作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。
デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
見渡す限り白一色の不思議空間で、目の前に座る翼つき超絶美少女――全能神ゼニス様と仰るそうだ――の口から「残念ながら、あなたは死にました」とテンプレなセリフを聞いた時には呆然としたもんだけど、5秒で切り替えたね。
だって異世界転生だよ!? 面白そうじゃん!!
「それで――私には使命みたいなものはあるんでしょうか?」
「あるんですねぇ、それが。それも、結構ヘビーなヤツが……ご苦労をおかけしますが、第二の人生の対価と思って、どうか頑張ってください。
あなたの使命は――魔王討伐です」
「ほぅ……すると職業は」
「勇者、ですねぇ。正確には【勇者】という称号であって、職業は教会で変更できます。農民とか、商人とか、戦士とか、姫騎士とか」
「姫騎士!!」
めっちゃオークに弱そう。
◇ ◆ ◇ ◆
「あなたには前世の記憶を継いだまま、1歳――地球で言うところの0歳――から生まれ直して頂きます。人族最後の国家であるアフレガルド王国で生まれ、10歳の洗礼で【勇者】と判明、12歳の時に先代勇者が魔王を封印してからちょうど100年となり、封印の効果がなくなって魔王復活。あとは流れで……というより、不確定要素が多すぎて予測できません」
「おぉぉ……女勇者とは……女神様、いける口ですね!」
ドラ○エ3スーフ○ミ版では主人公の性格を『セクシーギャル』にしたものだよ。能力補正が超優秀なんだよね。
「話が早いというかなんというか……まぁ、そういうあなただから選んだんですけれどね」
女神様が苦笑する。めっちゃ可愛い。天使みたい――いや女神だったわ。
「では先に、気になっているであろう【勇者】の固有能力の説明から参りましょうか」
「いえその前に!」
「はい?」
「その世界、ゲームはありますか!? テレビ、コンピュータ、スマホのゲーム!」
「あ、あるわけないじゃないですか。あなた方が言うところの『中世ヨーロッパ風世界』ですよ? テレビゲームどころか、まともな娯楽なんて処刑か剣闘くらいしかありません」
なんという野性味の強いファンタジー世界!
「じゃあ作ってもいいですか!?」
せっかくゲームプログラマーが転生するんだ。コンテンツ過多な前世の弱小孫請けソフトハウスではついぞ味わえなかった、娯楽無双ってやつをやってみたい!
たとえテレビゲームが無理だとしてもTRPGやらカードゲーム、ボードゲームならいけるだろう!
他人のふんどしで相撲取って楽しいかって? 楽しいにきまってんじゃん! 異世界には東京特許許可局もJASR○Cもいないんだから……い、いないよね?
「作れるわけが――あぁ、でも
むぉっ!? 女神さまが今、なんかへんなこと言ったぞ?
「いいでしょう。作れそうならお好きにどうぞ」
「じゃあじゃあ、テレビゲームは無理にしても、地球の面白い娯楽をいっぱいいっぱい流行らせて、魔王国を骨抜きにして『文化的勝利!』とかは!?」
「それは難しいと思いますが……話を進めましょう。勇者の固有能力は次の5つ」
・【無制限瞬間移動】魔法……使い手が希少な瞬間移動魔法の距離・同行者無制限版。距離制限つきの使い手なら人族にも数百人くらいはいるらしい。
「まるでドラ○エみたいだぁ」
・【極大落雷】魔法……四大属性の地水火風に属さない習得困難な雷魔法の最上位。その効果範囲は森や街、軍勢を丸々包み込む。
「マップ兵器……パーティーみんなの力を合わせる系のやつですか? あ、ひとりで唱えられるやつですか」
・【無制
「ドラ○エ6で初出したやつ! それまではわざわざ預かり所行ったり来たりしてチョー面倒だったんだよねぇ」
・【おもいだす】……過去の出来事や書物の内容等を記憶し、自由に思い出すスキル。
「これも初出は6だっけ。書物まで記憶できるって、フォトリーディングか! 生前に持ってたら、東大だろうが司法試験だろうが一発合格じゃん!
