「お母さん
スーパーの品出しをしていた
「どうしたの。恵令奈に何があったの?」
「それが・・・・・・それが・・・・・・」多実子はぶるぶると唇を震わせた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「早いものねえ。恵令奈も小学生になるんだねえ」
嘉代子は、末っ子の恵令奈が真新しいピンクのランドセルを背負っている姿をみて思わず涙ぐんだ。スーパーを経営していた夫を早くに亡くし、嘉代子は女手ひとつで二人の娘を育てて来たのである。
今では嘉代子はスーパーマーケットの女社長として店をキリモリしていた。長女の多実子はすでに中学二年生だが、次女の恵令奈はだいぶ後に産まれた子供である。まだ幼稚園だった恵令奈は、いつも大人になったら嘉代子の仕事を手伝うのだと言っていた。恵令奈はスーパーマーケットの仕事が大好きだったのだ。
「おばあちゃんに見せてくる」
「車に気をつけて行くのよ」
「はあい」
恵令奈はランドセルに、クマのぬいぐるみを詰めると、近所に住む嘉代子の母親のアパートに向かった。
恵令奈はよたよたと、ランドセルを左右に揺らしながら歩いて行った。恵令奈がランドセルを背負っているというより、ランドセルが恵令奈をかかえているようにしか見えない。
横断歩道のある交差点にさしかかる。恵令奈は元気よく手をあげて渡りだした。そこへ、タンクローリーがスピードを緩めずに疾走してきた。
一瞬、恵令奈の目と運転手の目が絡みあった。運転手の目が、大きく見開かれた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「・・・・・・それで、止まり切れないタンクローリーを、片手で受けとめてそのままあなたの家までぶん投げたと」
「そうなんざんす」
逆さまになったタンクローリーが突っ込んで屋根を
「それで、そのタンクローリーを投げ飛ばした女の子はどこへいったんです?」
「なんだか、おばあちゃんにランドセルを見せに行くんだって、さっさと行っちゃったのよ。たしかあの子、あそこのスーパーの娘じゃなかったかしら」
「はは、将来の“スーパーガール”ですな」
「笑いごとじゃなくってよ。お巡りさん」