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世界岩石割り選手権

 バキューン!!

 その飛翔型ロボットは宙を舞った。鮮やかな弧を描くと、直径5メートを超える岩石に向かってパンチを繰り出したのであった。

「すごい、今回はどうでしょう!」

 アナウンサーはおもわずマイクを掴んで叫んでいた。

 次の瞬間、ボキッという乾いた音がしてロボットの腕はチギれて吹っ飛んでいった。

「ああ・・・・・・またもや失敗です。これでロボット枠の選手は完全にいなくなりました。関根さん、これは意外な展開になりましたね」

「はい、これでは全世界注目の『世界岩石割り選手権』が成立しませんな」

「はあ・・・・・・」悄然しょうぜんとしたアナウンサーが肩をガックリと落とした。「なにしろこれって生放送ですからね。困ったもんです」

「しかしですよ。まだあの男が残っているじゃないか」

「・・・・・・といいますと」

大巌頑鉄おおいわがんてつ

「あの伝説の格闘家の大岩ですか。でも相当ブランクがありますよね。だいじょうぶなんでしょうか?」


 その日、大巌頑鉄はいつになく燃えていた。

 炎がうごめいているような、壮大な力が全身にみなぎるのを感じる。彼は異種格闘技では、当時負けなしの達人なのであった。

 だが13年前、テレビ企画『世界岩石割り選手権』でまさかの敗北。その後、忽然こつぜんとメディアからその姿を消してしまっていたのだ。

 山籠やまごもりをして幾年月いくとしつき、仙人と化した拳法家は、今では手刀でどのような石でも割れるようになっていたのだ。

「ロボットなんぞに負けるものか!」


「お待たせしました。今度こそ世紀の一瞬の時がやってまいりました!」

 テレビアナウンサーも、ここはもう自棄やけっぱちである。とにかく番組を盛り上げようと必死であった。「忽然と姿を消した天才拳法家が、いま帰って参りました。大岩厳鉄、その人です!・・・・・・今回はやってくれるでしょうか。解説の関根さんいかがですか?」

 遠くで大巌頑鉄の横断幕おうだんまくを持ったファンクラブの連中が大騒ぎをしている。

「いやあ、どうでしょうね。なにしろブランクがありますからな。しかしですよ、普通の人間ではまず不可能でしょうが、なにしろあの大岩の気迫ですからね。今回ばかりはやってくれるんじゃないですか」

「しかし関根さん、岩石は直径5メートルを優に越えていますよ。どんなロボットでも太刀打ち出来なかった経緯があります。本当にだいじょうぶなんでしょうか?」

「まあ、見てみましょうよ」


 拳法家の燃える瞳がカッと見開いた。「チィエストォ!」気合いもろとも大巌が宙高く跳んだ。

「跳びました。大巌頑鉄、渾身のジャンプ!」

 次の瞬間、上空から加速された手刀は5メートルの岩石を、なんとまるで大根でも切るかのようにスタンと切り裂いてしまったではないか。

「大巌やった!」


 その直後である。

 ものすごい地響きと共に、民衆は今世紀最大の衝撃に襲われたのだった。

 ・・・・・・拳法家は、勢いあまって違うものまで“真二つ”にしてしまったのだ。

 そう、地球だってある意味では“石のかたまり”だったのである。

 テレビ画面には這々《ほうほう》のていで逃げ惑う、アナウンサーと応援団の姿が映し出されていた。

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