――えっ!? 生前の記憶も思い出せるんですか!? ぃやっふぅ! 執筆のために集めた現代知識で無双してやるぜっ!!」
・【ふっかつのじゅもん】……死亡またはロード魔法を使用した時に、ステータスとアイテムボックスの中身を引き継いだままセーブポイントへ戻れるという究極のチートスキル。
「リゼ○? 時をかける喪女? ……い、いやいやいや! ステータスとアイテムを引き継いでって――つ、つつつ、強くてニューゲーム!!!!!!」
「しかも、未クリアでも……つまり生まれた瞬間から使えますよ」
にやり、と微笑む女神様。
そこから一転、残念そうな表情になって、
「ですが、残念ながらセーブ枠は1つしかないのです。魔法神を除く神々のありとあらゆる力を注ぎ込みましたが、魔法神の力なくしては、スキルレベル1では1枠が限界でした……」
つまり、例えば私が死ぬ寸前でセーブしたりしたら、詰む――いや、終わることすらできず、無限に死に続けることに……。オレのそばに近寄るなああーッ、って叫びそう。黄金の風が吹きそう……。
「……き、気をつけます……ところで、魔法神様は手を貸してくださらなかったのですか?」
「ええ……あなたに転生して頂く世界の歴史やあなたの使命なども含め、それを今から説明します」
要約すると、こうだ。
私が今から送り込まれる世界には全能神ゼニス様を含め12柱の神々がいて、その中でも魔法を司る魔法神様が問題児。
魔法神様は魔力至上主義。
人族、魔族、獣族、エルフ族、ドワーフ族の中で最も魔力に秀でた魔族を優遇し、逆に最も魔力に劣る人族を根絶やしにしようとしているのだそうだ。
魔法が苦手っていうと獣族のイメージなんだけど、獣族は魔力で身体能力や五感・第六感を研ぎ澄ます方面で有能らしい。
肉体を持たない神は直接下界に手が出せない。そこで魔法神は魔族の王を己の使徒にし、力を与えて人族の国々を侵略させた。
他の神々は多種族融和主義だけど、神々は互いに争えないルールになっていて、直接、魔法神の行いを止めることができない。
そこで女神様が用意したのが【勇者】。
今まで何人もの【勇者】と【魔王】が神々の代理戦争を行ってきたわけだ。なお、勇者と魔王は当代に各一名、という縛りがある模様。
全能神って言っても、いろいろと制限があるんだね。
……ああっ女神さまっ、そんな睨まないで……。
でも怒ったお顔も可愛い! ぐへへ……。
神々はそれぞれ己の使徒にチートなステータスやスキルを盛りに盛らせて戦わせたが、勇者率いる人族よりも魔王率いる魔族の方が魔力腕力体力で圧倒的に優れているため、人族は負け越してきて、大陸の端の端まで追い詰められてしまった。
なお、人族・魔族以外の種族は、魔族に隷属させられているか、魔族の手の及ばない大陸の端で縮こまっているもよう。アフレガルド王国でも少数生活している。
っていうかアレ○ガルド……げふんげふん、アフレガルド王国を作った人、絶対転生勇者でしょ。
……このままでは駄目だ。
これまでの『カンストした攻撃力』とか、『超広範囲高威力の破壊魔法』とかを勇者単体に与えただけでは全く勝ち目がない。
そこで考え出した奥の手が【ふっかつのじゅもん】。
「時空神、その他神々の総力をかけて創り上げた、最強最高の魔法です。何回負けようが何回死のうが、勝つまで復活するのです。いつかは勝てます。必ず勝ちます!」
女神様の目が血走っている。
「……で、でもそれ、勝つ前に燃え尽きて廃人になったりしませんか……?」
「そのためにあなたを選んだのです! 根っからのゲーム脳! 異世界転生に憧れて、作家志望だった頃は異世界転生モノばかり書いていて。ええと……魚のホネで作った磁器?」
「それはフィッシュボーン……じゃなくてボーンチャイナ。動物の骨を混ぜた陶器で、今までにない白さを出せたことからイギリスでバカ売れしたっていう」
「それに黒と白の仔牛を交互に配置するというビバ・牛?」
「リバーシ……オセロですね。女神様、だいぶ間違ったご認識を……」
「と、とにかく! そういう異世界転生モノの定番を駆使すれば、軍資金集めや人脈作りの助けになりそうじゃないですか!
それに、魔法の発動にはイメージ力が重要ですからね。夜な夜な自作の呪文を詠唱しながら魔法のエフェクトを事細かに妄想するようなあなたなら、きっとすぐに覚えるでしょう!」
ぐわあああっ! 人の黒歴史を掘り起こさないでくださいぃ!!
「あとは天性の能天気さ。ご自身の死を5秒で受け入れる人がいるとは、思ってもみませんでした。――そして、見ず知らずの子供を、命を張って助けられる善性」
女神様の女神様っぽい微笑み。
……照れますな。
「自分の命にあまり頓着がないところも地味に重要です。これからのあなたの人生は、繰り返し前提の死にゲーなのですから……。
あ、でも念のため、転生時の称号に【能天気】と【不屈】を付与しておきますので。これで、何千年だろうが何万年だろうが戦えるはずです!」
「な、なんまんねん……。
で、では、転生の前にいろいろと教えてください。これから向かう世界のこととか、転生先の国のこととか、魔法のこととか、スキルのこととか……」