「まったく……人の書斎に無理やり押し入るとは、魔力の少ない人はやはり野蛮ですな」
書斎で椅子にふんぞり返り、開き直った様子のビジューさん。
「貴様っ、領主たる儂からの召喚状を無視しおってからに、何をぬけぬけと!」
激昂する領主さん。
何やら修羅場ってるご様子。
「で? 何か御用ですかな、私よりも魔力の少ない領主サマ?」
「なっ……うぐぐ、貴様が無作為に売り捌く金銀財宝の
「は? 私が貴方にお伺いを立てる必要があるのですか? 魔力100万を超える私が、たかだか10万程度の、あなたに?」
……いやまぁ10万でも十分に、『魔法を極めた魔族やハイエルフ』レベルで、人族基準じゃ賢者様の十倍のMPだからね!?
なんというか、魔力のインフレ具合がドラゴンボ○ルみを感じるよ……かくいうMP10億の私が一番のインフレキャラだけどさ。
「だいたい、表にあったような巨大なダイヤモンドなぞ、どこから掘り当てたというのじゃ!?」
「教える義理はありませんな」
「いーや、ある。領内で新たな鉱山を発見した場合、この儂に届け出る義務が領民にはある! これは魔王国における決まりであって儂が決めたことではない。貴様、魔王様に歯向かう意思がないならば、速やかにこの【取引契約】書にサインし、新たな鉱山の場所を吐け」
「ぐっ……」
苦しそうな表情のビジューさん。なるほど、魔力の低い領主の命令は受けなくても許されても、魔力の高い魔王の命令は聞かなきゃならないってことか。
果たしてビジューさんは【取引契約】書にサインし、
「鉱山を見つけたわけではない」
「ほう? ならば他領からの輸入履歴を調べるとしよう」
言って領主様は【瞬間移動】で姿を消した。
「アリソン! 他の3人を連れて書斎に来い! 大至急だ!」
「は、はい!」
◇ ◆ ◇ ◆
「これから数日の間、君たちにはひたすら金銀財宝の生成を行ってもらいたい」
書斎にて、ビジューさんが私たちにマジックバッグ――袋に【アイテムボックス】が【
「家の世話も店の番もしなくて良い。魔力ポーションならここに10樽置いてある。食事もここに運ばせる」
「「「「ははっ」」」」
言われるがまま、ひたすら金銀財宝の塊を作ってはマジックバッグへ放り込む。
「くそっ、こんなに早く嗅ぎつけてくるとは!」
ビジューさんはと言えば、焦った様子で何やら書類仕事している。
その日は夜中までずっと金銀財宝を生成し続けた。
ご飯はちゃんと出してもらえたし、夜中になって『そろそろ休ませてください』と言ったら、お風呂と睡眠を許してもらえた。
◇ ◆ ◇ ◆
翌日も朝から書斎で金銀財宝大放出! していると――
「なるほど、な」
領主様が書斎に【瞬間移動】で現れた!
「新しい鉱山でもなく輸入でもないというわけか」
「お前たち! いいから生成を続けろ!!」
顔色を変えたビジューさんからの命令。
「「「「は、はい!」」」」
「宝石を生成できるレベルの魔法使いなど何人もいない」
領主様が壮絶な笑顔で私を見る。
「少なくとも数日前までは、この領にはいなかった――アリソン君、君がこの街に現れるまでは」
あー……見破られてるな。
「ところでアリソン君、君は奴隷身分に甘んじていても良いのかね?」
「どういうことでしょうか?」
金銀財宝生成は続けつつも、答える。
「アリソン! 耳を貸すな!」
ビジューさんが必死に遮ろうとする。
「奴隷は主人と購入元の奴隷商に『魔法決闘』で勝利すれば、奴隷の身分から解放されるのだ。自由の身に、なりたくはないかな?」
「えっそうなんですか!?」
もちろん知っていた。アデスさんから受講済みだよ。
でも『ずっと山奥で暮らしてた常識を知らない15歳』を演じる上では、知らないことにしておくしかなかった。
「なりたいです、自由の身に!」
「やめろ、アリソン!」
必死に抵抗するビジューさんへ、
「ご主人様、私と決闘――」
突如猛烈な吐き気に襲われる!
「うぉぇぇぇええええええええええええ!!」
◇ ◆ ◇ ◆
目を開くと書斎のソファーに寝かされていた。
「……気がついたか」
ビジューさんが疲れた顔をしている。
部屋に領主様はおらず、デボラさん、サロメさん、クロエちゃんは相変わらず金銀財宝生成を続けている。
「謝るよ。決闘のことを隠していたことと、【隷属契約】に本来入れるべき、『奴隷からの決闘申し込みの自由』という項目を意図的に抜いていたことを」
なんと、ビジューさんが頭を下げてきた!
先ほどビジューさんが私を制止しようとしたのは、決闘を申し込まれたくなかったからなのか、それとも私が決闘を申し込もうとすると、【隷属契約】違反で苦痛に苛まれると知っていたからなのか。
「その上でお願いなんだが、私のことを見逃してもらえないか? もうすぐ領主が決闘のことを盛り込んだ新しい【隷属契約】書を持ってくる。どうせ私はアリソンに敵わないだろうし、デボラ、サロメ、クロエ相手でもそうだろう。領主が来るまでは宝石の生成を続けてもらい、領主が来た時点でお前たちを奴隷から解放する。金は――自由に出せるから要らないか? くれというなら用意するが」
「それでいいですよ」
ざまぁ展開はまだですかって? お腹蹴られたこととか、デボラさん、サロメさん、クロエちゃんが弄ばれたことへの仕返しはしないのかって?
いやまぁ……私を殺してくれた元辺境伯を許してしまった時に、さらに言うならフェッテン様を2度も殺してくれたアデスさんを味方に引き入れた時に、そういう感情はすっかり薄くなっちゃったんだよね。まぁ、一応謝ってはくれたし。孫悟○だってベジ○タ許したじゃん?
「…………すまんな」
ほどなくして、領主様が新しい【隷属契約】書を持って現れた。
こうして私は自由の身分と、3人の配下を手に入れた。