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いい女センサー

「お坊ちゃま。この『いい女センサー』をお持ちください」

 執事の宗丘むねおかがそう言って小さな箱状のものを差し出した。

「いい女センサー?宗丘、なんだこれは」

「よろしいですかお坊ちゃま」

「そのお坊ちゃまはやめろよ。ぼくはもう二十歳の大人だぞ。いつまでも子供扱いしないでくれ」

「かしこまりましたお坊ちゃま」

「・・・・・・」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ぼくと宗丘は街に繰り出した。この機械の性能を確かめるためだ。

 すると、前からものすごくスタイルのいいミニスカートの女性が歩いて来た。ぼくは思わず機械に見入った。ところが何の反応も示さない。

「おい宗丘。これ壊れてるんじゃないのか。ちっとも反応しないじゃないか」

「そんなことはございません。今すれ違ったご婦人は、きっと見てくれは良くてもいい女とは言えないのですよ」

「そんなことあるか。かなりいい女だったぞ」

「お坊ちゃま。いい女はあんなに厚化粧をしないものですよ。シンプルなナチュラルメイクをしている女性が本当のいい女と言えるのでございます」

「ふん。そんなものかね」

「さいでございます。それにあの下着が見えそうで見えないきわどい超ミニスカート」

「グッとくるじゃないか」

「たしかにスタイルはよろしゅうございます。ですがセンスが問われます。もちろんミニスカートでも身だしなみがよろしければ問題ございません。あのスカートの上に、キャメルのロングコートなんぞ羽織っておられましたらよろしかったのかと・・・」

「そんなものかね」

 どうも執事はこの機械を使って、ぼくの嫁さがしをするつもりなのだ。大企業の跡取り息子の嫁に、おかしな娘をめとられたのでは、先行きが危うくなってしまうからということらしい。

「どうでもいいけど、麗良れいらじゃだめだったのか?」

 ぼくはガールフレンドの名前を口にした。

「お坊ちゃま。麗良さんはいけません。だいいち落ち着きがなくて、人と会話するときにちゃんとひとの眼を見て話すようでなくては。しかもすぐに感情的になられますし」

「要するにまだ子供ガキだって言いたいんだろう。宗丘が教育してくれればいいじゃないか」

「そういう訳には参りません。人には持って生まれた性分というものがありますから」

「どうでもいいけどね。こんなことしていても、結局いい女なんていつまで経っても見つからないと思うけど」

 と、そのときいい女センサーのLEDランプが緑色に点灯し、反応音が鳴りだした。

 前方から近づいて来たのは、清楚な服装で引き締まったスタイル、それにシンプルな化粧をほどこした綺麗な長い髪の女だった。彼女は口もとに微笑ほほえみをたたえて、ゆっくりと会釈をして通り過ぎようとしていた。

「お坊ちゃま。あちらのご婦人こそ理想の女性でございます。お声をお掛けしませんと」

「よしわかった」ぼくは彼女を呼び止めた。「失礼ですが・・・・・・」

 綺麗な髪がふわりと揺れた。

「なんでしょう」

 野に咲く花のような微かな薫りがぼくの鼻腔をくすぐった。

「あの・・・・・・ぼくは富士財閥の竹久たけひさというものですが、いかがでしょう。少しだけあなたとお話をしたいのですが」

「富士財閥・・・・・・あの有名な?」

「そうです」

「ご遠慮しておきますわ。先を急ぎますので」

 そう言うと女はきびすを返して去って行ってしまった。

「宗丘。ひとこと言っていいかな・・・・・・」

「なんでございましょう」

「いい女がみつかったからと言って、必ずしもぼくのことを気に入ってくれるって保証はないだろう。いや、むしろ財産なんかに目がくらまないからこそいい女なんじゃないのか?」

「・・・・・・おっしゃる通りです」

 ぼくと宗丘は、さっそうと遠ざかる彼女の後ろ姿を呆然ぼうぜんとして見送った。


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 冴子さえこは歩道を歩きながら呟いた。

「これ、なかなか反応しないのね」

 彼女の手には『いい男センサー』が握られていた。

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