一家は、こんな目に遭わずに済んだ。


 ゆっくりと流れていく時間の中で、男たちがこちらに気づいた。

 声は引き伸ばされてよく聞こえないけれど、みな一様に、糞下らない罵倒を口にしたり、武器を手に取って威嚇して見せたりしている。


 ――――――――【収納】しなきゃ、と思った。


 こんな、人を不幸にしかすることのできない汚物は、さっさと【収納】してしまわないといけない、と思った。


 僕は盗賊たちに――――……その首に意識を差し向け、






「【収納アイテム――…空間・ボックス】ッ!!」






 盗賊たちの首から先が、消滅した。

 へその下――魔力を司る丹田が、鋭い痛みを発する。

 魔力の限界を迎え、僕はその場で気絶した。

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