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パック

「これって光化学スモッグかしら?」

 みやびが窓から顔を出して空を見上げる。

「中国から飛来する黄砂こうさのせいじゃないのか」

 太郎もうらめしそうに上空をにらんでいる。まるで鉛でも貼りつけたかのような、どんよりとした暗い空だった。

「おい、これを観てみろよ。世界中どこの国もこんな天気らしいぞ」

 亮介りょうすけはパソコンでネットニュースを開いている。

「ずっとこの状況が続いたら地球はどうなってしまうのかしら・・・・・・」

 雅は眉をひそめた。


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 世界は厚いカーテンで閉ざされたように、暗い毎日を送ることになってしまった。

 各国の有識者は、これによって世界的な食糧不足の発生を予測した。全世界で食料の争奪戦が始まりつつあった。ところが数か月後、当初騒がれた農作物への影響は微々たるものであることが判明した。

「これはどうしたことでしょう?」

 テレビのキャスターが、あごに白い髭をたくわえた学者の先生に質問をしている。

「まったく不可解な現象です。日光が妨げられたら当然のことながら農作物は育たなくなり、それにより畜産の餌になる草も枯渇したはずです。海から水蒸気が上空に上がらないので、雨が減少します。そして各地で干ばつの被害が出ると考えるのが普通なのです」

「では、考えられる原因はなんでしょうか?」

「今まで人類が経験したことのない自然現象が起きているのかもしれません」

「と、言いますと?」

「地球の自己防衛本能です」

「自己防衛本能?」

「そう、われわれ人類が地球に与えたダメージを、地球が自分の力で修復しようとしているのかもしれないということですよ」

「とても信じられません。そんなことってあるんですか」


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「アースさん。もういいんじゃないの」

 月が地球を横目でにらむ。

「あらムーンさん。もう少しやらせてよ。人間のおかげでお肌がガサガサなんだもの」

「あなたのところは害虫がウヨウヨいるからね。でも、あたしに比べたらあなたなんか綺麗なものよ。見てよ、わたしの顔。デコボコなんですからね。ちょっと貸りるわね」

「あ。ずるいわ」

 月は素早く手を伸ばすと、地球のパックをめくり取ってしまった。


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「あ、空が急に晴れたわ」

 雅がまぶしそうに空を見上げる。

 パックのがれた地球の顔はだいぶよみがえってみえた。

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