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107(2,998歳)「養殖の成果のお披露目、からのぉ領主様襲来!」

「なぜ朝食が未だに――」


 翌朝、食堂で文句を言おうとしたビジューさんの目の前に【瞬間移動】で現れるデボラさん、サロメさん、クロエちゃん。一緒に現れたカートからほっかほかの料理が【テレキネシス】ですいーっとテーブルに運ばれる。


「「「「な、ななな……」」」」


『ななな』るビジューさん一家。


「こ、このパン、冷えているではないか!」


 ビジューさんがパンに難癖をつけると、


「【物理防護結界】、【ホットウィンド】」


 デボラさんがあっという間に温める。


「熱っ! このスープ、熱すぎるわ! 何を考えて――」


「【物理防護結界】からのぉ【クールウィンド】!」


 奥さんの難癖を、サロメさんの魔法が遮る。


「ゴミのクセに生意気よ!」


 ひっどい理由で娘さんがサロメさんにお茶をぶっかけようとして、


「【アイテムボックス】!」


 クロエちゃんがそれを収納し、


「【アイテムボックス】!」


 再びコップの中へ注ぎ入れる。


「な、な、何がどうなっておる!? たった一晩で、なぜこいつらがこんなにも精巧な魔法を使えるようになっておるのだ!」


「いやぁすみません、お三方があまりに可哀想だったので、【従魔テイム】して、私の秘術で鍛えちゃいました」


「「【従魔テイム】ぅ!?」」


 ビジューさんと奥さんがビビる。お子さんらはよく分かっていない模様。


「そ、そんな、我々魔族はすべからく魔王様の従魔であるはず――」


「あ、そうなんですか? でも普通に【従魔テイム】できちゃったんですけど。クロエちゃん、【鑑定】させてもらってもいい?」


「イエス・マイ・マスター」


「【鑑定】! からのぉステータス・ウィンドウ表示! はいどうぞ。あ、ゴメンねクロエちゃん。【リラクゼーション】」


「魔力10万んん!? はっ、それよりも……どうして【契約】欄が表示されているのだ?」


「私、【鑑定】レベル9持ちなので」


「「神級!?」」


「ほ、本当に『アリソンの従魔』となっておる……」


 ちなみに本当の表記は『アリス・フォン・ロンダキルアの従魔』。この表記は『欺瞞』した結果だ。


「いやしかし、魔王様の【従魔テイム】を上書きするなど前代未聞……」


「へぇ~……じゃあ案外、私の方が魔王様より魔力が多いのかもしれませんね!」


「「なっ――」」


 さーっと顔が青くなるビジューさんと奥さん。


「いいか、アリソン。命を賭ける覚悟がないならば、2度とそのようなことは言わないことだ。逆に、本気で王位簒奪を考えているのならば、魔王様に挑む機会を得る方法もなくはない」


「へぇ!!」


 ほんっとーに魔力至上主義なのね!


「だが私は有能な奴隷である君を失いたくはないし、自ら危険に飛び込む気もない。だから今後、他人を【従魔テイム】することを禁じる。【従魔テイム】できることを他言するのもだ。これは【隷属契約】の守秘義務にもとづく命令だ! 分かったか!」


「ははっ」


「お前らもだ!」


「「「ははっ」」」


「ところでご主人様」


「……なんだ、まだ何かあるのか?」


「ちょっと見てもらいたいものが。みんな、お願い」


 お三方が一礼し、


「「「【ダイヤモンド・ボール】からのぉブリリアントカット・バイ・【アイテムボックス】!」」」


 デボラさん、サロメさん、クロエちゃんがそれぞれ一抱えほどもある超ド級ダイヤモンドを生成した光景を見て。

 ビジューさんと奥さんは気絶した。


 子供たちはというと、幼い息子さんはでっかい宝石を見て『きれーきれー』と大喜びで、もう少し大きな娘さんの方は、『こいつらがいれば私の人生安泰だわ』的な、ちょっと打算の入った笑みを浮かべていた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 そんな感じで2日が過ぎた。

 魔王国に潜入してちょうど1週間。あと3週間のうちに何らかの成果を出すか、もしくは夜抜け出して【流星メテオ】の対処をしなければならない。


 ビジューさんの宝石店は大繁盛!!

 王国一のサイズを誇るブリリアントカット・ダイヤモンドを一目見ようと、王国中から貴族たちが押し寄せているらしい。


 アデスさん常識講座によると、『電波』や『テレビ』は存在しないものの、『新聞』や『雑誌』は存在していて、【瞬間移動】持ちが結構多いから『口コミ』速度も半端ないらしい。


「ほぉぉおお~……これが!!」


 今も、いかにも良い生地使ってる感じのスーツ姿の方――どこぞのお貴族様――が、私が作った高さ1メートルのブリリアントカット・ダイヤモンドを見つめ、感嘆の吐息を漏らしている。

 ビジューさんに頼まれて店内をがばっと改装し、店の外から見えるショールームに1メートルのダイヤをででんと飾ったんだよね。


「宝石商ビジューはおるか!」


 おん? なんか良い服着たおじさんが【瞬間移動】で現れ、店の中にズンズン入ってきた。


「お客様、この先は関係者以外立ち入り禁止で――」


 奴隷兼従業員の職務として、おじさんを止めようとするが、


「奴隷風情が邪魔をするな!」


 払いのけられそうになり、思わずその手を掴んでしまった。


「なっ――貴様、女のクセにいったいどんな怪力……」


「あっとっとっすみません!」


 慌てて手を放し、


「ご主人様にお取次ぎしますので。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「儂はここの領主じゃ!」


 マ!?



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ここにはおらん、終日不在だと答えろ!」


「えぇぇ……相手、領主ですよ? あとで私、切り捨てられたりしませんよね?」


「無論だ。アリソン、君は私の大事な大事な奴隷だ。そんなことはせん」


 大事の二重がけ! ビジューさんからの愛が重い。

 まぁ一晩で3人の金銀財宝製造機を量産しつつ、本人も金銀財宝製造機なんだ。『金の卵を産むガチョウ』どころの話じゃないわな。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「本日は終日不在でございまして……」


「【フルエリア・探査】! フン、この屋敷では、平時から【魔法防護結界】を張っている部屋があるのか?」


 おぉぉ……これが魔族の日常なのか!

 ズンズンと進んでいく領主様を無理やり拘束することもできず、


「そ、それは……ご主人様の書斎は企業秘密もたくさんございますので」


「先ほど【探査】した時は張られてなかったのだがな」


「Oh……」


 ビジューさん、ごめーん。


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